第26話 制裁
Side:水無月
ん⋯⋯ここは⋯⋯?
暗闇から意識が浮上し、ゆっくりと瞼を開く。
そこは薄暗い室内で、埃っぽくビールの空き缶やビニール袋などが散乱していた。
どうやら後手に手錠のようなもので拘束されているらしく、身動きがとれない。
周りには、私を取り囲むようにいかにも不良といった風貌の若い男達が立っていて、全員下卑た笑みを浮かべている。
その中に混じって、以前私に絡んできたあの粘着ストーカーもいた。
「なあ、もう待ちきれねえよ。とっととヤッちまおうぜ」
「まあもう少し待て。ショーを始めるのは吾妻が来てからだ」
「そ、そうだ! まずは僕があいつの前で葵の処女を奪ってやるんだ! 僕を裏切った葵と暴力を振るったあいつへの復讐なんだからな! これで僕と葵一つに結ばれる⋯⋯ぐふふふっ⋯⋯」
「その見せしめの儀式が済んだら、ここにいる皆で輪姦だ。穴という穴を犯しまくってやろうぜ」
「ひゃっほう! これだけの美少女をレイプできるなんて最高だぜ!」
野獣のように目をギラギラと輝かせながら、舐め回すように見てくる男たちに、吐き気がするような嫌悪感を抱きながら、私は絶望を感じていた。
いくら吾妻君が喧嘩慣れしているからって、これだけの数の不良を相手にして勝てるわけがない。
それくらいなら、吾妻君には私のことは見捨ててもらった方がいい。
私が耐えればいいだけ⋯⋯でも私壊れてしまうかも⋯⋯期待してはダメだとわかっていても、吾妻君に頼ってしまう私がいる⋯⋯やっぱり助けに来て欲しい⋯⋯。
「ちゃんと撮影してろよ。脅すために必要なんだからな」
「任せとけって。ばっちり撮ってやるからよ」
その言葉を聞いて私は身を震わせた。
犯されている場面を撮影なんかされて、ネット上に流されて拡散されでもしたら、人生が終わってしまう。
「お願い! なんでもするから撮影だけはやめて!」
私はすがりつくように彼らに懇願した。
「なんだ起きてたのかよ。ダメだ。お前はこれから俺達が飽きるまで性玩具になるんだよ。安心しな。キメセクして、チ〇ポがないと生きられない立派な肉便器にしてやるからな。ギャハハハッ!」
「そ、そんな⋯⋯」
私は愕然とした。
こんなことになるなら、一樹を信じなければよかった⋯⋯のこのこついて行った私が馬鹿だったんだ⋯⋯。
そう心の中で嘆いた時だった。
ガラリと音を立てて、入口のドアが勢いよく開かれた。
「来たか」
リーダー格と思われる男が、目を細めながらニヤリとほくそ笑む。
そこには、吾妻君が鬼のような形相で立っていた。
外は雨が降っていたのか、着ている制服がずぶ濡れで、ポタポタと水滴が落ちている。
「水無月は返してもらうぞ」
普段聞いたことがないような低い声を出して、吾妻君が凄む。
「お前、ホントに今の状況がわかってんのか? お前は今から俺達にボコボコにされて、葵ちゃんが犯されるのを目の前で見せられるんだよ」
「吾妻君逃げて! いくらあなたでも無茶だわ!」
「安心しろ水無月。すぐに助けてやるから」
「物分かりの悪いやつだな。おい、お前ら、クソ生意気なあいつをボコってやれ」
リーダー格の男がそう煽ると、他の男達の内、まずは入口近くにいた二人が、同時に吾妻君に襲いかかった。
吾妻君は、最初に殴りかかって来た男の腕を掴むと、背負投げの要領で地面に叩きつけ、振り返りざま、もう一人の腹部に後ろ回し蹴りをお見舞いした。
瞬く間に制圧され、床に伸びて苦しげに呻く二人の男。
対して吾妻君は息一つ切らしていない。
「なっ⋯⋯!?」
「あいつ二人を一瞬で倒したぞ!」
「どんだけだよ!」
残された男達が騒然とする。
私も驚いていた。
強いのは知っていたけれど、まさかここまでなんて⋯⋯もしかして私助かるの⋯⋯?
絶望的な状況から一転して、私が希望を見出していた時だった。
「やれやれ、俺がやるしかねえようだな」
と今度は一際ガタイの良い男が、ポキポキと指の関節を鳴らしながら前に出た。
「俺はそいつらみたいにやわじゃねーぞ。ボクシングの県大会でチャンピオンになった男だからな」
「無駄口叩いてないでさっさとかかってこいよ」
吾妻君が、手の甲を相手に向けてクイクイと動かし挑発する。
「てめぇ⋯⋯痛い目に遭わないとわからねぇらしいな⋯⋯いいぜ。俺の本気をみせてやるよ」
ガタイのいい男は、ファイティングポーズをとると、そのまますり足で距離を詰め、先制のジャブを放った。
それに対して吾妻君は、両腕を顔の前に掲げてガードする。
それを見たガタイのいい男は、即座にがら空きとなったみぞおちにボディブローを打ち込んだ。
そうして態勢の崩れた吾妻君に、猛烈なラッシュを繰り出す。
吾妻君はされるがままの防戦一方だった。
「どうだ? 実力の差を思い知ったか?」
攻撃をやめ、息をつきながら、ガタイのいい男が勝ち誇る。
「⋯⋯なんだ、こんなもんか⋯⋯県大会チャンピオンってのも大したことないんだな」
けれど、顔を上げた吾妻君は、ダメージを受けた様子はなく、ケロっとしていた。
「いつまでも遊んでると水無月に悪いし、そろそろ決めさせてもらうぞ」
そう勝利宣言をすると、吾妻君は一瞬の内に相手との距離を詰めて、強烈な右ストレートを放った。
ガタイのいい男もなんとかそれに反応し、左ストレートを放って応戦する。
互いの打ち出したパンチが交錯し、バキッと顎が砕ける音が響いた。
ガタイの良い男が、白目を剥きながらその場に膝から崩れ落ちる。
「⋯⋯次は誰が相手してくれるんだ?」
宣言通り闘いに勝利した吾妻君が、残された男達にギロリと睨みをきかせた。
「やべえ、橋本さんまでやられたぞ!」
「こんな化け物の相手なんかしてられるかよ!」
「ぼ、僕もう嫌だ!」
「逃げろ!」
自分達では到底敵わないと判断したらしく、男達は蜘蛛の子を散らしたように、足をもつれさせながら慌てふためいて室外へと出て行った。
「⋯⋯情けないやつらだな⋯⋯」
呆れたようにそう呟くと、吾妻君は一人残されたリーダー格の男に視線を向けた。
「後はお前だけか⋯⋯」
「なんなんだ⋯⋯なんなんだよ、お前⋯⋯」
「ただの善良な読書と料理好きの普通の男子高校生だが?」
「黙れ! もう我慢ならねぇ⋯⋯殺してやるよ!」
リーダー格の男は、激しく憤りながらそう言うと、懐から折りたたみ式のサバイバルナイフを取り出した。
「死ねぇ!」
叫び声を上げながら、吾妻君に向かって突進し、その手に持ったサバイバルナイフが、彼の左胸を狙って突き出される。
「シッ!」
けれど吾妻君は、冷静な動きで身を捩ってその攻撃を躱すと、短く息を吐く音を立てながら、相手の手首に手刀を当ててサバイバルナイフを床に落とした。
そのまま腕を掴み、背中側に回して捻り上げ、関節を極める。
「いててててっ!」
リーダー格の男が、痛みに呻く。
「二度と水無月に近づくなよ。もし破ったら、今度は完全に潰しにかかってやるからな」
「わ、わかりましたっ! だから手を離してっ!」
「ああ、それじゃあ、ほら」
吾妻君は軽い調子でそう言うと、掴んでいた相手の腕を勢いよく上に向かって引っ張り上げた。
ボキッ!
「ぎゃぁああっ!」
骨が外れる音が響き、リーダー格の男は、大きく悲鳴を上げると、口から涎を垂らして失禁し、股間を濡らしながら気絶した。
「吾妻君⋯⋯」
私の胸の裡は、助かったという安堵と、吾妻君への想いなんかでぐちゃぐちゃだった。
「水無月、待たせたな。今自由にしてやる」
吾妻君は、気絶しているリーダー格の男のポケットなどを探り、手錠の鍵を見つけ出すと、それを使って私の拘束を解いてくれた。
「これでもう大丈夫だ。どこか痛むところはないか?」
「ううん、平気。吾妻君、助けてくれて本当ありがとう。あなたは私の恩人だわ。おかげで純潔を散らされずに済んだ。借りを返すどころか、今度は返しきれないくらいに大きくなっちゃったわね」
「俺は水無月が無事だっただけで満足だよ⋯⋯は、は、ハックション!」
「そう言えばずぶ濡れじゃない。寒いんじゃないの?」
「あー、来る途中でゲリラ豪雨に遭ったから。でも大したことないよ」
「だめよ、今日は暖かいっていっても、雨に濡れると気化熱で体温が奪われるんだから。すぐにシャワーを浴びて温まらないと」
「わかったよ。でもこいつらはどうしようか」
「それなら帰る途中でスマホで警察に連絡すればいいわよ。他のやつらは皆逃げ出しちゃったみたいだけど、リーダー格のこいつの身柄さえ押さえられれば他のやつらも芋づる式に捕まるでしょ。事情聴取もあるだろうけど、事情を話せば後日に回してくれるだろうし」
「そうだな。こいつもしばらくは目を覚まさないだろうけど、念の為水無月を拘束していたこの手錠で拘束しておけば、簡単に逃げ出すことはできなくなるだろうしな」
そういうことで話しはまとまり、吾妻君が、手錠で気絶しているリーダー格の男を拘束し、私達はその場を後にした。
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