第31話 モデルの代役
月が変わり、六月となった。
学校では、ブレザーからシャツに衣替えし、涼しげな見た目となっている。
勉学の面においては、下旬に期末テストが控えているため、中間テストで首位だった者としては、その座を奪われないように、日々の勉強を怠るわけにはいかない。
ただ息抜きもたまには必要だと、休日である今日、俺は一人でのんびりと街を散策していた。
うっすらと汗ばむような初夏の日差しを受けながら、聖地巡礼の意味合いも兼ねて、『オモクロ』のゲーム内で描かれていた場所を訪れる。
そうして、カフェやゲームセンター等を巡り、最後に、今日のメインの目的地である主人公がヒロインに告白した大きな公園に入った時だった。
そこで人探しをするかのように、辺りをキョロキョロと見回していた男性? が、俺を見た途端、クワッと目を剥いて、足早に近づいてくると、動揺する俺の手を両手でがっしりと掴んで、こう言った。
「見つけたわ」
「え⋯⋯?」
俺の脳裏には、幾つもの疑問符がうかんでいた。
──────
俺はわけが分からないまま、見知らぬオネエ口調の男性に、引きずられるようにして、園内の中央にある芝生が敷かれた場所に連れて行かれた。
「みんな〜、代役を確保して来たわよ〜」
オネエ口調の男性が、その場に集まっていた人達に呼びかけた。
「どう、凄い逸材だと思わない?」
と見せびらかすように、グイッと背中を押されて衆目に晒される。
「え、凄いイケメン!」
「風見さん、どこで引っ掛けて来たんですか、こんなカッコいい子!」
「下手なアイドルより綺麗な顔してますよ!」
「こりゃあ予定していたモデルの子には悪いけど、代役立てることにして正解だったな」
その場にいた人達が、俺を見て騒ぎ立てる。
そんな時、その集まりの中に、よく見知った顔を見つけた。
それは、クラスメイトで友人でもある葵だった。
「怜人、あなた何やってるのよ⋯⋯」
葵が狼狽える俺を見て、呆れながら溜息をつく。
「いや、俺も何が何やらさっぱりでさ。大体、これって何の集まりなんだ?」
「『エクラ』って言うファッション雑誌の撮影よ。私はこの前読者モデルから専属モデルになったから、その最初の仕事として、『今時の街角カップルスナップ』って企画のモデルを任されているの。でも、その相手役の男性モデルの人がここに来る途中で事故に巻き込まれて怪我をしたらしくてね。幸い命に別状はないみたいだけど、今日の撮影は無理みたいだから、急遽代役を立てようってカメラマンの風見さんが言い出して、その相手役を任せられる男性を探しに行ってたのよ」
「はぁ、そしてこの俺がそのお眼鏡にかなったと」
「そういうことみたいね」
「えぇ⋯⋯でも俺、素人だぞ? そんな大事な仕事を任せられてもこまるんだけど⋯⋯」
「なに、葵ちゃん、もしかして彼と知り合いなの?」
二人で話していると、その風見さんとやらいうオネエの男性が側にやって来て、会話に参加した。
「はい。学校のクラスメイトで友人なんです」
「あら〜、それじゃあ丁度良いわね。今回の企画は、仲睦まじいカップルの休日ってテーマだから、気心が知れた間柄の方が気分も出るでしょうしね」
「あの⋯⋯ホントに俺なんかが相手役で良いんですか?」
「ええ、もちろんよ。私の審美眼にかなったんですもの。あなたは見た目の良さはもちろんのこと、その内面からも選ばれた者特有のオーラを発しているわ」
「は、はぁ⋯⋯」
「怜人、これも経験だと思って受けてみなさいよ。私としても、見ず知らずの相手よりもあなたの方がやりやすいわ」
「まあ、葵がそう言うなら⋯⋯」
そうして、俺は気乗りしないながらも、あれよあれよという間に話しは進み、俺は葵の代役として撮影に臨むことになった。
簡単にメイクをされ、スタイリストに身なりを整えてもらった俺は、既に準備が整っている葵の隣に並んだ。
「それじゃあ、まずは肩を組んでみましょうか」
カメラをかまえる風見さんの指示に従い、葵の肩に手を回す。
「ん〜、ちょっと表情が硬いわね。もっとリラックスして」
「こ、こんな感じですか⋯⋯?」
俺はぎこちなく笑みを形作った。
「まだなんか違うわね〜」
風見さんが難色を示す。
「怜人、上手く笑えないんだったら、陽菜がこの前何もないところで転んだシーンでも思い浮かべなさい」
「プッ!」
その場面を思い出し、俺は思わず吹き出してしまった。
「お、良い笑顔ね! いただきよ!」
と風見さんが連続でシャッターを切る。
その後も、時に葵にリードされながら、撮影は順調に進んで行った。
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「おかげで良い写真がとれたわ。今日は無理な頼みを聞いてくれてありがとう」
撮影後、風見さんがそうお礼を述べてきた。
「私からもお礼を言わせてもらうわ。こんなに楽しかった撮影は初めてよ」
葵も今日は良い仕事ができたみたいだ。
「報酬にお金を払うことはできないけど、代わりに、今日の撮影であなたが着た服をプレゼントさせてもらうわね」
風見さんがそう言って、何着ものブランド服の入った紙袋を俺に差し出した。
「そんな高そうな服もらえませんよ! 俺は貴重な経験ができただけで十分ですから」
「遠慮しないで。あなたは今日それだけの仕事をしたの。その対価はきちんと受け取るべきよ」
「そ、そうですか⋯⋯? それじゃあ」
俺は引け目を感じながらも、その言葉に従い報酬を受け取ることにした。
「あなたが載る予定の雑誌は、二週間後に発売されるから、その時になったら教えてもらった住所に送らせてもらうわね」




