人類は害虫です
「地球にとって人類は害虫です」
宇宙政府の代表団は言った。環境問題、食糧問題が深刻化する中、人類は宇宙政府の監視下に置かれていた。宇宙政府は随分と前から地球をウォッチしていた。そしていつかは人類が自らその問題解決にあたるに違いないと考えていたらしい。だが人類は問題をこじらせるばかりで、いつまで経っても問題解決には程遠い状態が続いていた。そこで業を煮やした宇宙政府が、その代表団を地球に送り込んで来たのだった。しかし害虫呼ばわりされた人類側も腹を立てていた。そこまで言うか? 確かに問題を放置していた我々にも落ち度はある。だが、害虫と言われる筋合いはない。そこでその是非をめぐる話し合いが行われていた。
「害虫には、いろいろな種類があります。これを同じ意味で我々を害虫と呼んでいるのでしょうか?」
人類の代表団は決然とした調子で激しく抗議していた。
「田畑で農作物を食い荒らす害虫は農業害虫と呼ばれています。バッタやイナゴをイメージしてもらえれば良いかと思います。増えすぎた人口で農作物を食い荒らしている人類はまさにイナゴの大群ではないでしょうか?」
宇宙政府の代表団は言った。
「米や小麦粉などの貯蔵した穀物を食い荒らす害虫は貯穀害虫と呼ばれています。人類は備蓄した穀物もすべて食い尽くそうとしています。これはまさに貯穀害虫の性質と言えるでしょう。そして人と動物の疾病に関係しているのが衛生害虫です。昆虫も含めて動物が動き回るまさにその性質によって疾病が広がっているのです。人間だけがその被害者であるという主張は通りません。人類もまた加害者であるという視点を受け入れるべきでしょう」
宇宙政府の代表団は容赦なく人類を糾弾していた。人類の代表団は沈黙していた。
「建物や家具などの財産に対して危害を加える害虫は財産害虫と呼ばれています。これこそが宇宙政府が最も着目している点です。人類はかけがえのない地球の環境を破壊しています。大気を汚染し、海洋を汚染し、地上を汚染しています。分解できないプラスチックのゴミが蔓延しています。核のゴミの処分を過疎地に押し付けています。各地で紛争が絶えません。これは地球というかけがえのない財産に対して危害を加える行為に他なりません。人類は財産害虫です。このような種族を放置することは宇宙憲章に基づいて行動している我々には到底考えられません」
宇宙政府の代表団はそう言って話を結んだ。人類の代表たちは顔を見合わせていた。
「おっしゃる通りです。私たちは少しいい気になっていました。これからは行動を改めます。有害物質に対して厳しい法令を定めます。環境問題、食料問題の解決に向けて各国で連携します。戦争も紛争もない世界に向けて歩み寄ります」
口だけではなんとでも言えるということで、宇宙政府の代表団は納得しかねていた。そこで五年の経過措置期間が設けられることになった。
その五年の間、人類はかつてないほど改心した。人類もまだまだ捨てたもんじゃないと思える程の目覚ましい成果を伴った日々だった。大気汚染、海洋汚染は無くなり、美しい空と海が戻って来た。地上から争いがなくなり、平和な世界が訪れた。人々は以前の自分たちは確かに地球にとって害虫だったと思い返していた。だがもう今までの私たちではない。人類は生まれ変わったのだ。そう確信していた。そして経過措置期間の結果をもって、各国の代表団は宇宙政府の害虫認定を取り消してもらうために再び交渉に望んでいた。
「農業害虫、貯穀害虫、財産害虫については取り消しても良いと考えています」
宇宙政府の代表団は態度を軟化させたようだった。
「衛生害虫については、これは動物全体のことですから、この区分はなしでもいいかと思っています」
「じゃあ、害虫認定は取り消してもらえますね」
「いや、ダメです」
「どうしてですか?」
「あなたがブサイクだからです。見ていて不快です」
宇宙政府の代表団は言い放った。
「不快害虫という区分があります。ヒトに対して直接危害を与えることはないが、姿形などから気分を害するクモやムカデなどの害虫。まさにあなた方はそうした害虫なのです。今度、私たちと話をする時は、その資格があるかよく鏡を見て考えてほしいと思います」
そして結局、宇宙政府代表団の理不尽なルッキズムにより人類は害虫認定されてしまった。しばらくの間、不快害虫認定の直接的な原因となった各国の代表は失意の中にあったが、やがて美男美女の英才教育を開始した。