EP 6
悪党どもの誤算
土煙が晴れた倉庫の中。
鉄の扉の下敷きになった見張りのうめき声が響く中、凶悪窃盗団『赤蛇』のメンバーたちは、侵入者たちの姿を見て呆気にとられていた。
「……あぁ? なんだこいつら」
リーダー格の男が、飲みかけのビールを置いて立ち上がった。
目の前にいるのは、石斧を持った野生児と、騎士のコスプレをした少年。
後ろからは、ドレスを着た少女やカメラを持った天使まで入ってくる。
「ギャハハハハ! おい見ろよ! 迷子のガキどもが『悪者退治』ごっこに来たらしいぞ!」
「しかも見ろ、あの服! 上等な生地だぜ。こりゃあ身代金でガッポリ稼げるチャンスじゃねぇか!」
倉庫内が下卑た笑い声に包まれる。
彼らは数々の修羅場をくぐり抜けてきた(と自負する)犯罪のプロだ。たかが子供数人に遅れを取るはずがないと、完全に油断していた。
だが、それが彼らにとって最初で最後の『誤算』だった。
「……笑ってんじゃねぇ」
低く、地を這うような声が響いた。
ダダだ。
彼は男たちの背後にあるテーブル――そこに乗っている『宅配ピザ(Lサイズ)』を睨みつけていた。
「お前ら、俺の獲物の前で……酒臭い息を吐くんじゃねぇよ」
ドクンッ。
ダダの全身から、猛獣の如き殺気が溢れ出した。
笑っていた男たちの顔が引きつる。
「あ? なんだこのガキ、目つきが……」
「どけ。邪魔だ」
ダダが地面を蹴った。
速い。
大人の動体視力では、その姿がブレて見えた。
「なっ!?」
先頭にいた大男が慌てて鉄パイプを振り上げるが、遅すぎる。
「ウラァッ!!」
ダダの石斧が横薙ぎに閃いた。
刃ではなく、斧の腹で殴打する一撃。
ドゴォォォォォンッ!!
大男の体が「く」の字に折れ曲がり、ピンボールのように弾き飛ばされた。
背後の木箱の山に激突し、木っ端微塵に粉砕する。
「は……? 一撃……?」
静まり返る倉庫。
その隙を、もう一人の戦士は見逃さない。
「悪党に名乗る名は無い! 我が剣の錆となれ!」
クラウスが白銀の剣を抜いた。
刀身にバチバチと青白い雷光が走る。
「アルヴィン流剣術――『雷閃』ッ!!」
シュバババッ!!
目にも止まらぬ剣速。
クラウスが駆け抜けた後、数人の男たちの武器だけが、綺麗に切断されて床に落ちた。
一瞬遅れて、切断面から放電された雷撃が男たちを襲う。
「あがががががっ!?」
「し、痺れるぅぅぅっ!!」
黒焦げになり、アフロヘアーのようになって倒れる男たち。
殺しはしない。だが、二度と悪さをできないように心を折る。それが騎士の戦い方だ。
「ひ、ひぃぃぃっ! バケモノかこいつら!?」
「魔法使いだ! 魔法を使えるガキだぞ!?」
残ったメンバーがパニックに陥り、懐から拳銃やナイフを取り出して構える。
だが、時すでに遅し。
彼らは気づいていなかった。
正面の二人に気を取られている間に、背後から忍び寄る『本当の恐怖』に。
「あーあ。正面切って戦うなんて、やっぱり野蛮だねぇ」
倉庫の梁の上。
暗闇に紛れ、リアンが冷ややかな目で見下ろしていた。
彼の手には、特製のスリングショット(パチンコ)が握られている。
「……おやすみ」
ヒュンッ!
放たれたのは、強力な麻酔薬を塗った針。
それが、銃を構えようとした男の首筋に正確に吸い込まれた。
「うっ……?」
男は白目を剥き、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「な、なんだ!? どこから撃ってきやがった!?」
見えない敵。圧倒的な武力。
『赤蛇』のアジトは、一瞬にして子供たちの狩り場へと変わった。
「ヒャッハー! 撮れ高最高~☆」
上空からはキュララがフラッシュを焚きながら撮影し、男たちの目をくらませる。
「私の前で悪さは許しませんわ! 天罰よ!」
入り口ではリリスが、勇者の威光(物理)で逃げ場を塞いでいる。
悪党たちは悟った。
自分たちは「カモ」を捕まえたのではない。
「猛獣の檻」に、自ら手を入れてしまったのだと。
「た、助けてくれぇぇぇ!!」
倉庫に響くのは、大人の情けない悲鳴だけだった。
次回、追い詰められたボスが逃亡を図る!
しかし、そこには冷徹な仕事人・リアンが待ち構えていた。




