EP 5
潜入?いいえ、正面突破です
港湾地区、廃倉庫エリア。
錆びついたシャッターと、積み上げられたコンテナが迷路のように続く場所。
その一角にある「B-4倉庫」の前に、ルナミスお助け探偵団は到着していた。
「……ここだね。特定班の情報通りだ」
物陰に隠れ、リアンが小声で囁く。
倉庫の前には、見るからに柄の悪い男たちが二人、鉄パイプを持って見張りをしていた。
中からは下品な笑い声と、酒盛りの音が聞こえてくる。
「さて、作戦を立てよう」
リアンは地面に木の枝で地図を描き始めた。
彼の表情は、完全に『仕事人』のそれになっている。
「敵の数は推定10人。正面は警戒が厳重だ。僕が裏口の換気ダクトから侵入して、催涙ガスを撒く。混乱したところを……」
「まどろっこしい!」
リアンの完璧な隠密プランを一刀両断したのは、クラウスだった。
彼は白銀の鎧をカチャカチャと鳴らしながら、仁王立ちになった。
「悪党相手にコソコソ隠れるなど、騎士の恥! ここは正々堂々と正面から名乗りを上げ、一騎打ちを挑むべきだ!」
「はぁ!? お前バカなの!? 向こうは犯罪者だよ? 人質取られたらどうすんの!」
リアンが小声で叫ぶが、クラウスは聞く耳を持たない。
そして、もう一人、話を聞いていない奴がいた。
「……美味そうな匂いがする」
ダダだ。
彼は鼻をヒクつかせ、倉庫の奥をじっと見つめていた。
「ピザだ。それも、サラミとチーズたっぷりのやつだ」
「えっ、そこ?」
「あと、悪党の匂いもする。……獲物だ」
ダダの瞳孔が細まり、口元からダラリと涎が垂れる。
彼にとって、目の前の倉庫は『アジト』ではなく『餌場付きの狩り場』でしかなかった。
「行くぞ」
「うむ、行くぞ!」
ダダとクラウス。
思考回路の違う二人が、奇跡的に『正面突破』という結論でシンクロした。
「ちょ、待て! ストップ!」
リアンが止める間もなく、二人は物陰から飛び出した。
ダッッッ!!
隠れる気ゼロの全力ダッシュ。
見張りの男たちが、呆気にとられてタバコを落とす。
「あぁ? なんだあのガキどもは……?」
「おいボウズ、ここは遊び場じゃねえぞ……」
男たちが威嚇しようとした、その瞬間。
「晩飯代を寄越せェェェェェッ!!!」
「天誅ゥゥゥゥゥッ!!!」
野生の咆哮と、騎士の叫びが重なった。
ドォォォォォォォンッ!!
ダダのタックルと、クラウスの盾によるシールドバッシュが、同時に見張りたちに炸裂した。
男たちは悲鳴を上げる間もなく、人間砲弾となって倉庫の鉄扉ごと吹き飛んだ。
ガシャァァァンッ!!
分厚い鉄扉がひしゃげ、倉庫の中に砂煙と共に突っ込んでいく。
中では宴会をしていた『赤蛇』のメンバーたちが、突然飛んできた扉と仲間に、ピザを取り落として絶句していた。
「な、なんだぁぁっ!?」
「敵襲か!?」
混乱する悪党たち。
その土煙の向こうから、二つの影が堂々と歩み入る。
一人は、石斧を担ぎ、涎を垂らした野生児。
一人は、白銀の剣を掲げ、凛とした表情の騎士。
「我らは『ルナミスお助け探偵団』!」
「食い物を残して降伏しろ! さもなくば食う!」
名乗り口上すらカオスだった。
倉庫の外、物陰に残されたリアンは、深く、深ーく溜息をついた。
「……あいつら、ホント馬鹿。(でも、嫌いじゃないよ)」
リアンは苦笑いしながら、懐からスリングショット(パチンコ)と、特製の『閃光弾』を取り出した。
「仕方ない。僕たちがバックアップだ。……リリス、キュララ、行くよ!」
「もっちろん! 勇者の娘の戦い、見せてあげるわ!」
「激写チャンス! 『子供だけで悪のアジト壊滅させてみた』、配信スタート☆」
結局、全員が正面から突入する。
隠密? 潜入?
そんな言葉は、この探偵団の辞書にはなかった。
あるのは圧倒的な『暴力』と『食欲』と『承認欲求』のみ。




