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第39話 イケメン転校生

 

藍原諒(あいはらりょう)といいます。親の転勤に合わせて転校してきました。一応俳優をやっていますけど、そんな事は関係なく、一人の生徒として皆と仲よくなりたいので、気軽に接してくれると嬉しいです。これからよろしくお願いします」


 その日の朝のHRに現れた一人の転校生によって、俺達の教室は驚きと喜びの歓声に包まれた。


「きゃーっ!」

「あれって若手俳優の中で一番人気があるリョウだよね? ねっ?」

「私夢見てるのかな⋯⋯推しが目の前にいる⋯⋯」

「これからリョウと一緒に授業を受けたり、話したり出来るって事だよね。何それ、最高かよ」

「男の目から見ても、爽やかでいいやつそうだよなー。好感度が高い俳優って言われるだけはあるわ」


 クラスの女子達は、黄色い悲鳴を上げるなどして歓迎し、男子達も、嫉妬を抱く事さえ馬鹿馬鹿しいと感じさせるような、自分達とはなにもかもが違う選ばれた者としての風格のある彼に対し、素直に羨望の眼差しを向けている。


 藍原諒は、下の名前をカタカナにしたリョウという芸名で活動している、今若手の中で一番の注目株と言われている俳優だ。

 昨年の冬に放映されたテレビドラマでデビューし、演技力はもちろんの事、その見た目のよさもあって一気にブレイクした。

 CM出演も果たし、SNSのフォロワー数も十万を超える等今ノリに乗っている。


 ただ、そんな事よりも気になる事がある。

 『オモクロ』では、どのルートでも、藍原諒なんていう転校生がやってくるイベントなんか起きなかったからだ。

 これも俺が怜人転生し、色々あって天城という主人公が消えた事による変化の一端なんだろうか。

 何か嫌な胸騒ぎがするけれど、とりあえずは未知のキャラである藍原が、どういう行動に出るか様子見するしかないか。


「そういう事だから、藍原君と仲よくしてあげてねー」


 山本先生がそう言って締めくくり、朝のHRは興奮の余韻を残しながら終わった。



 ──────



 一限目の授業が終わり、休み時間に、俺達がいつものメンバーで集まろうとしていると、そこに転校生の藍原が近づいてきた。


「君、確か『エクラ』でモデルをしている水無月葵さんだよね?」


 人好きのする柔らかい笑みを浮かべながら、水無月に声をかける。


「ええ、そうだけど」

「やっぱりそうなんだ。制服姿も綺麗だね。同じ芸能界で活動している者同士、これから仲よくしていこう」


 言いながら、片手を差し出して、握手を求めた。


「気持ちは受け取っておくけど、握手には応じられないわ。私、男子とはみだりに肌を接触させたくないの」


 葵が素気ない態度で突き放す。

 以前俺が風邪を引いて寝込んでいた時は、見舞いにきて彼女の方から手を握ってきたわけだけど、それは特別だったという事なんだろうか。


「それは残念だね」


 と藍原は特に気落ちした様子も見せる事なく、今度は隣に立っていた陽菜の方に向き直った。


「君も水無月さんに劣らず可愛いね。普通の女子高生でいさせるのがもったいないくらいだ」


 歯の浮くような台詞を言っても様になっているのは、ただしイケメンに限るってやつなのだろう。


「君、名前は何ていうの?」

「ほ、星野陽菜です⋯⋯」


 問われた陽菜は、おどおどと萎縮してしまっている。

 どうやらやたらとキラキラしたオーラを振りまく彼の事は苦手らしい。


「芸能界には興味ない? その気があるなら、うちの事務所の社長に紹介してあげるけど」

「い、いえ⋯⋯普通の学生でいたいんで⋯⋯」

「そう言わずにさ。君なら絶対に人気が出るよ」

「そう言われても⋯⋯」

「おい! 星野さん嫌がってるんだから、無理強いしようとするなよ!」


 見かねた陽太が、間に入って藍原に怒鳴りつけた。


「そうムキにならないでくれよ。彼女の優れた容姿を活かさないのはもったいないと思っただけじゃないか」

「それが余計なお世話だってんだよ!」

「まぁまぁ陽太、藍原はアイドルだから、俺達一般人とは価値観が違うんだよ」


 と俺は目くじらを立てる陽太を宥めた。


「ねぇ、リョウ君ちょっといい?」


 そうやっているところに、クラスの女子二人連れで話しかけてきた。


「何かな?」

「リョウ君、転校してきたばかりで、まだこの学校の事よく知らないでしょ? だから私達が、色々と案内してあげようかと思って。私達リョウ君のファンだから、少しでも力になってあげたいの」

「いいのかい? それは嬉しいね。じゃあさっそく今日の放課後にでもそうしてもらおうかな」

「うん! それで今の内にリョウ君を私達のグループに紹介しておこうと思うんだけど、いいかな?」

「ああ。じゃあ行こうか」


 藍原は、彼のファンだという二人の女子と一緒に、離れた場所で集まり様子をうかがっていたグループのところに行った。


「何だあいつ⋯⋯馴れ馴れしいしすかしてやがるし、どこが好感度ナンバーワンアイドルだよ。俺が一番嫌いなタイプだ」


 陽太が吐き捨てるように呟く


「同感ね。接し方にいやらしさが滲んでいて、不快だったわ」


 葵も同じ気持ちのようだ。


「き、緊張した〜。それに、押しが強くて何だかちょっと怖い感じがしたよ〜」


 陽菜が安堵したように溜息をつく。


「まぁ、今時の欲に塗れた業界にいるアイドルなんてそんなもんだろ。表と裏の顔が違うなんてざらだろうしな」

「水無月さんも星野さんも、あいつにまたちょっかい出されたら俺達に言えよ。すぐにとっちめてやるから」

「おいおい、あいつに暴力を振るいでもしたら、相手の方に否があったとしても、こっちが悪者にされるのは目に見えてるぞ。あいつには、何万人っていうファンが味方についてるんだからな」

「俺は力には屈しない!」

「まぁ、彼もスキャンダルは避けたいでしょうし、そうそう下手な行動はしないわよ」

「ホントにそうだといいんだけど〜⋯⋯」


 その後すぐに休み時間の終わりを告げる予鈴が鳴り、会話はそこでお開きとなった。



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