EP 10
暴食適合覚醒!
「グルルルルッ……!」
キメラが身を低くし、ダダに飛びかかろうとした瞬間、横から稲妻が走った。
「させるか! 皆、散れッ!」
クラウスだ。
彼はダメージを負った体を奮い立たせ、白銀の剣を高々と掲げた。
「我が剣技と雷の舞を見よ! 『雷撃拡散』!!」
バチバチバチッ!!
剣から放出された無数の雷撃が、闘気と共にキメラを包み込む。
決定打にはならないが、全身を駆け巡る痺れに、キメラは鬱陶しそうに悲鳴を上げて後退した。
「今よ! うーん、ガチャよ来いッ!」
その隙を見逃さず、リリスがスマホを天に掲げた。
彼女の身に流れるのは『勇者』と『聖女』の血。ここ一番での運命力は、国の未来すら左右する。
狙うは攻撃アイテムか、回復薬か。
虚空から巨大なカプセルが出現し、弾け飛んだ。
バフッ……!!
中から出てきたのは、白く、細かく、舞い散る粉末。
――『業務用小麦粉(1トン)』だった。
「なんでえぇぇぇっ!? 今からパンでも焼くつもりぃ!?」
リリスが絶叫するが、大量の粉末は霧のようにキメラの頭上へと降り注いだ。
視界を白く染められ、鼻孔に粉が入ったキメラが、たまらず大きく息を吸い込む。
「ハ……ハクションッ!!」
巨大なクシャミ。
そのマヌケな瞬間を、空飛ぶ天使は見逃さなかった。
「やった★ キメラのクシャミとか超レアじゃん! 映えるわ~!」
キュララはカメラ目線でウィンクを決めると、自撮り棒の先端に向けた手をキメラにかざした。
「サムネ用にもういっちょ! ファイヤー☆」
放たれたのは、本来なら威嚇程度の下級炎魔法。
だが、今の空間には、リリスがばら撒いた高濃度の小麦粉が充満していた。
そこに種火が投下されれば、起きるのは――科学反応。
カッ!!
ドガガガガガアアアアンッ!!!!
粉塵爆発だ。
森の一部を吹き飛ばすほどの大爆発が、キメラを飲み込んだ。
「ギャオオオオオオッ!?」
「うわっ、なんか凄いことになった!?」
爆風と煙が視界を遮る。
その混沌とした状況下で、物陰に潜んでいたリアンがニヤリと笑った。
(……よし。こんな騒ぎだ。僕が何をしたってバレないだろ)
リアンは魔法ポーチから、一見すると子供騙しの『玩具のリボルバー』を取り出した。
だが、シリンダーに装填されているのは、前世の記憶で再現し、通販の闇ルートで入手した実弾――.357マグナム弾だ。
「目は口ほどに物を言うっていうけど……黙っててくれよ?」
ドゥン! ドゥン!
乾いた破裂音が二回。
煙の向こうで、キメラの両眼が正確に撃ち抜かれた。
「ギシャアアアアアッ!!」
視界を奪われ、爆発で焼かれ、雷で痺れたキメラが、闇雲に暴れまわる。
だが、その喉元は既に無防備だった。
「ウララララララァァァァッ!!!」
雄叫びと共に、煙を突き破ってダダが飛び出した。
食べた『マーラット』の俊敏性を乗せた、超高速の突撃。
手には、研ぎ澄まされた石斧。
「晩飯だァァァッ!!」
ズバァァァァァァンッ!!
一閃。
石斧がキメラの首筋から胴体へと、斜めに走り抜けた。
硬い皮も、筋肉も、骨も関係ない。
暴食の化身の一撃は、合成魔獣を綺麗に一刀両断していた。
ズズゥン……。
左右に分かれた巨体が、地面に崩れ落ちる。
静寂が戻った森に、ダダの荒い息遣いだけが響いた。
「……ふぅ。勝った」
ダダは返り血を拭い、真っ二つになったキメラを見下ろした。
炭火焼き(粉塵爆発)と、下ごしらえ(小麦粉まみれ)は完了している。
「こいつ、焼けてて美味そうだぞ」
ダダの第一声に、ボロボロになったクラウスたちがズルッとずっこけた。
「……君ねぇ! 命のやり取りをした直後の感想がそれかい!?」
「でも、ダダくんのおかげで助かったわ……。私の小麦粉も無駄じゃなかったのね!」
「サムネも撮れたし、今日は大収穫だね~☆」
「(……ふぅ。バレずに済んだ)」
生徒たちは安堵の息をつき、ダダを囲んだ。
野生児とエリートたち。住む世界は違えど、死線を越えたことで奇妙な連帯感が生まれていた。
◇
その日の夕方。
テント村に、再び地響きが近づいてきた。
「ただいま」
ダダが引きずってきたのは、巨大なキメラの上半身だ(下半身は学園に研究用として売った)。
「おおおおっ!? なんだこのバケモノは!?」
「ライオンとヤギとヘビ!? 高級食材のオンパレードじゃない!」
待ち構えていたイグニスとリーザが、驚愕と歓喜の声を上げる。
「今日はキメラ鍋だぞ」
「か、完璧だ……! 俺様のブレスで焼いてやる!」
「私はパンの耳をクルトンにして入れるわ!」
ダダは仲間たちの笑顔を見て、ニカッと笑った。
学園での生活は、危険で、うるさくて、面倒くさい。
でも、そこには『極上の獲物』と『変わった群れ(クラスメイト)』がいる。
「……悪くねぇな、学校も」
ダダはキメラの肉を頬張りながら、明日の給食メニューに思いを馳せた。
テント村の野生児の冒険は、まだ始まったばかりである。
【第一章 完】




