御神木
ある町の広い公園の隅にその木は生えていた。
表面はデコボコとしており、ところどころに足をかけるのにちょうどいいウロがあったり、掴むのに手頃な小ぶりな枝が生えていたりするので子どもたちがよく木登りをして遊んでいる。
心配性の親なら子どもが木登りなんてしていたら血相を変えてやめさせるところではあるが、その木に登ることに関しては止める親はほとんどいなかった。
随分昔から立っている木であり、ずっと昔から子どもたちの遊び道具になっていた木であるのだが、この木から落ちて怪我をした子どもは一人もいないのである。
もしも子どもが木から落ちても、不思議なことに必ず枝や落ち葉がクッションになって怪我を防いでくれるのだ。
今日もまた登っている途中で足を滑らせた子どもが落ちたが、途中の枝に引っかかる。その子は照れたように笑いながら下にいる両親や友達に向けて手を振った。
子どもたちの笑い声が響く中で親たちが話をする。
「この木はいつも子どもたちを守ってくれますね」
「ハチもこの木には近づかないし、本当に安心して遊ばせることができますよ」
「よほど子どもたちが好きなんでしょう」
その言葉を聞いていたその木は心の中で忌々しげにため息を吐いた。
「子どもは嫌いだ。うるさいし、体を蹴るし、土足で踏みつけてくるし、なにより子どもが怪我でもしたらこっちの責任になって、危ない木だってことで切り倒されちまう。やってられねえ。本当に子どもは嫌いだ」