EP 7
影の仕事人リアン
倉庫内は、一方的な蹂躙劇となっていた。
「ウメェ! この『ぴざ』ってやつ、耳までチーズが入ってるぞ!」
ダダは戦闘など眼中にない。
すでに制圧したテーブルの上で、戦利品であるLサイズピザをホールごと折りたたみ、一口で頬張っていた。
悪党たちは、その食事風景を見るだけで戦意を喪失していた。「あいつ、俺たちのピザを……あんな笑顔で……」
「罪を憎んで人を憎まず! だが、騎士への狼藉は万死に値する!」
クラウスは一人一人に説教を垂れながら、雷撃で痺れて動けない相手を綺麗に並べて縛り上げていた。
(……化け物どもめ。今のうちにズラかるに限る!)
混乱の最中、窃盗団『赤蛇』のリーダーである男は、部下たちを見捨てて裏口へと這いずっていた。
プロの勘が告げている。こいつらはヤバい。関わったら組織ごと消滅する。
「あばよ! 金は全部俺が持って逃げてやる!」
リーダーは裏口の扉に手をかけた。
鍵は開いている。外には逃走用のバイクも用意してある。
勝った。逃げ切れる。
そう確信してドアノブを回した、その時だった。
コロコロ……。
足元に、カラフルな『玩具のボール』が転がってきた。
ゴム製で、子供が遊ぶような安っぽいボールだ。
「あん? なんだこりゃ……」
リーダーが蹴り飛ばそうとした瞬間。
カッ!!
ドォォォォンッ!!
ボールが閃光と爆音を放って炸裂した。
殺傷能力はない。だが、視界と平衡感覚を奪う『スタングレネード(玩具偽装)』だ。
「ぐあぁぁぁっ!? め、目がぁぁ!」
リーダーはのけぞり、無様に尻餅をついた。
視界がホワイトアウトする中、どこからともなく冷ややかな少年の声が響いた。
「……おや。トイレかい? それともお散歩?」
天井の梁の上。
暗がりに溶け込むように、リアンがしゃがみ込んでいた。
その手にはスリングショット(パチンコ)。表情は、昼間の温厚なクラスメイトの顔ではない。
かつて裏社会で恐れられた、冷徹な『仕事人』の顔だ。
「て、てめぇ……どこに居やがる!?」
「探さなくていいよ。君はそこで大人しく転んでいればいい」
ヒュンッ!
風切音。
リアンが放ったのは、特注の『ゴム弾』だ。
それがリーダーの膝の裏、神経が集中する一点に正確に突き刺さる。
「ぎゃっ!?」
足の力が抜け、リーダーはガクッと膝をついた。
まるで、自分の意思でひれ伏したかのような体勢。
「くそっ、何をしやがった! 呪いか!?」
「いいえ、ただの『不運』だよ。……君は運悪く転んで、運悪く逃げられなくなるんだ」
リアンは指先で次の弾を弄びながら、冷淡に告げた。
彼の仕事は『事故に見せかける』こと。
直接手を下した痕跡を残さず、相手を無力化する。それが彼の美学であり、正体を隠すための処世術だ。
「逃がすわけないだろ。君の首には、僕たちの今日の『晩飯代』がかかってるんだから」
その言葉には、ダダにも負けない執念(食い物の恨み)が篭っていた。
リーダーは恐怖した。
正面の暴れん坊たちよりも、姿を見せず、淡々と自分を追い詰めるこの少年の方が、数倍恐ろしいと。
「ひ、ひいぃぃっ! わかった、降参だ! 金ならやる! だから助けてくれぇぇ!」
「交渉決裂だね。……おやすみ」
リアンが最後の一撃を放とうとした時。
「往生際が悪いですわね! この悪党!」
正面からリリスの声が響いた。
逃げ遅れたリーダーを見て、彼女が「ここぞ」とばかりに前に出る。
「さあ、観念なさい! ……あら? あなた、人質になりそうな顔をしてますわね?」
リリスの発言に、リーダーの中に最後の悪あがきの火が灯った。
目の前にいるのは、フリフリのドレスを着た無防備な少女。
こいつを盾にすれば……!
「へ、へへ……! その通りだぁっ! こっちに来いガキィッ!」
リーダーが隠し持っていたナイフを抜き、リリスに飛びかかった。
梁の上のリアンが舌打ちをする。
「チッ……あのお嬢様、余計な挑発を!」
だが、リアンが援護するまでもなかった。
なぜなら、リリスには『勇者と聖女の加護(という名の悪運)』と、例のシステムがついているからだ。
次回、リリスの善行ガチャが暴走!
人質作戦に出た悪党を襲う、理不尽な「ハズレ枠」の嵐!




