第23話 忍び寄る不穏な陰
Side:一樹
「クソッ! あいつ不良のクズ男のくせに調子に乗りやがって!」
苛立った俺は、声を荒らげながら、道端に転がっていたダンボール箱を蹴り上げた。
ああ、ムシャクシャする。
陽菜も葵もあいつにとられちまったし、おかげで葵に勉強を教えてもらえずに、今回の中間テストは散々だった。
これも全部あいつのせいだ。
どうにかして復讐したいけど、あいつ喧嘩は強そうだからな⋯⋯。
暴力に訴えても勝ち目はなさそうだ。
俺が何か良い策はないかと思案しながら繁華街の通りを歩いていると、ふと通い慣れたゲームセンターが目に入った。
「ここで気分転換でもするか⋯⋯」
そう考えた俺は、自動ドアを潜って店内に入った。
煙草の臭いの染みついた店内には大小様々なゲームの筐体が並び、疎らに利用者が座って銘々にゲームを楽しんでいた。
俺は、ちょうど席が空いていた人気格闘ゲームの前に座ると、硬貨を投入して、アーケードモードでプレイを始めた。
手慣れたプレイングで次々とステージをクリアしていき、ついにラスボスの一歩手前というところまで来たけれど、敵のいやらしい飛び道具に苦戦し、あえなく惜敗してしまった。
次こそはとコンティニューしようとした時、背後から声をかけられた。
「君上手いねー」
「え⋯⋯?」
振り向くと、そこには、二十歳前後程のチャラい格好をした若い男性が立っていた。
ウルフカットにした髪を金に染め、耳にはごつごつとしたピアスを嵌めている。
「君、天城一樹君でしょー?」
「な、なんで俺の名前を⋯⋯?」
俺はビビって声を震わせた。
「そんなことどうだっていいじゃーん。それより俺、『アッシュ』ってグループのメンバーなんだけど、ちょっと君にお願いしたいことがあるんだけどー」
チャラい男性は、馴れ馴れしく肩に手を回すと、何か甘ったるい匂いのする口臭をさせながら言った。
俺はその言葉を聞いて背筋を凍りつかせた。
『アッシュ』っていえば、ここらへんじゃ有名な半グレグループだ。
こいつも甘い匂いさせてるし、ヤバいクスリでもやってるに違いない。
お願いって⋯⋯絶対ろくでもないことだろ⋯⋯逃げたいけど、名前まで知られてるし、後でまた酷い目に遭わされるかも⋯⋯ここは話しを聞くしかないか⋯⋯。
「お、お願いって、な、何ですか⋯⋯?」
「別に難しいことじゃないよー。君って水無月葵っていう女の子と仲が良いんでしょー? その子とお友達になりたいってやつがいるから、ちょっとその子を俺達に紹介してほしいんだー」
「え⋯⋯で、でも⋯⋯」
俺は狼狽えながら口ごもった。
葵と会わせてやったとして、それだけで済むとは思えない。
噂じゃ『アッシュ』に目をつけられて、強姦された女の子もいるらしいし、葵も同じような目に遭わされるかも⋯⋯。
「口ごたえすんな。お前は、はいわかりましたって頷けばいいんだよ。逆らったらどうなるかわかってんだろうな」
チャラい男性は、それまで飄々とした口調だったのが、突然豹変してドスの効いた低い声で脅してきた。
「ひいっ!?」
俺は恐怖に震え、短く悲鳴を上げた。
これがこいつの本性なんだ。
他にも『アッシュ』にはヤバいやつばかりが揃っているんだろう。
俺には、その言葉に従うしかもう選択肢は残されていなかった。
「わかったな?」
「は、はい⋯⋯わかりました⋯⋯やってみます」
こうして俺は、破滅へと向かい足を踏み出すことになった。




