国王様、お召し物が反対です。
「そのお召し物は後ろ前ではございませんか?」
おはようございます。と朝の挨拶の二言目。自室から出てきた国王様にピシッと指摘すれば、ゆっくりと下を向き自分の失態に気付いた彼が、今出てきたばかりの自室へと静かに帰っていった。
扉の前で待つ事数分。
いくら待てども出てくる気配のない国王様に、私はノックをしてから部屋に入る
「陛下、お急ぎくださーー」
思わず言葉が詰まったのは、目の前に不可解なものがみえたから。
おそらく服を直そうとしたのだろうけど…一体何をどうしたらそうなるのか…
本来なら腕を通すべき袖の穴から耳が出ているし、ボタンの所におもいっきり髪の毛がひっかかっている…
それのせいで身動きができず固まっているのだろうけど…。それならそうと、さっさと助けを求めれば良かったのに…。
仕方がない。と歩みより、ぎしぎしにボタンと絡まっているその髪の毛を丁寧にほどく作業に入る
「陛下、やはり御付きの従者を設けませんか?」
「いやだ。君だけでいい」
「ですが私もそれなりに忙しいですし、つねに陛下のそばにはいられません」
「だったらそちらの業務の手伝いを増やせばいいだろう」
やっと正解の穴から顔を出した陛下とパチリと目が合う
「そうはいいましても…」
「君以外の者に…こういう醜態を晒したくはない…」
「…」
「他の者にバレれば王という威厳に傷がつく恐れがある」
申し訳ありません、陛下…。
国王陛下がドジっ子なのは、既に国民全員周知しております。
口には出さないまま小さく微笑む
私のお仕えする国王様は自他共に認めるドジっ子である。
いまのようなドジは日常茶飯事だし。本人も気をつけて直そうとしているようなんだけど
改善はいまだされていない
そのうえ平然と“ドジっ子であることがバレていない”と思いこんでいるところが、すでにドジを踏んでいるのだけど…これは流石にだまっておこう。
きちんと服を着れた陛下がやっと自室を出たので、そばに仕え一緒に長い廊下を歩く。いつもだとここで本日の予定を聞いてくるはずなので、懐からメモ帳を取りだし待っていれば予想通りに陛下は私を見た
「母上、今日の予定は…」
言った瞬間気付いたのだろう…陛下はハッと目を見開くと耳まで真っ赤になっていた
「母上…?」
「いや、ちが…間違え……」
「…」
全身真っ赤に染まった陛下は、それを隠すように体を縮めて廊下の隅にしゃがみこむ
「今日一番恥ずかしい…」
小さくぽそりと呟いた言葉に、私はクスリと笑った
陛下、まだ朝ですよ
今日の一番を決めるには早計かと思われます
あなたのドジはここからですから
「母上様はご旅行で不在です」
「~~っわかっている。間違えただけだ。」
さっさと予定を言え。とすこしだけ睨んでくる陛下の顔はまだ赤く、私はくすくすと笑みが溢れる
あぁもう本当に、可愛いですね国王様。
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