成長と葛藤と 【月夜譚No.409】
ふと見た背中が大きく見えた。自分より先を歩く大きな壁――とまでは流石にいかないが、彼はこんなにも頼もしかっただろうか。
出会った頃はまだ彼女の胸元辺りまでの上背しかなく、あどけなく笑っては女の子のような愛らしい瞳にキラキラと様々なものを映していた。
それがこんなにも立派になっていたなんて、どうして気づかなかったのだろう。
彼女は歩を止め、街灯に照らされた足許を見つめる。サンダルを履いた自分の足は歳相応に成長したが、中身は何も変わっていない。子どもっぽくて我が儘で、彼のこともまだあの頃のままと勘違いしていた。
手の中でカサリとレジ袋が鳴る。ちょっとアイスを買いにコンビニまで行こうとしたら、自宅マンションの隣の部屋から偶々出てきた彼に夜だから一緒に行くと言われた。すぐそこだからと断ったのに、勝手についてきたのだ。
先ほどまで膨らみかけていた不平が一気に萎んでいく。自分の子どもっぽさに嫌気が差して、自然と唇を尖らせた。
「どうしたの?」
顔を上げると、彼が目の前にいる。不思議そうに小首を傾げて、昔と変わらない笑顔を浮かべた。
「早く帰らないと、溶けちゃうよ」
唇が引っ込む。返す言葉も出てこない。
彼女はただ頷いて、彼を追い越した。こんな風に、簡単に先へ行けたら良いのに。
(ああ、何かもう……ずるい……)
心の中の呟きは、一生秘密にしておこうと誓った。




