第3話(後)
3話後編です
3-Cを鈴に任せ、悠太達は外にやってきた。
外はなかなかの暑さで剛がうめいていた。
「あ゙ー暑いー。」
「お前は暑いのが苦手なのか?高麗川」
「そうなんですよー。徳島先輩は熱くないんですか?」
「南の方で育ったからな。」
徳島顕一、悠太たちが所属するテニス部の先輩であり、県大会で優勝するほどのテニスの実力の持ち主。そして部活では頼れる先輩として部員たちから信頼を寄せられていた。噂によるとなかなかモテていたらしいが、真相は定かでない。しかし、顕一はイケメンというよりゴツい系の顔なので、モテないとまでは言わないが、めちゃくちゃモテるというわけではないだろうと悠太は思っていた。
「で、磐井、どこの門から見るんだ?」
もう一人の先輩、岩部隆が日に焼けた浅黒い肌を晒して話しかけてきた。
「んー、さっき考えんたんですけど、関係者用通路のドアがある正門から行ったほうがいいじゃないですかね。」
「待て磐井、門が小さくて超えられるリスクがある南門に行ったほうがいいんじゃないか?」
野球部の甑が渋い顔で悠太を見た。
「南門は小さいから破られるリスクはあるけど。普段から鍵がかかっているから、鍵がかかっていない正門のドアよりはマシだろ。」
「....それもそうだな、じゃあ正門言った後一応南門寄るでいいか?」
甑も頷いて納得してくれたようだ。
歩くこと一、二分悠太たちは正門についた。
「すげぇことになってんなあ。」
思わず悠太は呻いてしまった。
「まじかよ...」
野球部の氷見が外を凝視している。
外には十数体のゾンビが徘徊していた。こちらには気づいていないようで、こっちに来る気配はない。
「鍵あいてるよー。」
剛は視力がよく、皆が見えないような、遠く細かいところでも見えると豪語していた。そう言うだけあって今回もしっかり見えているようである。
猛暑で筋骨隆々とした肌に玉のような汗をかいている岩部が悠太の方を向き
「どうする。鍵を閉めようと近づいたらあっちが気づいて襲ってくるかもだぞ。」
問いかけてきた。
悠太は少し考え
「では、俺がドアを抑えるので、岩部先輩鍵閉められますか?」
「俺でいいならやるぞ。」
「それでいいよね?」
悠太が後ろの剛たちに聞くと、皆頷いてくれたようだ。
「じゃあ321で走っていきましょう。」
「よ、よし。」
岩部はやはり少し緊張しているようだ。悠太も少し緊張している。
「数えるよ―。」
剛が数えてくれるようだ。
「3」
「「2」」
「「「「「1」」」」」
「行け!」
悠太は駆け出し、ドアに体当たりをした。
ゾンビがこちらに気づき襲いかかってくる。
『ア゙ァ゙...ア゙ァ゙ァ゙』
ドアを大柄な男ゾンビが押してくる。やはり力が強い、少しでも力を緩めた瞬間すぐにドアを開けて入ってきそうだ。
しかし、突然一気に軽くなった。
「押すぞ。」
「先輩と高麗川。」
「他のところは、氷見と甑が見張ってるから、押すことに集中できるよ―」
これであとは、岩部が鍵を閉めるだけだ。
岩部が鍵穴に鍵を挿し、ねじる。それだけで安全は確保された。
「早く行ったほうがいいんじゃないか磐井。なんか嫌な予感がするんだ。」
甑が焦っているようだ。
「ああ、急ごう。」
6人は走り南門まで急いだ。
そして走っていると、一足先に走っていった甑が蒼白な顔で詰め寄ってきた。
「やばい、俺が思った通りだ!何故か南門が開いてる!」
息を切らし肩で呼吸している。
「まさか...ゾンビは?」
「....そのまさかだ。ゾンビが入ってきている。」
(考える前に戦わないと)
即座に悠太は判断を下し、皆に指示をした。
「えっと、じゃあ二人組組んで、戦うぞ!」
早口でまくし立て、先輩組、野球部組、悠太と剛組に別れ、武器を持って急ぎ南門に向かった。
校舎の門を曲がると南門が見えてきた。南門からはすでに15、6体のゾンビが入ってきておりまだまだ入ってきそうな雰囲気である。
「仲間を攻撃しないようにだけ気をつけろ!それじゃあ行くぞ!」
「うっし、いっちょやるかー」
「余裕そうだな、高麗川。」
「策があるからねー」
「どんなだ?」
「間違ってたら怖いから、俺だけでやるよ。」
「くれぐれも失敗して死ぬなよ。」
「わかってるよー、俺が怪我したら悠太が鈴に折檻されちゃうもんねー」
「だから、死ぬなよ。」
冗談はこのくらいにしておき前から迫りくるゾンビをスコップで殴り倒し、弱点を潰す。しかしいかんせん数が多くさばききれないかもしれない。
隣でゾンビを叩き倒した剛がバックステップをとり、ポケットから懐中電灯を取り出した。
(何をするんだ?)
剛には何か策があるようだが、できれば危ないことは避けてほしい。
剛は前からゾンビが来るのにも係わらず、スコップを置き懐中電灯を門の外に向けて投げた。
「ちょ、高麗川お前スコップ置いて何してんだ!死ぬぞ!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。まあ、見てなって。」
するとゾンビは、強く発光している懐中電灯に向かって歩きだした。
(ゾンビは勝手な先入観で匂いとかで判断しているもんだと思っていたが、光、それも強い光に反応しているのか。いや違うそれなら発光している訳じゃない俺らを襲うはずがない。目が普通に見えていると考えていいのか?)
悠太が長考していると
焦っている剛が
「早く閉じないとやばいよ」
「あ、ああ」
門を閉めたところで氷見が何かに気付いた。
「おい、あれって黒尾じゃないか。」
「なんでだ?」
そこにはゾンビ化した一人の少年がいた。
黒尾創佑校内では有名な問題児...というか問題児の範疇を超えるヤバいやつである。
正直悠太としては、その仲間の田地川と共に正直言って生き残っててほしくない人物だった。しかし、二人とも生きていたようでさっき教室にいたが以外にも大人しかった。
「勝手の外に出たのか。」
石見が難しい顔をする。それに同調するように徳島も腕を組んだ。
「一体何が目的なんだ?」
「わざわざ門を開けてまで外に出るって、迷惑だねえ。」
剛が怒ったような顔をして言った。
この学校の生徒が死んだというのに誰も反応しないのには理由があった。前述の通り黒尾と田地川は問題児であった。
そして暴力・恐喝・窃盗を当たり前のようにしていた。やめさせせられないのは立川が政界の大物の息子だからであり、生徒には相当嫌われていた。かく言う悠太も被害にあっていた。被害にあった人が多く、そして人望もないため、悠太は黒尾達が死んだところで「そうなんだー」くらいにしか感じない。むしろ死んだら、喜ぶ人のほうが多いんじゃないかというくらいには酷いことをしていいたのである。
「どこまで言っても迷惑な奴らだな。」
「先輩たちも被害に合ってたんですか?」
「まあな。」
二人の悪名は他学年にまで轟いていたようだ。
「黒尾がいるってことは、田地川たちも外にいるんじゃないか。」
「黒尾以外は逃げたって考えるほうがいいか。」
野球部の二人はそんな会話を交わしていた。
「まあ、目的は達成できたし一回戻ろう。」
悠太は呼びかけた。
「そうするか。」
「ああ」
「だね。」
先輩と剛も納得してくれたようなので、野球部の二人も連れて教室に戻った。
全員がいる3-Cに戻ると、案の定田地川がいなくて、他にも何人かいなくなっていた。
鈴は女子と話しており、こちらを見ると駆け寄ってきた。
「おつかれ〜怪我してない?」
「もちろん。鈴もありがと。」
「いえいえ、いいってことよ。」
むふーと鈴は満足そうな顔だ。教室から出る前よりも落ち着きを取り戻した人が多いようだ。これも鈴のケアのおかげと言えるだろう。
「それよりも、だ。」
「ん?」
「どうしたの?」と鈴が訊いてくる。
「田地川は?」
「...外に行ったよ。」
鈴は続けて
「田地川さんたちの愉快な仲間たちは『やってられっか』みたいなこと言って出てったよ。」
「あいつらそのうえ、南門を開け放って出ていきやがったよ。」
「最後まで迷惑だね。」
黒尾が死んだということは言わないでおく。
教室からは黒尾、田地川とその他につるんでいた4人ほどがいなくなった。
(まあ正直な話、あんな空気を壊すというか、他の人のモチベを下げるような人間がいなくなって正直ホッとした。)
考えていると
「今ホッとしたでしょ。」
「なんでそれを。」
「そりゃあ見たらわかるよ。だって悠太いつも最善の行動をしようとしてるじゃん。だからそれを妨害するような人がいれば、いなくなったほうがいいもんね」
厳しい意見だが事実だ。
「まあ、そうだよ。」
悠太は続けて
「生き残るためには、場を乱すやつはいらないからな。」
少し乱すくらいならいい、直せるからだ。だがあいつらは絶対に治らないと言える。
「うんうん、その意見嫌いじゃないよ。」
鈴は笑った。
「ともかく、これでひと悶着ついたな。」
「いやいや、これからが始まりでしょ。まだ始まったばかりだよ。」
「確かに。じゃあこっからがスタートだ。」
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