第3話 二人目のヒロイン
「一樹はよ〜」
「ああ、おはよ」
「陽菜っち、おはよ」
「うん、おはよ〜」
天城と星野が二年C組の教室に入ると、先に来ていたクラスメイトたちが、次々に朝の挨拶をしてきた。
けれど、その後に続く俺を見ても、すぐに視線を逸らされて、挨拶してくる生徒はいなかった。
まあ、だいたい予想はできていたけどな。
怜人は、金髪に染めてピアスまで嵌めているいかにも不良ですと言った身なりだし、学校もよくサボっていたみたいで、夜遊びしまくっていて喧嘩も日常茶飯事で警察の厄介になったこともあるなんて噂まで流れていたってことだったからな。
だから今の時点での皆の印象が最悪なのは仕方ない。
これから少しづつ挽回していかないとな。
と、それは良いとして、そう言えば俺の席ってどこなんだ?
ゲームだと主人公の席周辺ばかりがスチルで描かれていて、怜人がどこの席かまでは明らかにされていなかった。
俺が自分の席がわからずに困惑して立ち止まっていると、背後から声をかけられた。
「そんなところに突っ立って何してるのよ」
「え⋯⋯?」
振り返ると、そこにはヒロインの一人である水無月葵がこちらを睨むようにして立っていた。
髪型は背中まで届く程の黒髪ロングで、身長が170センチ近くあるスレンダーなモデル体型のカッコいい系の美少女。
実際、雑誌の読者モデルみたいなこともやっていて、結構人気がありSNSのフォロワーも多く、知名度が高いらしい。
成績は常にテストで一位に鎮座する才媛で、運動も器用に満遍なくこなす完璧超人。
性格はサバサバとしたクール系で、ツンデレなところがある。
まあ俺に対してはツンしかないみたいだけど。
「遅刻常習犯のあなたにしては珍しく早めに登校して来たみたいだけど、どういう風の吹きまわし?」
「別に。今までがあんまりな生活態度だったから、自省してこれからは少しは真面目にやろうってだけだよ」
「へえ、あなたみたいな不良でも自分を省みたりするするんだ」
「まあな。それより、俺の席がどこなのか知らないか? ちょっとど忘れしちゃったみたいでさ」
「はあ? そんなことってある? ⋯⋯まあいいわ。あなたの席はそこ。私の隣よ」
水無月はそう言って、窓際の一番後ろの席に行き肩から下げていた鞄を置くと、真ん中らへんの席に座って星野と談笑している天城の元へと向かった。
言葉遣いと態度はツンツンしているけれど、周囲が俺を避ける中で、ああやって話しかけてくるあたり、差別とかが嫌いな正義感の強い子なのだろう。
ゲームでもそうだった。
そこを怜人につけ込まれて酷い目に遭ったりもしたわけだけど、そこは俺が何もしなければ避けられるというだけの話だ。
俺は仲良く三人で談笑する主人公たちを眺めて微笑ましい気持ちになりながら、教えてもらった自分の席に着くと、会話する友達がいるわけでもないので、朝のHRが始まるまで教科書を読みながら大人しく自習することにした。
そうしてしばらくすると、担任である山本千早希先生が教室に入って来て朝のHRが始まった。
「皆さんおはようございます。今日はぽかぽかして過ごしやすい一日になりそうですね。だからって授業中に居眠りは厳禁ですよ。今日も一日張り切っていきましょう!」
そう言うと、山本先生はぐっと両拳を握ってみせた。
まだ一年目の新任で、多少勢い余って空回りするところもあるけれど、面倒見がよく、どんな生徒にも別け隔てなく接してくれて、しかも見た目も小柄で可愛いらしいとあって、生徒たちに千早希ちゃん先生と呼ばれて慕われている。
そうして朝のHRが終わり、山本先生が出て行き、再び教室が騒がしくなるなか、俺は一時限目の授業の予習を始めた。




