第16話 バレる裏切り
Side:星野
放課後になり、私は今日のノート回収係だったので、クラスメイト全員分のノートを回収して、職員室にいる担任の千早希ちゃん先生の席まで運んで行った。
そうしたところ、千早希ちゃん先生に他の雑用まで頼まれてしまったので、私は教室で待ってくれているかず君にレインで少し遅れると伝えてから、その雑用を手伝った。
「ありがとね星野さん、おかげで助かったわ」
「いえ〜。また何かあったら声をかけてください〜」
私は職員室を出て、教室へと向かった。
結構時間使っちゃった。かず君待ちくたびれてるかも。
早足で歩き教室の近くまで来た時、中から男子達の話し声が聞こえてきた。
「いや〜マジで美味かったわ。星野さんの手作り弁当」
その言葉を聞き、私は思わずドアにかけた手を止めて、その場に立ち止まった。
「それよりお前あの約束ちゃんと守れよな」
かず君の声だ。
「約束って何だっけ?」
「おい、とぼけんな。陽菜の弁当食わせる代わりに、ゲームでレアアイテム出たら俺に譲るってやつだよ。忘れたとは言わせねえからな」
「冗談だって、分かってるよ」
「それにしてもホントに良かったのかよ。星野さんお前のために毎日早起きして弁当作ってくれてるんだろ? これってその頑張りを裏切ったことにならないか? もしばれたらヤバいんじゃね?」
「大丈夫だって。あいつどっか抜けてるとこあるからさ。それに俺もあいつの弁当は正直食い飽きてて、たまには学食で食べてみたかったから丁度良かったよ」
もう我慢出来ずに涙が溢れ出し,私はそれ以上聞いていられずに、口元を手で押さえながらその場から逃げ出すように駆け出した。
行く宛もなく、ただがむしゃらに廊下を走っていると、曲がり角で誰かと鉢合わせた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
勢い良くぶつかった私は、その相手を押し倒すようにしてその上に覆い被さった。
「あいててて⋯⋯って星野!?」
「あ⋯⋯吾妻君⋯⋯」
「何かあったってことは見れば分かるけど、とりあえず離れてくれないか?」
「あ⋯⋯ごめんね⋯⋯」
吾妻君と密着していることに今更ながら気付いた私は、恥ずかしさに顔を赤らめながら立ち上がった。
「それでどうしたんだ? 目元が真っ赤だけど泣いてたのか?」
「吾妻君⋯⋯私⋯⋯」
「すぐには話せないか。とりあえず落ち着ける場所に行こう。ほら、これハンカチ。それで涙を拭えよ」
「⋯⋯ありがと」
私は差し出されたハンカチを受けとり、それで涙で濡れた目元を拭きながら、吾妻君の後についてその場を離れた。
吾妻君が連れて来たのは、購買だった。
そこにある自販機で二人分の飲み物を買うと、吾妻君はその缶を私に手渡し、ベンチに座るように促した。
「ミルクティで良かったか?」
「うん、ありがと⋯⋯」
「それで、どうして泣いたりなんてしてたんだ?」
ブラック珈琲を一口飲んでから、吾妻君が尋ねた。
「うん。実はね、こんなことがあって──」
私は吾妻君に経緯を説明した。
「そんなことがあったんだな。それは泣くのも当然だ。星野さんは、信頼していた天城に思いを裏切られたんだから」
「私これからどうすれば良いんだろう⋯⋯かず君のことはもう信じることができそうにないし、だからって無視するわけにもいかないし⋯⋯」
「多少気まずい思いを味わうとしても、はっきり言ってやった方がお互いのためだと思うけどな」
「⋯⋯うん、そうだね⋯⋯ちょっと考えてみるよ」
「そうした方が良いだろうな。それでこの後はどうするんだ?」
「吾妻君に話しを聞いてもらったおかげでもうだいぶ落ち着いたから、そろそろ帰ることにするよ」
「そっか。それじゃあ俺が家まで送って行くよ」
「ええっ!? いいよ、そんな⋯⋯そこまで迷惑かけるわけには⋯⋯」
「気にすんなって。それにこんなに傷ついた状
態の星野を放っておくわけにはいかないからな」
「⋯⋯そこまで言ってくれるんだったらお願いしようかな。正直今一人になるのはキツイし⋯⋯」
「よし、それじゃあ一緒に帰るか」
「あ⋯⋯でもかず君を教室で待たせてるんだった⋯⋯どうしよ⋯⋯それに荷物も置いたままだし⋯⋯」
「そんなのあいつが悪いんだから、レインで一言断りを入れておけば良いんだって。文句を言われたとしても無視しろよ。あいつはそれだけのことをしたんだからな。ただ荷物については、あいつが帰るまで待つしかないだろうな」
「うん、分かった。じゃあそうするよ」
私はスマホを取り出すと、レインでかず君に一緒には帰れなくなったとメッセージを送った。
すると、すぐに返信が来たことを知らせるバイブ音が鳴ったけれど、私はそれを無視してスマホを仕舞った。
教室の様子は吾妻君が見に行ってくれることになり、私がそのままベンチに座って待っていると、しばらくしてから吾妻君が私の鞄を持って戻って来た。
「天城はあれからすぐに帰ったみたいで、教室には誰もいなかったよ」
「うん、ありがとう。それじゃあ帰ろっか」
「ああ」
私は鞄を受け取ると、吾妻君と一緒に学校を出て帰路についた。
「星野の家はどこにあるんだ?」
「吾妻君が髪を切った美容院の二階だよ〜。うちって自宅サロンになってるんだ〜」
吾妻君が慰めてくれたおかげで、だいぶ気持ちが楽になり、いつもの調子で喋れるようになった。
「へえ、そうなのか。お母さんに憧れてるって話しだったけど、自分の髪もそのお母さんに切ってもらってるのか?」
「うん、そうだよ〜。小さい頃からずっとお母さんに切ってもらってるの〜」
「やっぱりそうなのか。そのボブヘアーよく似合ってるもんな。緩くウェーブしてるのも、パーマをあててもらってるのか?」
「ううん、これは生まれつきくせ毛なの〜。それで毎朝セットが大変なんだ〜」
「弁当を二人分も作った上にそれだと、ホントに大変そうだな。星野がそれだけ苦労して作ってる弁当を天城のやつは⋯⋯」
「かず君も小さい頃は優しかったんだけどね〜。公園の遊具から落ちて怪我して泣いている私を、必死に慰めて家までおぶって行ってくれたりもしたことがあったし⋯⋯」
「いつからあんなふうになったんだ?」
「高校に入学してからかな〜。約束をすぐに破ったり、私や葵ちゃんにたまにいやらしい視線を向けるようになったり⋯⋯それは思春期の男の子なんだから仕方ないって割り切ってたんだけどね〜。今日のことは、さすがにそう簡単に許したくはないな〜」
「だよな。さすがに、せっかく作ってもらった弁当を他のやつに食べさせるってのはない。しかも見返りを当てにしてだなんて」
「うん、明日からもうかず君の分のお弁当は作らないつもり〜。でもそうすると食材が余っちゃうな⋯⋯あ、そうだ! 良ければ吾妻君にお弁当作ってこようか。吾妻君いつも味気ない菓子パンばっかり食べてるし、この前卵焼きを美味しいって言って食べてくれたもんね〜」
「え、良いのか? そりゃ作ってくれるってんなら喜んで食べるけど⋯⋯手間がかかるんじゃないか?」
「一人分も二人分も大して変わらないよ〜。それに今までも二人分作ってたわけだしね〜」
「そっか。それじゃあお願いしようかな。あ、そうだ。作ってもらえるなら食材費を払うよ。千円でいいか?」
「お金なんて要らないよ〜。私が好きで作るってだけなんだから〜」
吾妻君が財布を取り出そうとするのを、私は慌てて止めた。
「いや、そういうわけにはいかないだろ」
「ホントにいいんだって〜。かず君の時もお金はもらってなかったしね〜」
「え、そうなのか?」
「うん、だから遠慮しなくて大丈夫だよ〜」
「そっか。ありがとな。いやーそれにしても楽しみだなー。この前の卵焼き、マジでめちゃくちゃ美味かったし」
「ふふ、じゃあ卵焼きは入れておくね。他にリクエストはない?」
「そうだな⋯⋯俺は弁当だと、やっぱり定番の唐揚げなんかが好きだな」
「そうなんだ〜。それじゃあ唐揚げもね〜」
そんな風に楽しく会話しながら歩いていると、私の家の近くに着いた。
「ここまででいいよ〜。かず君の家私の家の隣だから、もし一緒に帰って来たのを見られでもしたら、また面倒なことになりそうだからね〜」
「分かった。それじゃあ俺はここで」
「うん、送ってくれてありがと〜」
私はそこで吾妻君と別れて帰宅した。
そうして夕食を食べたりお風呂に入ったりした後、私は自室で鞄の中に仕舞っておいたスマホを取り出した。
予想した通り、かず君からレインのメッセージが何件も送られてきていた。
私は大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせると、決心したことを伝えるためにレインにメッセージを打ち込んだ。
ひな:かず君こんばんわ
カズ:やっと返信しやがった。おい、陽菜! 何ドタキャンしてくれてんだよ。その後メッセしても全部スルーしやがって。
ひな:悪いのはかず君の方だよ。
カズ:はあ? 俺の何が悪いってんだよ。
ひな:思い当たる節があるんじゃない?
カズ:なんで俺が責められてるんだよ。悪いのはドタキャンした陽菜の方だろ。
ひな:気づいてないなら私から言わせてもらうね。かず君、今日の昼休みの時、私に嘘吐いてお弁当を友達に食べさせてたよね。
カズ:え!? な、なんでお前がそのことを知ってるんだよ!
ひな:そう言うってことは、やっぱりそうしたってことなんだ⋯⋯。
カズ:う⋯⋯そ、それはその⋯⋯やむにやまれぬ事情があったというか⋯⋯。
ひな:言い訳なんて聞きたくない。明日からはもうかず君の分のお弁当作ってあげないから。登校も一人でするから一緒には行かない。
カズ:おいおい、ちょっと待てよ! 少し落ち着けって! そりゃあ嘘空吐いたのは悪かったけど、それだけでそこまで怒ることないだろ?
ひな:そっか。かず君にとってはそれだけのことだったんだね⋯⋯もう話すことはないから。バイバイ。
私は返信を待たずにレインを閉じた。
その後、通知のバイブ音が鳴り止まなかったので、煩わしくなった私は、かず君をブロックした。
そうして私は、今度は仲良し三人組のグループチャットを開いた。
ひな:二人とも今良い?
Aoi:良いわよ。
紗耶:上に同じくです。
ひな:二人に伝えておきたいことがあるんだ。
Aoi:何? 陽菜の語尾が伸びてないってことは、真面目な話しってことよね。
紗耶:もしかして、兄さんに関することじゃないですか?
ひな:紗耶ちゃん、良くわかったね。
紗耶:まあ、私も最近の兄さんには思うところがあって⋯⋯とりあえず先に陽菜先輩の話しを聞かせてもらっていいですか?
ひな:うん。それじゃあ話すけど、実は今日の放課後にこんなことがあって−−
私は二人に放課後あったことを伝えた。
Aoi:何よそれ! 酷すぎない!?
紗耶:擁護のしようもないですね⋯⋯。
ひな:うん。だから私も葵ちゃんと同じように、これからかず君とは距離を置こうと思って。
Aoi:それが最善手ね。ここで簡単に許すと余計つけあがりそうだし。
紗耶:私もそうした方が良いと思います。そう思うのには、私の方でも理由があって、この前昼休みに気まぐれで屋上に行った時に、偶然こんな話しを聞いてしまって──。
紗耶ちゃんがその時耳にしたことを私達に伝えた。
Aoi:私と陽菜が一樹と付き合ってるですって!? しかも肉体関係まで持ってるなんて何をどうしたらそんな与太話が出てくるっていうのよ!
ひな:それはかなり気持ち悪いね〜。
紗耶:はい。それで私も、お二人には兄さんとの付き合いを考えた方が良いと伝えようとおもっていたんです。
Aoi:ええ。あいつの顔はもう二度と見たくないわ。
ひな:でも同じクラスだからどうしても顔を合わせることになっちゃうよね〜。私なんて隣の席だし〜。
Aoi:そうなのよね⋯⋯そうだわ、なら休み時間は私と吾妻君のところに逃げてきなさいよ。一樹も吾妻君のことは相当嫌ってるみたいだからおいそれとは近づこうとしないでしょ。
紗耶:それが良いですね。怜人先輩だったら、安心です。
ひな:うん。じゃあそうするね〜。
Aoi:そのことに関してはそれで良いとして、一つ気になったんだけど、紗耶、あなたいつの間に吾妻君のこと下の名前で呼ぶようになったの?
紗耶:ああ、それはですね−−
その後は、紗耶ちゃんと吾妻君がGWに予定している映画デートのことや、紗耶ちゃんの誕生会についての話しで盛り上がった。




