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EP 9

魔獣の森の実地研修

 翌日。

 ルナミス学園特進クラスの一行は、太郎国が管理する『初級ダンジョン・碧の森』を訪れていた。

「いいか、今日の課題は『連携パーティプレイ』だ。スライムやゴブリン相手に、教科書通りの陣形が組めるか確認する。……怪我するなよ」

 担任のクルーガが、あくび混じりに諸注意を告げる。

 生徒たちは遠足気分だった。

 ここは管理された安全地帯。出現する魔獣もFランク程度の雑魚ばかりだ。

「ふふん、僕の剣技を見せるまでもないですね」

 クラウスが白銀の鎧を煌めかせ、余裕の笑みを浮かべる。

「今日は『ポーションガチャ』のピックアップ日なの! 毒消し草が出たらハズレよ!」

 リリスは森の中でもスマホを片手にガチャ画面を連打している。

「みんな~! 今日の配信は『森ガール風』にお届けするよ☆」

 キュララは自撮り棒を掲げ、視聴者に愛想を振りまいていた。

 そんな中、最後尾を歩くダダだけが、異様な雰囲気を纏っていた。

 裸足で音もなく地面を踏みしめ、鼻をヒクつかせている。

「……臭うな」

 ダダの呟きを、近くにいたリアンだけが聞き取った。

「え? 何か臭いかい? 僕、今日はちゃんと無臭の洗剤を使ったんだけど……」

「違う。……『美味そうな餌』と、『不味そうな毒』の匂いが混ざってる」

 ダダの瞳孔が細まった。

 彼の嗅覚は、この森の奥深くに潜む異質な存在を捉えていた。

 ◇

 研修は順調に進んだ。

 クラウスがゴブリンを蹴散らし、魔法使いの生徒が援護する。リアンは目立たないようにナイフを投げてアシストに徹していた。

「よし、こんなものか。……ん?」

 クルーガがふと眉をひそめた時だった。

 ドササササッ!!

 森の奥から、無数の鳥たちが一斉に飛び立った。

 直後、地面が揺れるほどの重低音が響き渡る。

 グルルルルルル……ッ!!

 木々をなぎ倒して現れたのは、スライムでもゴブリンでもない。

 獅子の頭、山羊の胴体、そして尻尾が毒蛇になっている巨大な合成魔獣。

 中級上位モンスター『キメラ』だ。

「なっ……!? なぜ初級ダンジョンにキメラが!?」

「イレギュラーだ! 管理局のミスか!?」

 生徒たちがパニックに陥る。

 キメラは明らかに興奮状態だった。口からは炎を漏らし、蛇の尻尾がシャーッと威嚇音を立てている。

「みんな下がれッ!!」

 真っ先に動いたのはクラウスだった。

 彼は恐怖を押し殺し、盾を構えてキメラの前に立ちはだかった。

「僕が時間を稼ぐ! 先生を呼ぶんだ!」

 クラウスの騎士道精神。それは賞賛に値するが、相手が悪すぎた。

「ガアアアアッ!!」

 キメラの前足が、クラウスの盾を強打する。

 

 ガギィィィンッ!!

「ぐあぁっ!?」

 重い。ゴブリンとは次元が違う質量。

 クラウスは踏ん張るが、さらに尻尾の毒蛇が死角から襲いかかる。

「くっ!」

 クラウスはギリギリで回避するが、バランスを崩した。そこへ獅子の口から火球が放たれる。

 爆風に煽られ、エリート騎士が吹き飛ばされた。

「クラウス君!」

「いやぁぁぁ! こっち見ないでぇぇ!」

 リリスが悲鳴を上げながら、やけくそでガチャを回す。

 出てきたのは『金タライ』。

 カコーン! とキメラの頭に当たったが、怒らせただけだった。

「まずいですね……」

 物陰に隠れたリアンが冷や汗を流す。

 (僕が本気を出せば殺れる。でも、暗殺術を見せれば正体がバレる。……クソッ、どうする!?)

 キュララの配信カメラも、揺れる映像と共に絶望的な状況を映し出していた。

 『逃げろ!』

 『先生どこいった!?』

 『死ぬぞこれ』

 キメラが次の獲物を定めた。

 動けなくなったクラウスだ。

 巨大な顎が、彼を噛み砕こうと大きく開かれる。

「終わり……か……」

 クラウスが目を閉じた、その瞬間。

 ドクンッ。

 戦場に、場違いな音が響いた。

 心臓の鼓動ではない。

 それは、空腹の捕食者が、極上の獲物を前にして鳴らした『喉の音』だ。

「……待ってたぜ」

 風が吹いた。

 キメラとクラウスの間に、小柄な影が割り込む。

 ダダだ。

 彼は恐怖など微塵も感じていなかった。

 むしろ、その目は爛々と輝き、口元からは涎が垂れている。

「昨日のネズミ(マーラット)じゃ、腹八分目だったんだ」

 ダダの身体から、湯気のような闘気が立ち昇る。

 昨日の暴食と、8時間の睡眠。

 それによって同化インストールされた能力が、今まさに解き放たれようとしていた。

「グルッ!?」

 キメラが本能的な警戒を示し、動きを止める。

 野生の勘が告げていた。

 目の前のチビは、人間ではない。

 もっと上位の――『何か』だと。

「いただき……ますッ!」

 ダダが地面を蹴った。

 その速度は、昨日までの彼とは桁違いだった。

 ドブネズミの俊敏さを上乗せした、超高速の狩猟劇が幕を開ける。

 次回、暴食適合アダプト・イーター覚醒!

 野生児が合成魔獣を「解体」する!

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