第5話 妹に手料理を振る舞う
午後の授業が終わり、帰りのHRも終えた放課後。
それぞれが部活に行く準備をしたり、友達同士で、「今日は週末だし、帰りにカラオケでも寄っていかない?」等と会話する中、俺はそそくさと教室を出て図書室に行き、例のミステリー小説を借りてから学校を出て帰路についた。
途中、最寄りのスーパーに寄って、夕食を作るのに必要な食材を買う。
そう。俺は料理ができるのである。
前の人生では、大学に入り一人暮らしを始めてから節約のためと自炊を始め、社畜時代も、できるだけコンビニの弁当などに頼らずに自分で作るようにしていたため、レパートリーもそれなりに多い。
手料理を振る舞おうと思ったのは、いつも妹の麻衣にばかり家事の負担をかけていては申し訳ないという思いからでもある。
晩春のぽかぽかとした暖かい日差しを浴びながら、食材の入ったビニール袋を提げて、しばらく歩くと、自宅に着いた。
「ただいまー」
帰宅したことを告げるも、返事はない。
麻衣はまだ帰宅していないようだ。
麻衣はテニス部に所属しているため、帰りは少し遅くなるだろう。
出版社に勤める母さんは、いつも帰りは深夜になるため、夕食を一緒に摂ることはほとんどない。
俺は麻衣が帰って来るまでの間、リビングで借りてきたミステリー小説を読んで過ごした。
そうして午後六時半を少し過ぎた頃、麻衣が帰って来た。
「ただいまー。お兄ぃ夕飯すぐ作るからちょっと待っててね」
「いや、夕飯は俺が作るから、お前はその間に風呂に入って汗流してこいよ。お湯はもう張っといたからさ」
「え!? お兄ぃが夕飯作るの!? ていうかお兄ぃって料理できるの!?」
「まあな」
「いつ覚えたのよ。毎日食事は私の担当だったのに」
麻衣がジトっとした目を向けて訝しむ。
「そ、それは⋯⋯お前がいない時にこっそりネットでレシピ見て覚えたんだよ」
俺は慌てて言い訳を捻り出した。
まさか転生する前の人生で、なんて言えるわけがない。信じてもらえないどころか、下手したら頭がおかしくなったと騒がれて病院送りにされかねない。
「ふうん⋯⋯まあ良いけど。作ってくれるならこちらとしては手間が省けて助かるし。でも味の方は大丈夫なんでしょうね」
「任せとけって。絶対満足出せてやるから」
「そこまで自信があるなら期待させてもらおうかな」
それじゃ私はお風呂に入ってくるから、と麻衣はリビングを出て行った。
さてそれじゃやりますか、とエプロンを着て腕まくりする。
今日の献立は、みんな大好き豚の生姜焼きだ。
これをおかずにすればご飯三杯はいける。
社畜時代も週に一回は作っていた俺の大好物でもある。
まずは豚肉を筋切りにしておく。こうすることで肉を柔らかく仕上げることができる。
その豚肉に片栗粉をまぶし、フライパンにサラダ油をいれて中火に熱し、豚肉を入れて両面に焼色がつくまで焼く。
次に酒、みりん、砂糖、しょうゆ、おろし生姜を加えて、からめながら煮詰める。
これで完成だ。
基本に忠実なレシピだけれど、俺はこれが一番美味いと思っている。
玉ねぎを加えても美味いのだけれど、今回はベーシックなものにした。
後は、千切りにしておいたキャベツと一緒に盛り合わせ、汁物として片手間で作っておいた卵スープを添えて、出来上がりである。
「お風呂上がったよー。いいお湯だったー。お兄ぃ夕飯できてる?」
「ああ、今でき上がったところだ。ちょっと待ってろ。ご飯ついでやるから」
俺はそう答えると、炊飯器を開けて熱々のご飯を茶碗につぎ、できたての豚肉の生姜焼きと卵スープと一緒に、テーブルに並べた。
「うわっ、めっちゃ美味しそう! ねえ、もう食べていい?」
「ああ、遠慮なく食え」
「それじゃ、いただきまーす」
と麻衣は両手を合わせると、がっつくように食事を始めた。
「んー! この豚の生姜焼きの味付け最の高ー!めっちゃご飯が進むー! 卵スープも優しい味でほっこりするー!」
麻衣は、美味しい美味しいと連呼しながら食を進める。
俺も自分の分を用意して食べ始めた。
うん、美味い。よく味が染みている。
「どうだ? お兄ぃの料理は最高だろう?」
俺が得意げに鼻を鳴らす。
「ホントだよー! いつの間にこんなに料理上手くなったの?」
「まあ陰ながら努力したからな」
「あの遊び人のお兄ぃが⋯⋯私、なんか感動して涙がでてきちゃったよ⋯⋯」
麻衣は感極まったのか、潤んだ目を手で擦る。
「⋯⋯でもなんで急に努力しようなんて思ったの?」
「それは⋯⋯麻衣がいつも家事に追われて、やりたいことも我慢して大変そうだったからさ。少しでも負担を減らせたら、もっと自由な時間がとれるようになるかなって。
「それは⋯⋯確かにそうだけど⋯⋯」
「だからこれからは俺も家事をできるだけ手伝うようにするからさ。お前もやりたいこと我慢せずにもっと楽しむようにしろよな」
「うん⋯⋯ありがと、お兄ぃ。そしてごめんなさい。私、お兄ぃが今朝これからは真面目にやるって言ったこと信じてなかった。あれはただの気まぐれですぐに元に戻るんだろうって」
「まあ今までが酷かったから仕方ないよ。でも俺は本気だからさ」
「うん、今のお兄ぃだったら信じれる。私もできる限り応援するからね」
「ああ、ありがとな」
「ねえお兄ぃ、この豚の生姜焼きって、まだ余ってる?」
「ん? ああ、まだ一人分くらいは残ってるけど」
「それじゃあお母さんが帰ってきたら、温め直して食べてもらおうよ。お兄ぃが作ったって知ったら、お母さん喜んでたべてくれると思うよ」
「そうだな。俺も母さんに食べて欲しいし、そうするか」




