第42話 皆で水着選び
麻衣と一緒に、紗耶に教えてもらった待ち合わせ場所のバス停にいくと、紗耶と葵と陽菜の三人が既にきていて、手を振って出迎えてくれた。
日差しがキツくて既に疲労感を感じているけれど、それは冷房の効いているモールに着くまでの我慢だ。
「お待たせ、紗耶」
「紗耶ちゃん、終業式ぶりだね。元気にしてた?」
「怜人先輩、麻衣さん、こんにちは。こうして直に会うのはお久しぶりですね。はい。書籍化作業で何かと忙しいですけど、今はやる気で一杯です」
紗耶が微笑みを向けながら俺達の言葉に返す。
今日の紗耶は、ネイビーのブラウスに白いフレアスカートというコーデだ。
紗耶の清楚さを上手く引き立たせている。
「二人とも、暑い中呼び出しに応じてくれてありがとう。麻衣ちゃんとショッピングなんて初めてだから楽しみだわ。可愛い水着が買えるといいわね」
そう期待するように言う葵は、デニムのショートパンツに白いクロップド丈のTシャツを合わせている。
すらりと伸びる美脚が眩しくとてもセクシーだ。
「はい! モデルの葵さんのアドバイスがあれば、間違いはないですからね」
「二人ともこんにちは〜。私も葵ちゃんに選んでもらうつもりでいるの〜。水着の種類ってたくさんあるから、どれにすればいいのかよくわからなくて〜」
と陽菜が困ったように眉尻を下げる。
彼女は赤いボーダー柄のポロシャツとカーキ色のワイドパンツという出で立ち。
きちんとしつつもちょっぴりラフさが感じられ、垢抜けた雰囲気を醸し出している。
「確かに。どれがいいのかって迷っちゃいますよね〜」
「それで皆が水着を見ている間、俺はどうすればいいんだ?」
「怜人先輩には、私達が試着した水着の感想をいただこうと思いもしたんですけど、海にいく前に見せちゃったら、海で見せた時の新鮮さが薄れちゃいますからね。私達の水着姿が見たい気持ちは分かりますけど、今日のところはぐっと我慢して、適当にモール内で時間を潰しておいてください」
「ああ、分かった。その間カフェにいってアイス珈琲でも飲みながらゆっくりスマホで読書してるよ」
「はい。そうしてください。あ、バスがきましたね。それじゃあ乗りましょう」
──────
「では、水着を買ったらカフェに迎えにいきますね」
「じゃあね。なるべく早めに済ませるから」
「また後でね〜」
「お兄ぃ、変な人に誘われてもほいほいついていっちゃダメだよ。お兄ぃは見た目はイケメンなんだから、飢えた女豹達に狙われて逆ナンされてもおかしくないんだからね」
「中身も褒めてくれると素直に喜べたんだけどな⋯⋯」
到着したモールの入口付近で、そんな冗談みたいなやり取りを終えて一人になった俺は、モール内にあるカフェに向かった。
ここには以前家族揃ってきた事があるので、どこにその店舗があるのか等は大体把握しているから、迷う事はない。
そうして目的のカフェに入り、アイス珈琲を注文して、くつろぎながら読書していると、不意に女性に声をかけられた。
すわ、これは麻衣が冗談で言っていた逆ナンか!? と顔を上げると、そこにいたのは女豹などではなく、千早希ちゃん先生の愛称で生徒達から慕われている担任の山本先生だった。
ベージュのスーツをカジュアルに着こなしている。
「吾妻君じゃない。一人で買い物にきたの?」
山本先生が驚いたようにして聞いてきた。
「いえ、友人達と妹が水着を買うのに付き合ってきただけです。今度皆で海にいくんで、それで」
「ああ、水無月さんや星野さんとでしょ。あなた達学校でも仲よくしてるもんね。アオハルしてるわねぇ。これが若さか⋯⋯」
なぜか顔を曇らせながら言葉尻を小さくする。
どうしたんだろう。
何だかショックを受けている様子だけど。
何か落ちこむ様な事でも思い出したんだろうか。
「山本先生は、服でも買いにきたんですか?」
とりあえずその事には触れない方がいいような気がして話題を変えた。
「私? 私は婚活パーティのための──げふんげふん。あなた聞き上手ね。危うく詳らかに語ってしまいそうになったわ」
「いや、ただ普通に聞いただけだと思うんですけど⋯⋯」
「あなたは何も聞かなかった。いいわね?」
鬼気迫る表情でそう念を押され、俺は素直に頷きを返す事しか出来なかった。
「よろしい。それじゃあ私はもういくわね。海は楽しみだろうけど、あまり羽目を外しちゃダメよ」
そう言って山本先生はカフェを出ていった。
それと入れ替わる様にして、水着を買う事が出来たらしい女性陣が、紙袋を手に入店してきた。
「待たせたわね」
「一人にさせてごめんね〜」
「怜人先輩、おあずけを喰らってこっそり泣いてませんでしたか?」
「お兄ぃ、逆ナンされなかった? 私はそれだけが心配だったよ」
「逆ナンはされなかったけど、山本先生には声をかけられたよ」
「千早希ちゃん先生が? 先生ここで何してたの?」
「ああ。先生なら、婚活の──」
そこまで話したところで、背中に何か冷たいものが流れた気がしたので、俺は思わず口をつぐんだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。山本先生は服を買いにきたそうだ。それより、水着は気に入ったのが買えたのか?」
「うん! 葵さんに凄く可愛いのを選んでもらったよ」
「私も葵ちゃんのおかげで、皆に似合ってるって言ってもらえたのが買えたよ〜」
「葵さんはさすがのセンスでしたね。可愛いだけじゃなく、私達の体型まで考えて似合う水着をセレクトしてくれました」
「皆満足できたみたいでよかったわ」
「それは何よりだな。それじゃあ用件も済ませた事だし、そろそろ帰るか」
こうして俺達は、海への期待を膨らませながら家路についた。




