賢者編 ③
迷宮のさらに深く。
5匹の毒蜘蛛が、壁や天井を這いながら迫ってきた。
よし、出番ね。私はいつものように杖を構え、美しい独壇場を始めようとした。
「来たわね。ゴルド、前進して盾を斜め上段に構え――」
私が言い終わるより先に、アルスが二人に何かを…。
「任せろッ!」
ゴルドの巨体がかつてない速度で右前方へ飛び出していた。
「え……?」
私の声が宙に浮く。
ゴルドは私の指示を無視し、
落ちてきた毒蜘蛛の一匹を盾の側面で弾き飛ばした。
間髪入れず、ザックが壁を蹴って跳躍し、
空中にいた蜘蛛の急所を的確に双剣で貫く。
「ザック、右壁の二匹は任せた!」
「おうよ! 体が自由に動く!」
二人の動きは水流のように滑らかで、一切の迷いがなかった。
研ぎ澄まされた身体能力で戦っている。
あっという間に、5匹の毒蜘蛛は沈黙した。
私はただの一度も、魔法を詠唱する隙すら与えられなかった。
「よっしゃ! やったぜ!」
「なんか、敵の動きにすぐ反応できたな!」
【ゴルド:精神的疲労 88→20、クレアへの依存 80→50、自己肯定 90】
【ザック:ストレス 75→30、クレアへの依存 75→40、万能感 85】
「……な、なによ今の動きは! 指示を待たずに動くなんて危険すぎるわ!」
私の存在価値を揺るがされる強烈な焦燥感が胸をかきむしり、
ヒステリックな声が出る。だが、二人はケロッとしていた。
「でも勝てたし、怪我してねえしよ。
正直、今まで通り自由にやった方がよっぽど早ぇ」
「なんですって……っ!?」
【クレア:優越感 100→80、自己愛 90、焦燥感 40】
「アルス…あなた、二人に何か吹き込んでたでしょう!」
私はアルスをキッと睨みつけて言った。
「いえ……僕はただの初級の身体強化をかけさせていただいただけです。
彼らが勝手に動けたのは、クレアさんの普段の完璧な指導の賜物ですよ」
アルスは悪びれる様子もなく、淡々と語った。
天才たる私が与える完璧な指示が、
子供にでも出来る簡単な補助魔法程度に負けたと言うのか?
証明しなければ。私がこのパーティーの『神』であることを。
崇めるべきは誰なのかを、絶対に思い知らせてやらなければ。




