第41話 夏休み
様々なイベント──時には『オモクロ』をプレイした時には発生しなかった想定外のイベントも起こった一学期を終え、夏休みに入った。
俺はというと、ここ数日は、家で読書したり、料理の新作レシピを試してレパートリーを増やしたりと、インドアな生活を送っている。
猛暑日が続く中、わざわざ肌を焼くような強烈な日差しを浴びに外に出ていきたくはない。
麻衣も俺と同じ気持ちでいるらしく、部活が休みになった今日、クーラーの効いたリビングで、俺のお下がりであるダボッとしたTシャツと、その隙間からパンツが見えそうなショートパンツというみっともない格好でソファに寝そべり、盛大にだらけている。
「お兄ぃ、かき氷作って〜。いちご味のやつ」
「午前中も作ってやっただろ。食べ過ぎたらお腹壊すぞ。かき氷は一日に一個までだ」
「え〜、お兄ぃのけちんぼ〜」
「お前、ぐーたらばかりしてないで、夏休みの課題でもやったらどうだ? 紗耶から聞いたぞ。中学生の時は、毎年夏休みの終わりになると、麻衣のたまってる課題の手伝いをさせられていたってな」
「紗耶ちゃんめ、余計な事を⋯⋯」
恨ましげに呟く。
自分の怠惰が招いた結果だろうに。
「でも今年は紗耶には頼れないからな。紗耶は今、書籍化作業で忙しいんだ。親友なら、ちゃんとそこんとこに配慮して面倒をかけないようにしろよ」
紗耶は書籍化にあたり、新しいエピソードを加筆すると決めたそうで、俺も手伝おうかと申し出たけれど、今回は自分の力だけでやり遂げたいとの事だった。
「分かってるよ。紗耶ちゃんの夢を邪魔したくはないもんね」
「それならいい。物分かりのいい妹は好きだぞ」
「⋯⋯またストレートに好意を伝えたね。お兄ぃ、最近シスコンっぷりが酷くなってない? 正直どうかと思うよ。ぶっちゃけちょっとキモい」
「うっ⋯⋯妹からの罵倒は、心に刺さる⋯⋯」
深刻なダメージを負った俺は、身体を折りながら痛む胸を両手で押さえた。
「そんな事より、紗耶ちゃん、そんなに忙しくて海にいく暇あるの?」
そんな俺にはかまわず、にべもなく疑問を呈する麻衣。
「ふぅ⋯⋯もうちょっとお兄ぃに優しくしてくれてもいいとおもうんだけどな」
「いつも優しくしてあげてるでしょ。たまに冷たくするのは、飴と鞭を使い分けてるの。お兄ぃが調子に乗らないようにね。これは私の愛の証だよ」
「なんか体よくごまかされてるみたいでいまいち釈然としないけど⋯⋯まぁ、愛されてるならいいか」
「うん。妹の愛を疑っちゃダメだよ。それで、紗耶ちゃんはどうなの?」
「紗耶なら、たぶん大丈夫だって言ってたぞ。なにもずっと執筆作業にかじりついてるわけじゃないだろうしな。二、三日休みを取るくらいなら出来るそうだ」
「そうなんだ。よかった〜。私もここんとこ部活ばっかりでお互いに時間が取れなくて、紗耶ちゃんとまともに遊ぶの久しぶりだったから、楽しみにしてたんだ」
「子供みたいにせがんでたからな。『私も海にいきた〜い!』って足をバタつかせながら」
当初はいつもの四人でいく予定だったのだけど、麻衣が私も一緒にいきたいとゴネだし、しかたなく連れていく事にしたのだ。
他の三人は、麻衣ちゃんなら歓迎って言ってたけどな。
「だって海なんて、小学生の時家族で一度いったっきりなんだもん」
「母さん仕事で忙しいから、中々時間が取れないもんな」
「だから紗耶ちゃんと話してたんだ。うんと可愛い水着買って、目一杯海を楽しもうねって」
麻衣がそう言った時、スマホがレインの通知音を鳴らした。
メッセージを送ってきたのは、ちょうど会話に出てきていた紗耶だった。
紗耶:怜人先輩、今いいですか?
レイ:ああ。家で麻衣とだべってたところだ。
紗耶:それなら丁度よかった。今からショッピングモールに水着を買いにいこうって葵さん達と話してたんですけど、怜人先輩と麻衣さんも一緒にどうですか?
「紗耶ちゃんとショッピング!? もちろん行くよ! お兄ぃ、すぐにそう返信して!」
「分かったから、そう焦るなって」
レイ:麻衣もぜひ一緒に行きたいそうだ。俺も暇だしな。でも紗耶は書籍化作業の方は大丈夫なのか?
紗耶:それについては一区切りついたところです。モチベーションを高めるためにも、ショッピングでリフレッシュです。
レイ:そうか。それじゃあ待ち合わせの場所と時間を教えてくれ。




