表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

EP 7

エリート騎士の受難(VSクラウス)

 ルナミス学園が誇る、巨大なドーム型演習場。

 魔法障壁で覆われたこの場所で、特進クラスの『対人戦闘訓練』が始まろうとしていた。

「次。ダダ、前へ出ろ」

 担任のクルーガが、気だるげにリストを読み上げる。

 ダダはあくびを噛み殺しながら、砂の撒かれたリングの中央へと歩み出た。

 制服のネクタイは既にどこかへ放り投げ、シャツのボタンも全開だ。

「対戦相手は……クラウスだ」

 その名が呼ばれた瞬間、クラスの空気が変わった。

 生徒たちの間から「おおっ……」というどよめきが漏れる。

「承知しました」

 凛とした声と共に、一人の少年がリングに上がった。

 クラウス・アルヴィン。

 金髪碧眼、成績トップの優等生にして、アルヴィン侯爵家の嫡男。

 彼はダダとは対照的に、訓練用の白銀の鎧を完璧に着こなし、木剣を正眼に構えていた。

「ダダ君。君の野蛮な振る舞いは、目に余る」

 クラウスは冷徹な眼差しでダダを見据えた。

 初日の咆哮事件、そしてリアンやリリスを巻き込んだ騒動(と噂されている)。

 規律と正義ノブリス・オブリージュを重んじる彼にとって、ダダは排除すべき『カオス』そのものだった。

「この模擬戦で、君に『騎士の戦い方』というものを教育してやる。覚悟したまえ」

「……? お前、俺を食うのか?」

 ダダは首を傾げた。

 彼にとって戦いとは『捕食』か『防衛』しかない。

「野蛮な……! 試合だと言っているんだ!」

 クルーガが手を挙げた。

「ルールは簡単だ。一方が降参するか、戦闘不能になるまで。……始めッ!」

 開始の合図と同時、クラウスが動いた。

「シッ!!」

 速い。

 教科書通りの、しかし極限まで研ぎ澄まされた踏み込み。

 木剣が風を切り、ダダの肩口を狙って振り下ろされる。

 クラスメイトたちが息を呑むほどの鋭い一撃。

 だが――。

 フッ。

 ダダは最小限の動きで、半歩だけ横にずれた。

 木剣がダダの残像を切り裂き、空を切る。

「なっ……!?」

 クラウスは目を見開いた。

 偶然ではない。ダダはあくびをしたまま、まるで散歩でもするかのように避けたのだ。

「遅い」

「ぐっ……! まだだ!」

 クラウスは追撃する。

 突き、払い、袈裟斬り。流れるような連撃は、まさに剣術の芸術品。

 しかし、当たらない。

 ダダはゆらりゆらりと体を揺らし、その全ての刃を紙一重でかわし続けている。

(なぜだ!? 僕の剣筋は完璧なはずだ! なぜ当たらない!?)

 クラウスの額に焦りの汗が滲む。

 ダダにとっては、理由は単純だった。

(こいつの動き……『綺麗』すぎる)

 野生の魔獣は、生き残るために不規則に動く。

 泥をかけ、噛みつき、死んだふりをする。

 だが、クラウスの動きには『型』がある。呼吸のリズム、足の運び、視線の動き。全てが規則的で、次に何をするかが手に取るようにわかってしまうのだ。

「お前、ダンスでもしてるのか?」

 ダダの無邪気な一言が、クラウスのプライドを逆撫でした。

「ダンスだと……!? 僕の剣技を愚弄するかァッ!!」

 クラウスの全身から、バチバチと青白い火花が散った。

 雷属性魔法と闘気の融合。彼が天才と呼ばれる所以たる奥義だ。

「見せてやる! これがアルヴィン家に伝わる必殺剣……!」

 木剣が眩い光を帯びる。

 そのエネルギー量に、観客席のリアンが「うわ、マジかよ」と顔をしかめた。

雷光断ライトニング・ブレイクッ!!!」

 クラウスが地面を蹴った。

 雷速の如き突進。反応速度を超えた一撃が、ダダの胴体を薙ぎ払う――はずだった。

 だが、ダダは見ていなかった。

 剣ではなく、クラウスの『足元』を。

(来るなら、真っ直ぐ来るよな。お前はそういう奴だ)

 ダダは避けない。

 その代わりに、四つん這いの姿勢で地面スレスレに潜り込んだ。

 食べた『イノシシ型魔獣』の突進スキルを発動。

「がおぉぉぉッ!!」

 ダダの頭突きが、必殺技を放つために踏み込んだクラウスの腹部に、カウンターで突き刺さった。

 ドゴォォォォォンッ!!

「がはっ……!?」

 魔法の発動が中断される。

 クラウスの体はくの字に折れ曲がり、砲弾のように吹き飛んだ。

 そのまま砂煙を上げながら地面を転がり、演習場の壁に激突して止まる。

 シーン……。

 演習場が静まり返った。

 あの天才クラウスが、魔法も剣も使わない『頭突き』一発で沈められたのだ。

「う……うぅ……」

 クラウスは瓦礫の中で呻いた。

 自慢の白銀の鎧は泥と砂にまみれ、整った髪もボサボサだ。

 屈辱。敗北感。

 彼が這いつくばろうとしていると、目の前に裸足の足が現れた。

「……おい」

 見上げると、ダダが立っていた。

 見下ろされている。止めを刺されるのか。

 クラウスが身構えた時、ダダは懐から何かを取り出した。

「食うか?」

 差し出されたのは、ポケットに入っていた『木の実(渋いやつ)』だった。

「……は?」

「腹減ってると、力が出ねぇぞ。お前の動き、最後はスタミナ切れだったな」

 ダダは悪気なく言った。

 戦術の読み合いでも、技の優劣でもない。

 ただ単純に、「生物として弱い」と言われたのだ。

「ふ……ふざけるな……!」

 クラウスはダダの手を払い除けた。

 だが、その目には涙が溜まっていた。

「僕は……負けてない! 剣術試合なら僕が勝っていた!」

「そうか? 殺し合いなら、お前は最初の3秒で死んでたぞ」

「ぐぬぬぅ……ッ!」

 反論できない。

 綺麗な剣技だけでは、本物の野生には勝てない。

 泥にまみれたクラウスは、初めて『実戦』の重みと、自分の未熟さを噛み締めた。

「勝者、ダダ!」

 クルーガの声が響く。

 ダダは「ちぇっ、肉じゃねぇのか」と呟きながら、砂を払って戻っていった。

 その背中を睨みつけながら、クラウスは誓った。

 (覚えていろ、ダダ……! 次は必ず、その野生を僕の『王道』でねじ伏せてやる……!)

 エリート騎士の受難の日々は、まだ始まったばかりである。

 そしてダダには、猛烈な睡魔(順応時間の予兆)が迫っていた。

 次回、ダダが授業中に爆睡!

 しかしそれは、新たな能力への進化の準備だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ