第9話 仲良し三人組の女子会
Side:水無月
帰宅して夕食を摂り、お風呂に入った私は、自室のベッドに横になって、スマホのSNSアプリであるレインを立ち上げ、仲良し三人組で作っているグループチャットを開いた。
Aoi:二人共こんばんわ。
ひな:こんばんわ〜葵ちゃん。
紗耶:こんばんわです葵さん。
ひな:今日はごめんね。一緒に遊べなくて。
Aoi:気にしなくて良いって。美容師になるために頑張るんでしょ。
ひな:うん。あ、それでね、そのことで二人に聞いて欲しいことがあるんだ〜。
Aoi:なに?
紗耶:はい、聞かせてもらいます。
ひな:え〜それでは発表します。コホン。なんと私今日、初めて人の髪を切らせてもらいましたっ!
紗耶:おー、これはめでたい。はい拍手パチパチパチ。
Aoi:え、でも待って、確か陽菜前に自分は免許を持っていないからお客さんの髪を切ることはできないって言ってなかった?
ひな:うん、そうなんだけどね。その人は失敗しても良いからって言ってくれて、それならってことでお母さんとも相談して、お金を取らないで経験を積ませてもらうことにしたの。
Aoi:ふーん、そうだったのね。
紗耶:でも奇特な人もいるもんですね。確かにタダでっていうのは魅力的ですけど、変な髪型にされちゃったら元も子もないわけじゃないですか。
Aoi:そうよね。ひなには悪いけど、私だったら、やっぱりちゃんと免許を持っている人に切ってもらいたいかな。読モなんてやってると、髪は命だって実感するしね。
ひな:そうだよね~。だから私も最初は遠慮してたんだけど、結局その人の押しの強さにまけちゃって。
紗耶:それで、その人って男なんですか? 女なんですか? 私はそこが気になって仕方がないです。もし男だとしたら、そこから恋愛に発展することも⋯⋯。
Aoi:紗耶はまずその妄想癖をどうにかしなさい。
ひな:ん? 男の人だよ。恋愛には発展しないと思うけどね。葵ちゃんも良く知ってる人。
Aoi:え、私も知ってる人? ってまさか一樹じゃないでしょうね。
ひな:違うよ〜。もしかず君だったら死んでもごめんだって言って断られそう。
紗耶:まあ兄さんだったらそうでしょうね。でも、そうなると他に該当する人がいないような気が⋯⋯。
Aoi:いったい誰なのよ陽菜。
ひな:それじゃあ発表しちゃおっかな〜。その奇特な人というのは、葵ちゃんの隣の席の吾妻怜人君だったのです!
Aoi:え、あいつが!?
紗耶:吾妻先輩ですか。意外なところをついてきましたね。
ひな:あれ、紗耶ちゃんも彼のこと知ってるの?
紗耶:まあ、図書室で会って色々ありまして。彼ああ見えて読書家らしいので馬が合うんです。
ひな:そうだったんだ〜。
Aoi:そっか。あいつそれであんな見た目に⋯⋯。
ひな:ん? 葵ちゃんどうかした?
Aoi:え? いやなんというか、私も今日あいつと街で会った時に色々あって⋯⋯。
紗耶:むむむ。ここにも恋愛の匂いがしますよ。私のラブコメセンサーが敏感に反応してます。
Aoi:そんなんじゃないって! ただ厄介なストーカーに絡まれてたところを助けてもらったってだけで⋯⋯。
紗耶:なにが、だけ、なんですか。窮地に陥ったヒロインが、颯爽と現れて助けてくれたヒーローに恋をするベタベタの王道ラブコメ展開じゃないですか。
ひな:うわ~うわ~うわ~。
Aoi:だから紗耶は、そのどこからでも恋愛につなげようとする恋愛脳をどうにかしなさい! ホントにそんなんじゃなくって⋯⋯ただ彼には感謝してるってだけで⋯⋯。
紗耶:でも、少しはキュンときたんですよね?
Aoi:うっ⋯⋯まあ、ほんの少しはね⋯⋯。
紗耶:ほらやっぱり恋に落ちちゃってる。ああ、妄想が捗ります。この恋バナをおかずにご飯三杯はいけますね。
Aoi:もう、勝手にしなさい! 私はもう寝るからおやすみっ!
私は乱暴に画面をタップしてそう打ち込むと、返信も待たずにスマホをデスクの上に放り投げ、ベッドに横になって布団を被った。
眠りに落ちていく中で浮かんできたのは、あいつと連絡先交換するのを忘れていたな、という少しばかりの後悔の念だった。




