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第4話 三人目のヒロイン

 

 あー、やっと昼飯だ。


 俺は大きく伸びをして、凝り固まった身体をほぐした。


 午前中の授業が全て終わり、ようやく昼休みとなった。

  授業を受けて分かったのは、高校時代に勉強で培った知識はほとんど抜け落ちているということ。

  しかし、この吾妻怜人のスペックは異常に高いらしく、教わったことはスポンジが水を吸収するように身についていく。

  この分なら、毎日の予習復習を欠かさずにやっておきさえすれば、定期試験でもそこそこ上位に食い込めるのではないだろうか。


  と勉強の面においてはひとまず不安は払拭されたことで胸を撫で下ろし、昼食の準備に取りかかった。

  周りを見ると、皆それぞれ仲の良い友達同士で学食に行ったり、机を合わせて持参した弁当を広げたりしている。


「かず君、一緒に食べよ」

「私もいいかしら」

「ああ、三人で食べようぜ」


 天城たちはゲームで語られていた通り、いつも三人一緒に昼食を摂っているようだ。

 仲が良いことで何よりだ。

 しかも天城の弁当は、料理上手な星野の手作り。

 シンプルにうらやましい。


  俺はと言えば、朝登校途中にあるコンビニで買ってきた菓子パンと珈琲牛乳という味気ないもの。

 この落差はあまりにも酷くないか? と思わないでもないけれど、これも竿役に転生した運命かと、自分を納得させる。


 そんなことを考えながら、菓子パンを珈琲牛乳で流し込んで手早く昼食を摂り終えると、すぐに席を立って、別棟にある図書室へと向かった。


 周りから避けられている教室にいるよりも過ごしやすいだろうし、何より俺は読書が好きなのだ。

 前の人生でも趣味の一つであり、通勤時間や休日などの暇を見つけては、ジャンルの選り好みをせずに読書に没頭していた。

  今の時代、スマホ一つあれば、かさばらない電子書籍で色んな本が読めるから便利ではあるけれど、紙媒体の書籍も、味わいがあって良い。


  さて、この学校の図書室にはどんな本があるかな、と期待に胸を膨らませながらそのドアを開いた。


 図書室内は、数人の利用者がいるだけで閑散としていた。

 近年若者の本離れが進んでいると、転生前にテレビのニュースで聞いたことがあったけれど、それはこの『オモクロ』の世界でも同じらしい。


  カウンターに座る受付けの女生徒に会釈すると、一瞬ビクッと怯えた表情を浮かべられたものの、ぎこちなくではあるが会釈を返してくれた。


 少しいたたまれなくなりながらも、気を取り直して前を向くと、ディスプレイラックに面陳されている一冊が目に留まった。


 添えられたポップに書かれた大まかなあらすじによると、冤罪を着せられて周囲から虐げられていた少年が、ある偏屈な女性の私立探偵と知り合い、その助手となって共に捜査し、真犯人を突き止めて容疑を晴らすという内容らしい。

 他にも、惹き込まれる内容だから絶対お薦めともかかれている。


  興味を惹かれた俺は、そのミステリー小説の文庫本を手に取ると、席に着いて読み始めた。


  それからしばらくの間読書に耽って、ふと顔を上げて壁に掛けられている時計に目をやると、いつの間にか昼休みが終わる五分前になっていた。

 物語の続きが気になるけれど、午後の授業に遅れるわけにはいかない。


  この小説は借りていって続きは家に帰ってからゆっくり読もうと席を立とうとすると、不意に横から声をかけられた。


「その小説面白いですか?」


 そちらに顔を向けると、そこにいたのは、なんと主人公である天城の義妹で、後輩ヒロインである天城紗耶(あまぎさや)だった。


  紗耶は祖父がドイツ人のクォーターであり、ミディアムロングの銀髪で碧眼の、綺麗系の美少女。

 胸の膨らみは控え目だけど、身長は平均以上あり、メリハリのある体型でスタイルはいい。

  成績は、文系はトップクラスなのだけれど、理数系が苦手で、総合的には上の下くらい。

  運動は、部活に入っているわけではないけれど、足が速くて、体育祭でリレーのメンバーに入れられたりもするらしい。

 性格は掴みどころのないマイペースで、表情の変化に乏しいため、感情が察し辛い。

 そのため、生徒達からは『氷姫』等と呼ばれていたりもするけれど、気心の知れた相手には、お茶目な一面を見せたりもする。

  他にも彼女にはある秘密があるのだけれどそれはまた語る機会があれば明かすことにしよう。


「ああ、凄く面白かったよ。ポップに書かれているとおりだった」

「それなら良かったです。何を隠そうあのポップを書いたのは私ですから」

「え!? あのポップって君が書いたのか!?」


「はい。でも自分では会心の出来だと思っていたのに誰も手にとってくれないからヤキモキしていたところなんです。だから吾妻先輩が読んでくれて嬉しかった」

「こちらこそこんなに面白い小説を薦めてくれてありがとうだよ」

「どういたしまして」

「あれ? でも俺って君に名前を教えたっけ?」

「いえ。でも知ってました。吾妻先輩有名人ですから。色んな意味で」

「あはは⋯⋯」

「でも今日話してみて、噂はやっぱり当てにならないと思いましたけど」

「え? それってどういう⋯⋯」

「それより吾妻先輩、そろそろ教室に戻った方が良いんじゃないですか?五限目が始まっちゃいますよ」

「あ、そうだった。それじゃこの小説は放課後にまた借りに来ることにするよ」

「はい、りょーかいです。読み終わったらまた感想聞かせてください」

「ああ、それじゃまた」




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