第二章 出張!開運!何でも探偵団!!
公園のベンチと二人の無職
月日は流れ、月末。
太郎国の中央公園は、穏やかな午後の日差しに包まれていた。
家族連れがピクニックを楽しみ、カップルが愛を語らう平和な光景。
だが、公園の片隅にあるベンチだけは、重苦しい『絶望のオーラ』に包まれていた。
「……お金が、ないんです」
虚ろな瞳で呟いたのは、リーザだ。
一応は一国の王女であり、自称アイドル。しかし現在の所持金は、ポケットに入っている五円玉一枚のみ。
今月の家賃(3万円)の支払い期限が迫り、彼女の精神は限界を迎えていた。
「奇遇だな。俺様もだ」
隣で深く頷いたのは、イグニスだ。
かつては竜人の里の神童と呼ばれた男。しかし現在は、ハローワークの不採用通知を握りしめた無職。
彼の視線は、地面を歩く鳩に釘付けになっていた。
「……おい、リーザ。あそこに『ネギを背負った焼き鳥』が歩いてるぞ」
「奇遇ね、イグニスさん。私には『羽の生えた唐揚げ』に見えるわ」
二人の思考回路は、飢餓により危険な領域に達していた。
今にも鳩に向かってダイブしようとした、その時。
「お前ら、美味そうなもん見てるな」
茂みからガサッと現れたのは、ダダだった。
手には学校のプリント、口には道端で摘んだタンポポ(食用)を咥えている。
その背後には、呆れ顔のリアンが続いていた。
「ダダ、やめとけ。ここの鳩は『太郎国保護鳥獣』だ。食ったら鮫島さんに怒られるぞ」
「ちぇっ。……で、そこの二人は何してんだ? 死にそうなのか?」
ダダが純粋な疑問をぶつける。
イグニスはふらりと立ち上がり、虚勢を張った。
「ふ、ふん! 俺様は瞑想中だ。……次の大きな仕事(世界を救う等)に向けて、精神を統一して……グゥゥゥ~(腹の音)」
「嘘おっしゃい! 私たち、ただの金欠よ! 月末の家賃が払えなくて、ここ(公園)が新居になりそうなのよ!」
リーザが泣き叫んだ。プライドも何もない。あるのは生存本能だけだ。
「……はぁ。仕方ねぇな」
その惨状を見て、リアンが深く溜息をついた。
(このままだと、ダダの保護者(仮)の二人が野垂れ死ぬ。そうなるとダダが暴走して、僕の平穏な学園生活も脅かされる……)
リアンは前世の記憶(組織運営ノウハウ)をフル回転させ、指をパチンと鳴らした。
「いいかい、お二人さん。そしてダダ。……『金』が欲しいなら、稼ぐしかない」
「稼ぐって、職がないのよ!?」
「職がないなら、作ればいい。……僕らにしかできない仕事でね」
リアンの目が、商売人のそれに変わった。
「結成しよう。『ルナミスお助け探偵団』を」
◇
数分後。
公園のベンチ前には、ルナミス学園特進クラスの面々が集結していた。
リアンの招集(という名の甘い物による買収)に応じたメンバーたちだ。
「ふむ。困っている市民を助ける、か。悪くない」
腕を組み、堂々と頷いたのはクラウスだ。
白銀の制服を着こなし、正義感に燃えている。
「『ノブリス・オブリージュ(高貴なる者の義務)』だ。力なき民を救うのは、次期侯爵である僕の責務! 報酬など不要だが、活動資金というなら協力しよう!」
(……チョロいな、委員長)とリアンは心の中でガッツポーズ。
「私もやるわ! 絶対やる!」
鼻息荒くスマホを構えているのは、リリスだ。
「『人助け』は善行ポイントが高いのよ! 迷子の猫探しで100pt、お年寄りの荷物持ちで50pt! これでガチャを回しまくって、今度こそSSRを出すのよ!」
(……欲望に忠実すぎる)とリアンは苦笑い。
「面白そ~☆ 『小学生が探偵やってみた』! これ絶対バズるやつじゃん!」
上空から撮影しているのは、当然キュララだ。
「サムネは『衝撃の結末!』で決まりだね。再生数稼げれば、広告収入で焼肉おごってあげるよ~!」
(……現代っ子め)
そして、最後にダダが石斧を構えた。
「で、誰を狩ればいいんだ? 報酬は肉か?」
「違うよダダ。……まあ、当たらずとも遠からずだけど」
リアンは全員を見渡し、ニヤリと笑った。
「メンバーは揃った。
戦闘担当のダダとクラウス。
運と物資担当のリリス。
情報拡散と記録担当のキュララ。
そして、指揮と裏工作担当の僕。
……さらに、人生の崖っぷちにいるハングリーな大人二人がいれば、どんな依頼も解決できるはずだ」
「お、おい待て少年。俺様たちは『手下』扱いか?」
「嫌ならいいですけど? 今夜の夕飯代、稼ぎたくないんですか?」
イグニスとリーザは顔を見合わせ、即座に土下座の姿勢をとった。
「「一生ついて行きます、リーダー!!」」
こうして、太郎国の平和(と晩飯代)を守るため、最強にして最年少の組織『ルナミスお助け探偵団』が爆誕した。
だが、彼らはまだ知らない。
最初の依頼が、迷子の猫探しなどという生温いものではなく、凶悪な『賞金首』との抗争になることを。
「まずは資金源の確保だ。……リーザさん、心当たりはあるね?」
「ええ……! 『カツ丼』が食べられる場所を知ってるわ!」
リーザの目が、獲物を狙う猛獣のように怪しく光った。
目指すは警察署。ターゲットは、あの強面の特殊部隊隊長だ。
次回、カツ丼を賭けたリーザの不審な動きが、鮫島を襲う!




