EP 2
カツ丼への執念(VS鮫島・前編)
太郎国警察署。
最新のセキュリティシステムと、厳つい警察官たちが守りを固める治安の要衝。
その正門前の植え込みに、結成されたばかりの『ルナミスお助け探偵団』が潜んでいた。
「……おいリアン。あいつ、本当にやる気か?」
「止めても無駄だよ、ダダ。今の彼女は『空腹』という名の魔物だ」
子供たちが見守る視線の先。
一人の少女が、警察署のゲート前に立っていた。
リーザだ。
彼女は深く深呼吸をすると、虚空を見つめ、決意の表情で呟いた。
「プライドなんて……パンの耳と一緒に食べて消化したわ。今の私は、アイドルじゃない。……『カツ丼を求める亡者』よ!」
シュッ!
リーザが動いた。
警察署の自動ドアの前で、猛烈な勢いで**『反復横跳び』**を開始したのだ。
「私は~怪しい~! とっても怪しい女で~す! 不審者で~す!」
シュッシュッ!
残像が見えるほどの高速サイドステップ。
さらに、意味もなく辺りをキョロキョロし、ポケットからパンの耳を出しては懐に隠すという、不審極まりない挙動を繰り返す。
「……職務質問してぇぇ! 任意同行してぇぇ! そして私に、カツ丼を食わせろぉぉぉッ!!」
それは、もはや不審者というより、奇行種だった。
通りがかりの警官たちが「なんだあれ……」「関わらない方がいいぞ」と遠巻きに避けていく。
「くっ……! なぜ!? なぜ捕まえないの!? 日本の刑事ドラマじゃ、取調室といえばカツ丼でしょうがぁぁ!」
リーザの目論見が外れ、体力が尽きかけたその時だった。
ブォォォォン……!
重厚なエンジン音と共に、一台の黒塗りの装甲車が署の前に横付けされた。
運転席から降りてきたのは、漆黒のT-SWAT装備に身を包み、サングラスをかけた強面の男。
鮫島勇護だ。
「……あ」
リーザの動きが止まる。
鮫島は口にくわえた赤マル(タバコ)から紫煙を吐き出し、サングラス越しにリーザを見下ろした。
「……何やってんだ、お前」
「さ、鮫島さん! 待ってました!」
リーザは歓喜の声を上げ、鮫島にタックルしようとした。
だが、鮫島は無言でリーザの襟首を掴み、ヒョイと持ち上げた。
「署の前で反復横跳びたぁ、いい度胸だ。……公務執行妨害で連行する」
「やったぁぁぁ! 逮捕! 逮捕キターーーッ!」
手錠もかけられていないのに、リーザは万歳三唱しながら署内へと連行されていった。
物陰で見ていたダダが呟く。
「……あいつ、狩られるのか?」
「いや、ある意味『餌場』に行くだけさ」
◇
警察署、取調室。
ドラマで見るような無機質な鉄の机と、パイプ椅子。
その上に、湯気を立てるドンブリが置かれた。
「……食え」
鮫島が短く言った。
リーザの目の前にあるのは、署内食堂特製・**『特上カツ丼(卵ダブル・大盛り)』**だ。
「神様……! 仏様……! 鮫島様ぁぁぁッ!!」
リーザは箸を割り、ガツガツと食らいついた。
サクサクの衣に染みた甘辛い出汁。半熟卵のトロトロ感。そして、パンの耳ではない、本物の白米の甘み。
「んぐッ、はふッ……! う、うめぇぇぇ! 犯罪的な美味さよぉぉぉ!」
「……犯罪者じゃねぇんだから、ゆっくり食え」
鮫島はパイプ椅子に座り、コーヒーキャンディを舐めながら、その凄まじい食いっぷりを眺めていた。
彼にとって、リーザは『情報屋』のようなものだ。
同居人のルナ(エルフ)や、テント村のネットワークから、街の異変をいち早く察知するアンテナ。
カツ丼一杯でその情報が手に入るなら、安い経費だった。
「ぷはぁっ! ごちそうさまでした!」
一粒の米も残さず完食したリーザは、満面の笑みで空の丼を差し出した。
「で、デザートは? 食後のコーヒーとプリンはつかないんですか?」
「調子に乗るな」
鮫島は空になった丼を下げると、懐から一枚の紙を取り出し、机の上にパンと叩きつけた。
「え? 何これ」
「テメェらが小銭稼ぎを始めたって噂は聞いてるぞ。『探偵団』だとか?」
「うっ、耳が早い……! そうよ、私たちは清く正しいビジネスを……」
リーザが紙を覗き込む。
そこには、人相の悪い男たちの写真と、**『懸賞金:金貨10枚』**の文字が踊っていた。
「……これは?」
「凶悪窃盗団『赤蛇』だ。最近、街の倉庫街を荒らしてる。俺が動いてもいいが、ネズミのように逃げ回るんでな」
鮫島はサングラスを外し、鋭い眼光をリーザに向けた。
「カツ丼は奢ってやった。……だが、次はねぇぞ」
「え?」
「金が欲しいなら、働け。俺の『犬』になって、こいつらのアジトを嗅ぎ当てろ。……できなきゃ、次はカツ丼じゃなくて『冷たい檻』にブチ込むぞ?」
アメとムチ。
飴(カツ丼)を与えた直後の、強烈なプレッシャー。
リーザはゴクリと唾を飲んだ。
金貨10枚。今のリーザにとっては、目が眩むほどの大金だ。
「や、やります! やらせてください!」
「いい返事だ。……情報はSNSで拡散しろ。うちの『監視役』が見てるからな」
鮫島はニヤリと笑い、リーザを解放した。
◇
「……というわけで! この賞金首を狩るわよ!」
警察署から出てきたリーザは、手配書を掲げて探偵団に宣言した。
お腹は満たされ、やる気は十分だ。
「金貨10枚!? すげぇ肉が買えるぞ!」
「ふむ。悪党退治か。騎士として不足なし!」
「うわぁ、人相悪っ。これ絶対バズるネタじゃん!」
ダダ、クラウス、キュララが盛り上がる中、リアンだけが手配書を見て眉をひそめた。
「『赤蛇』か……。こいつら、タチの悪い魔法道具を使うって噂だよ。正面から行くと面倒だね」
「安心しなさい! 現代には『魔法』より怖い武器があるのよ!」
キュララがスマホを取り出し、不敵に笑った。
「さあ、お仕事の時間だよ☆ ネットの海に潜む『特定班』のみんな~! 出番だよ~!」
次回、現代社会の恐怖!
たった一枚の写真から、悪党の住所もパンツの色も特定される!?
デジタル探偵キュララの本領発揮!




