賢者編 ②
賢者とは私のための称号である。
魔法院時代、私は凡人であったが、あるときを境に才能が開花した。そこからは順風満帆、そのものであった。
偉そうに講釈を垂れていた教授たちは次々に跪き、私の才能に嫉妬した。王族や有力貴族たちもそうだ。自信と共に磨かれたこの容姿を含め、私を放っておかなかった。
私に足りないのはただ一つ、実績だ。
適当なパーティーを結成してから二度目の迷宮探索。手練れということだったが、二人は足を引っ張ることしか考えていない。しかし、アルスという支援役を加えたことにより、上手く回り始めている。
この薄汚れた場所から早くおさらばして、私は更に上を目指す。
この世界は私を中心に回っているのだ。
「ゴルド、前方から軟魔3体! 盾を水平に展開! ザックは左壁を蹴って背後に回り込みなさい! 攻撃までは3.5秒待機よ!」
薄暗い迷宮の通路で、私は淀みなく完璧な指示を出した。
現れたのは強力な酸を吐く変異種。さらに左の壁には奴らの粘液が張り付いている。盾を水平に構えれば酸が表面を伝って腕を焼き、壁を蹴ろうとすれば無様に滑り落ちるはずだ。
「あっつ!? くそっ、酸が回り込んで…!」
「おい、壁が滑るぞ! この指示は無理だ!」
案の定、二人の間抜けな悲鳴が響く。
本当に使えない。
私のような天才がいなければ、軟魔1匹すら対処できない愚か者たち。絶好のタイミングで、私が魔法を放つ。
「…もうっ! だから私がいないとダメなのよ!『絶対防壁』!」
青白い魔法障壁が強酸を弾き返し、そのまま私が放った氷結魔法が軟魔を粉砕した。
ふふっ、完璧だわ。
彼らが失敗し、私が圧倒的な魔力で救い出す。これこそが私の美しい戦術図。
「はぁ…助かったぜ、クレア」
「間一髪だったな…」
冷や汗を流して私を見上げる二人の「絶対的な依存」。その視線が、私の自尊心を甘く満たしていく。彼らを私なしでは生きられないように依存させる。
これが私の最適解。
【ゴルド:疲労 80、クレアへの依存 80】
【ザック:焦燥 70、クレアへの依存 75】
「私の計算は完璧だった。あなたたちの実行力が追いついていないだけよ。ほら、さっさと歩きなさい。あなたたちの回復にリソースを割くのは予定外なんだから」
憐みを込めて告げ、背を向けたその時、視界の端のアルスが恭しく頭を下げた。
「クレアさんの計算の深さに感服するばかりです。僕の支援など、あなたの完璧な防御の前では無用の長物ですね」
【クレア:優越感 95→100、アルスへの信頼 80】
「ふふっ、分かっているじゃない。あなたは私の計算式の一部として機能していればいいの」
私は気分良く笑い、迷宮の奥へ進む。ゴルドとザックという愚かな舞台装置。そして、私の指示に無批判に従うアルスという完璧な歯車。
この形が崩れることなど、絶対にあり得ないのだから。
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