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 紳士淑女の皆々様方。


 この転生小説で溢れる世界線で目に止まった事を感謝しよう。合掌。


 堅苦しい挨拶はこれくらいにして、まずは俺の事を話そうじゃないか。


 名前は佐藤拓也。ちなみに佐藤は全国でいちばん多いとされている苗字らしい。母親の旧姓は木村。めちゃくちゃ、父親に感謝した。全国の佐藤さんもありがとう。


 ごくごく普通の一般家庭ですくすくと育っていた俺だけれど、奇妙な体験をした事が1度だけある。街灯もないような田舎にある祖母の家で神隠し的なものにあった、らしい。らしいと言うのも俺に記憶がないからだ。


「遊びに行ってくるって行ったきり、一週間行方不明になったのよ。警察も村の人もボランティアもみんなアンタを探したんだけどどこにも居なくて。打ち切りにするかどうかって話をしてたらアンタがひょっこり帰ってきたの」


 家を出て行った時の服装のままだったけれど特別汚れている訳でもなく、タイムスリップしてきたみたいだったと母親は話していた。


 そこから、神隠しや妖怪について興味を持った。


 そして今現在に至るのだけれど。


 まあ、僕のスペックを聞いてくれたまえ。


 性別:男

 年齢:35歳

 身長:165cm

 体重:50kg

 体型:痩せ型

 外見:オタク、壊滅的服のセンス

 彼女:居ないイコール年齢

 仕事:派遣社員(但し今月で契約終了)

 家:ボロい賃貸


 ……これ以上聞くか?低年収、低身長、ヒョロガリ体型の童貞男。よく言えば振り切ってマイナスパーフェクト、世間様では負け犬と言う。存分に罵ってくれたまえ。



 僕は長い間フリーターをしていた。なんなら真面目に働く友人達をバカにしていた。そんな友人達は今現在、可愛い奥さんを貰って立派なマイホームを建ててある程度の役職についている。


 ──もう、随分会ってない。


 フリーターをしながら何をしてたかと言うと、日本各地の妖怪について調べていた。


 日本の有名な妖怪と言えば河童や鬼、天狗なのだが、神として祀られていたり、逆に祟り神として恐れられていたり。伝承が人々の教訓となっていたりと地域によって様々な姿を見せてくれる。


現代でもトイレの花子さんや口裂け女、くねくね等上げだしたらキリがないくらいに妖怪や怪談というものは存在し、生まれている。


 妖怪と幽霊は違う。僕は心霊スポットを巡ったりもしたけれど、いまいちしっくりこなかった。僕が思うに、幽霊とはあくまでも人間であるからだと思う。


 因みに1番好きなのは一反木綿。某アニメを見ながら乗せてもらえる日を夢にみたものだ。懐かしい。


 話は脱線したが幼少期の体験により立派な妖怪ヲタクに変化を遂げた僕は、人生のレールを無事外れていってしまった訳である。


 そして、今月派遣切りされた。お先真っ暗だ。


 実家に帰ることが出来たら良かったが、親父の借金のせいで実家も祖母の家ももう無い。母親は離婚してから音信不通、父親からは金をせびる連絡がたまに来るだけ。

 こんなに悪いことが立て続けに起こる!? という、まさにそういう状況だ。


「んー……」


 通帳といくら睨み合ったって残金は0円。手元にあるのは荷物を売り払って何とか作った1万円のみ。家賃も払えない。


「詰んだな☆」


 もう、やけくそである。失うものなんて何も無いので思い切って家を解約した。リュック1つ、身軽になった僕は電車を乗り継ぎながら祖母の家へと向かう。祖母の家は誰かに買い取られて確か空き家になっているはずなので、侵入出来ないかと考えたからだ。不法侵入とか今は考えない。






 駅に着くと幼い頃に来たきりなのに、どこか懐かしい感じがした。無人駅の改札を通って、大きく息を吸う。季節は秋。少しだけ冷たくなった風が頬をくすぐる。


「さて……」


 記憶を頼りに祖母の家を目指す。風景は変わってしまっていてもおばちゃんが必ずおまけをくれた駄菓子屋とか、フンは持ち帰りましょうと書かれた古びた犬の看板だとか、記憶と変わって居ない所はあって。なんとなく進んでいき、青い屋根の家、遊んだ記憶のある公園、と感傷に浸りながら歩いてこの角の向こうだ! というところまで特定できたので。無意識に小走りになって角を曲がると──そこは更地だった。










「はー」


 色が所々禿げた赤い鳥居をくぐりながら手すりもない石の階段を1歩ずつ登っていく。鳥居の向こうは草が生い茂っていた。


 階段を登りきったものの息切れが止まらずに、ゼェゼェと死にかけのまま呼吸を繰り返す。近くに御手洗があったのでリュックに入っていたタオルを取り出してから蛇口を捻る。最初は濁っていたものの、しばらくすると透明でキンと冷たい水が湧き出てきた。僕はタオルを思い切り濡らして顔に当てた。


「くあー、キモチイイ!」


 タオルを外すと蛇口に顔を近づけてごくごくと飲んで喉を潤していく。バイ菌とか、なんか色んな菌とか言ってる場合じゃない。お金が無いんだから。

 満足した所で左手、右手を洗って口をゆすぐ。

 それから濡れたタオルを首に巻いて背丈より少し高いくらいの小さな本殿に向かって、目の前に立つ。二礼二拍手一礼。願うことは平凡な日々。


「もう働きたくないし、なんなら養われたい……」


 これからのことを思うと溜息しか出ない。当てが外れた僕のステータスは。


 \new/ 家:なし


 こういう訳だ。なんて日だ。


 何であの時僕を家に返してくれたんだ……あのまま拐かされたかった。そう思いながら僕はとぼとぼと石段を降りていく。そして、足を踏み外した。


 全てがスローモーションに見えた。僕の体が階段を転げ落ちていく。そして、大きな衝撃と共に僕の意識はなくなり、僕の生は呆気なく終わった。









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