EP 6
テント村の晩餐会とT-チューバー襲来
夕暮れ時のテント村。
普段は静かな河川敷が、今日は異様な熱気に包まれていた。
ズズズズズ……ッ。
巨大な質量を引きずる音が響く。
ダダが帰ってきたのだ。その背後には、体長5メートルの巨大ドブネズミ魔獣『マーラット』の死骸と、リリスのガチャで出た大量の『アヒルのおもちゃ(100個)』が繋がれている。
「た、ただいま……」
ダダの声は少し枯れていた。ドブ掃除と戦闘、そして重量物の運搬で体力を使い果たしていたのだ。
だが、その獲物を見た瞬間、テント村の住人たちが色めき立った。
「おい見ろ! 今日も大物だぞ!」
「ネズミか……? だが、あれだけの肉があれば三日は食える!」
真っ先に飛び出してきたのは、やはりこの二人だった。
「ダダァァァッ!! でかしたぞ我が同胞よ!」
イグニス(無職)が、バサァッと翼を広げて駆け寄る。その手には『焼肉のタレ(賞味期限切れ)』が握られている。
「マーラット……下水道の主ね。衛生面が心配だけど、背に腹は代えられないわ!」
リーザ(極貧アイドル)も、パンの耳をポケットにねじ込み、ナイフとフォーク(100均)を構えてスタンバイしていた。
「おう。今日は『ネズミの丸焼き』と『アヒル風呂』だぞ」
ダダはマーラットを広場にドスンと下ろすと、手際よく解体作業に入った。
皮を剥ぎ、内臓を取り出し(ここは慎重に埋める)、可食部の赤身を切り出す。
豪快な焚き火の上に、巨大な肉塊が並べられた。
ジュウウウゥゥ……ッ!!
脂が滴り、野生的な香りが立ち込める。
それは決して上品な匂いではないが、空腹の獣たちにとっては最高のアロマだった。
「い、いただきますッ!」
イグニスとリーザが、半生の肉に食らいつく。
「熱っ! うまっ! ……ちょっと泥臭いが、タレをつければ高級ステーキだ!」
「んぐッ……! 筋肉質で硬いけど、噛めば噛むほど命の味がするわ……!」
二人が貪り食う横で、ダダも骨付き肉を齧る。
(……うまい。だが、昼に食った『マンガ肉』とは違うな。こっちは生きるための味だ)
そんな野生の宴が最高潮に達した、その時だった。
ピロリン♪
『配信を開始しました☆』
上空から、場違いに明るい電子音が降ってきた。
「はいはーい! 全世界の良い子のみんな、こんキュラ~☆ 大人気T-チューバーのキュララだよっ!」
バササッ!
白い翼を羽ばたかせ、一人の天使が舞い降りた。
片手には自撮り棒(魔導カメラ付き)、もう片手には照明用の光魔法。
フリフリの衣装に身を包んだ美少女天使、キュララだ。
「今日はなんと! あの『ルナミス学園』に現れた野生児、ダダくんの私生活に突撃密着しちゃいまーす!」
カメラがダダたちの宴を捉える。
コメント欄が爆速で流れた。
『うわ、ガチで野宿?』
『あの肉なに? グロくね?』
『後ろのドラゴン、イケメンじゃね?』
「なっ!? 貴様、何者だ!?」
イグニスが反応した。カメラを向けられた瞬間、無職のプライドが発動する。
「ふっ……俺様はイグニス・ドラグーン。高貴なる竜人の戦士だ。……ちなみに、現在はフリーランス(無職)で、パトロン(就職先)を募集中だ!」
イグニスは髪をかき上げ、キメ顔を作った。カメラ目線でポージングを決めるが、口元に焼肉のタレがついている。
「ひいぃぃっ!? カメラ!? ダメよ、事務所NGよ!」
一方、リーザはパニックになった。
(ここで私が『ネズミ肉を食らう極貧アイドル』だとバレたら、ファンが減る! いや、むしろ同情票でスパチャが増える……? いやいや、プライドが!)
リーザは咄嗟に、ダダが持ち帰った『アヒルのおもちゃ』の山に頭から突っ込み、顔を隠した。
お尻だけ出して震える姿が、逆にシュールでコメント欄を沸かせる。
『あの子、アイドルじゃね?』
『ケツだけ星人www』
「みんなキャラ濃いね~☆ さて、主役のダダくんは……?」
キュララがカメラをダダに向ける。
ダダは動じない。
ただひたすらに、巨大なネズミの頭部(カブト焼き)と格闘していた。
「……ん? なんだお前。鳥族か?」
ダダは口の周りを血と脂で汚したまま、カメラを覗き込んだ。
「天使だよっ! 失礼しちゃうな~。……ねえダダくん、そのお肉、美味しいの?」
キュララがあざとく首を傾げる。
ダダは無言で、食いかけの肉を差し出した。
「食うか?」
「えっ」
「うまいぞ。食えば強くなる」
ドアップで映し出される、ワイルドすぎる肉塊。
通常の配信者なら悲鳴を上げて逃げ出す場面だ。
だが、キュララはプロだった。
(……これは『撮れ高』の匂いがする!)
「わぁ~! ありがとう! いっただきまーす☆(ニッコリ)」
キュララは躊躇なく肉に齧り付いた。
ガブッ!
天使が、魔獣を食らう。そのギャップ。
「……んっ!?」
キュララの目が丸くなる。
「……意外とイケる! 泥臭いけど、噛みごたえがあってジューシー! みんなも食べてみて~☆」
コメント欄が爆発した。
『天使がゲテモノ食ったwww』
『ダダくんワイルドすぎ! 推せる!』
『スパチャ投げます! 肉代にして!』
チャリン、チャリンと投げ銭の音が鳴り響く。
それを見たリーザが、アヒルの山から顔を出した。
「ス、スパチャ……!? 肉を食うだけで……!?」
リーザの瞳に、嫉妬と羨望の炎が宿る。
「うるさい奴らだな。……ほら、もっと食え」
ダダは気にせず、次々と肉を配った。
イグニスがポーズを取り、リーザが悔しがり、キュララが食レポをし、ダダが黙々と食う。
奇妙な『闇鍋パーティ』の様子は、全世界に配信され、ダダの知名度を一気に押し上げることになった。
「ふぅ……腹いっぱいだ」
宴の後。
満足したダダは、大量のアヒルを川に浮かべ、即席の風呂に入りながら夜空を見上げた。
明日はどんな『獲物』が待っているだろうか。
その瞳は、すでに次の狩り(給食)を見据えていた。
次回、エリート騎士クラウスとの模擬戦。
野生の勘VS王道の剣技。勝つのはどっちだ。




