2
目が覚めると、全ての世界が大きくなっていた。というか、俺が小さくなってる……??
周りを見渡すと大きな葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ……そして大きな虫。寝転がっていた俺の上をのそのそと黒い足が何本もついた生物が通り過ぎていく。虫の裏側って、なんていうか、ほんとグロテスク。目を覆って現実逃避した。
で、気がついたらはっはっという鼻息が聞こえてボタボタと何かが垂れてきていて。恐る恐る手をどけると大きな牙が見えて。
──あ、食われる。
手を素早く上げてロケットのポーズをとり、足をピンと伸ばす。小学校の時マットの上でコロコロと転がったあの素早さ、機敏さを思い出しローリングサンダーと叫びながら──久々にやってみた。ガキン、牙と牙のぶつかり合う音。ガコッ、俺の脇腹が何かの植物にぶつかる音。ほぼ同時だった。
「いってえええ」
痛い。普通に痛い。どうやらこれは夢では無いらしい。はっ、最悪だ。普通に詰んだ。きっと僕今巷で流行りの異世界転生とやらをしたのに。きっとしたのに。
今の状況で題名を考えるとしたら、
異世界転生~転生した後魔物に食われてすぐ死にました~ [完]
こうなる。
いや、なってどうする!? 1人ツッコミをしながら起き上がって脇腹を抑えながらどこか逃げられる場所は無いかと全力で走り出す。けれど、どこに行っても草、草、草。
いや、転生って神様のギフトとか、特別な能力とか、そういうボーナスないんかよ! と心の中で叫びながら、ハアハアと変質者のような息遣いで追いかけてくる魔物? からただ必死に逃げる。
魔物は追いかけっこを楽しんでいるようで、時折足音がゆっくりになっていくのが聞こえた。ああ、絶対弱らせて食べる気だコイツ。
しばらく走っていると、踏まれて道のようになっている所まで出できたので意味が無いのは知っていたけどなんとなく草に隠れながら道を辿っていく。すると、土の道が見えてきて──その向こうになにかの柵が見えた。
俺は柵の下からくぐって囲われた中に入る。すると魔物は慌てて走ってきて、柵の前でオロオロしだした。
「え、お前入れないの?」
どうやらこいつは中に入ることが出来ないらしい。柵の前を行ったり来たりする魔物を改めて観察する。白いふわふわの毛なみに、ぴょこんと立った日本の耳、つぶらなまん丸い瞳。鋭い2本の前歯。嗅覚が優れていそうな鼻。なんていうか、さっきまで真っ黒で何よりも恐ろしく見えていたその怪物は。
「いぬ?」
そう、犬に似ていた。
「犬か、なーんだ、犬か」
俺は犬にビビってたのかー、なんだーと思ったと同時に腹が立ってくる。
「おい、お前。俺をビビらせやがって。ただの犬のくせに。異世界ライフを邪魔するな!」
犬の前でキャンキャンと文句を言ってみる。通じないのは分かってたけど文句ぐらいは言いたかった。本当に怖かったんだからな。犬もどきはじっと俺を見てキャンキャンと吠える訳でもなく、威嚇し始めて。な、なんだよと怯んだら──そいつは柵に思いっきり体当たりしてきた。
「ぎゃーーー」
俺は慌てて柵から離れる。犬もどきは柵に当たるとバチバチバチと発光して、ものすごく遠くに飛んでった。そう、ものすごく遠くに。
「たーまやー」
清々しいくらいの打ち上げだった。可哀想に。