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『ミケと黒い煙』

作者: 沁みた大根
掲載日:2026/08/04

2084年。


人間の感情までAIに管理される時代。


「怒らない」

「落ち込まない」

「効率よく幸せになる」


それが正しい生き方だと言われていた。


そんな街の片隅に、一匹の猫型ロボットがいた。


名前はミケ。


問題だらけの猫だった。


部屋は散らかっている。

仕事はよく忘れる。

朝はいつもギリギリ。


そして何より――


タバコ型の古いリラックス装置を手放せなかった。


「また吸ってるの?」


隣人のユウが呆れる。


ミケは煙を眺めながら言った。


「これがないと、頭の中がうるさいんだよ」


AIはすぐ警告した。


『依存行動を検出。改善を推奨します』


ミケは笑った。


「知ってるよ。だから困ってるんじゃん」


完璧な人間なら、すぐやめられる。


でもミケは完璧じゃなかった。


何度も失敗して、

何度も「明日から変わる」と言って、

結局また同じ場所に戻ってくる。


そんなミケを、人々は馬鹿にした。


「自己管理もできない猫だ」


「未来社会についてこれない存在だ」


でもある日、AIが停止した。


街中の人間が不安になった。


何を食べればいい?

何を選べばいい?

何を感じればいい?


誰も自分で決められなくなっていた。


その時、ミケが言った。


「大丈夫だよ」


「失敗したって、生きてはいけるから」


「俺なんか毎日失敗してるし」


人々は初めて気づいた。


一番不完全だったミケが、

一番「人間らしく」生きていたことに。


その夜、ミケはベランダで煙を眺めた。


「いつかはやめられるかな」


ユウは答えた。


「たぶんね」


「でも、その前に少しずつ自分を好きになればいいんじゃない?」


ミケは笑った。


「それなら、明日から頑張る」


ユウはため息をついた。


「それ、昨日も聞いた」


街には小さな笑い声が響いた。


完璧じゃない存在にも、

居場所はある。


それが、この世界が忘れていたものだった。

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