第2話 始まり
それは突然起こった。
最初に発見したのは悠太のクラスメイトだった。
「おい、あれなんだ。」
「煙が上がってるよ。」
「火事か?」
しかしそれらの声は、下から聞こえてきた悲鳴にかき消されてしまった。
皆がなんだなんだと窓に集まっていき裕太も下を見ると、そこにはゾンビがいた。
「なんだ、これ。」
そして、下には人もいた、悲鳴が聞こえる、人が動かなくなっていく。
ゾンビの中には、学校指定の制服を着ている人もいた。
しかも、その中には裕翔がいる。裕翔はたった今ゾンビに襟を掴まれ、地面に倒されたところだった。
親友の叫び声が聞こえる、何かを言っているようだが、脳にその情報が入る前にシャットアウトされてしまう。
気持ちが悪い、目の焦点が合わない、くらくらする、悠太にはこの現実を理解はできなかった。
しかし突然
「今助けるぞ!」
厳太郎がバンッと机を叩いて大声で言い、
「お前達は隠れてるんだぞ!」
と言い残し、駆けていった。
その大声で、悠太の意識は現実に戻された。
(こんなところで落ち込んでいる場合じゃない!どうにかしてゾンビの進行を食い止めないと!)
そう思った悠太はクラス中に大声で、
「行けるやつは誰でもいい!隠れていても何も変わらない!門を閉めて、ゾンビの進行を食い止めるぞ!」
クラスの中は、この光景により、動けない人が多いが、その中でも比較的落ち着いていた男子二人が立ち上がった。
(だけど少し少ない!)
そう思ったが、後ろから澄んだ声がかかってきた。
「私も行く!」
「鈴もか!?、大丈夫なのか!」
「任せてよ、これでも運動神経はトップクラスだよ!」
そういう意味で言ったのではないのだが、少し無理している感じはあるが、動いてくれるならそれでいい。
「じゃあ、鈴は他のクラスにも増援をしてくれ!」
「任せて!」
と言うなり鈴は教室を出てった。
「俺等も行くぞ!」
「「おうッ!」」
二人の男子、確か名前は氷見、甑と悠太が駆け出していく。
教室の外に出ると、そこには剛がいた。
「どうしよう、悠太、裕翔がッ」
かなり焦っているようで涙目で早口で言ってきた。
「そうだな」
「何、裕太は悲しくないのっ!?」
その言葉にカチンときてしまった
「悲しいに決まってんだろッッ!」
そう怒鳴ると剛は少し面食らったようで
「ご、ごめん」
「俺もごめん。それよりも先に、あいつらを食い止めないとヤバい。一緒に来てくれないか。」
そう優しく返すと、剛は
「うんっ、俺も行く!」
人は増えた、ほかも鈴が連れてきてくれるだろう。
悠太は廊下を走っている途中に三人に
「二人一組だ、お互いの背中を守れっ」
「分かった」
そして途中にあった、園芸部のスコップを取り走っていく。
途中に階段があったが、
(下りる時間がもったいない!)
跳び下りた。
そして昇降口には、ゾンビが侵入しかけていた。
「さっき、ここの制服を着たやつがいた、噛まれたりした多分ゾンビになるぞっ、気をつけろ!」
「オッケー!」
悠太は剛と組み、外に走る。
グロテスクなゾンビは正直気持ち悪いが、足と手を動かし、前にいたゾンビの頭を、スコップで潰す!
グシャッという鈍い音がし、血が飛び散った。制服に血がついたが、気にせず前にいるゾンビもなぎ倒していった。悠太の後ろからくるゾンビを剛はしっかり倒してくれているようで、前の戦闘に集中できた。
しかし、ゾンビの数が多い、二人では捌ききれないっ、と思ったとき、後ろから
「増援だー!」
という鈴の声を先頭に金属バットを持った連中が走ってくる。
野球部だ。鈴も短めだがバットを持っている。
これで一気に優勢になった。野球部に先頭を任せどんどん突き進んでいく。
野球部はバットの扱いがうまくどんどん突き進んでいく。
途中、地面に時計が落ちていた。
それは裕翔のものだった。
悠太はそれをポケットにしまい、駆け出していった。
門のそばでは激戦だった、幸いこちらには負傷者はいないものの、いつ出るかがわからない状況だ。
少し離れた場所では鈴がバットを振り回して戦っていた。
だけど、後ろにゾンビがいる、鈴は気づいていないようだ。
(ヤバい、間に合わない)
そう思った瞬間、
「うおおおぉぉ!」
さすまたを持ち、叫びながら、厳太郎が突っ込んできた!
鈴の後ろにいたゾンビも巻き込み、4、5匹をさすまたで投げ飛ばし、自身も体当たりをして門外に飛び出した。
「俺のことはいい!門を閉めろお!」
厳太郎が叫び、それを聞いた野球部二人が驚いた顔をするも、すぐ門を閉めた。
「俺がゾンビになったら殺せよー、カッコ悪いからなー」
と源太郎が言い、最後に、
「お前らは、絶対に生き残れよー、頑張れ」
そういった先生が倒れた。
先生は最後笑っていた気がする。
そして校内にいるのは残り4匹、すぐ野球部が倒した。
そして、外にいたのは変わり果てた姿の源太郎、
すると
「あのっ、私がやるよ。最後助けてもらったしね。」
と鈴が言った。
「分かった、開けるぞ」
悠太が門を開け鈴が飛び出していった。
「先生、今までありがとうございました。私達も頑張ります。」
そう言った彼女は今までで一番優しく微笑んでいた。
ほどなくして鈴が戻ってきてから、門は施錠された。
「他の門は?」
「騒ぎが聞こえなかった、多分いないんだと思うが一応回るぞ。」
「りょーかい」
全員で他の門を回ろうとしたとき、
キャーという叫び声が聞こえる。
「職員室の方だ!」
野球部の一人が言い、
「行くぞ!」
野球部が職員室の方へ走っていく。
(まずいぞ、生徒が職員室前に密集していたはずだ!)
悠太もついていきながら苦い顔をする、
案の定職員室前はパニックだった、もう職員室の中は完全にゾンビだけで、廊下に出てきたようだ。そして密集しすぎて身動きが取れず、ゾンビも爆発的に増えていく。
「まずいぞっ、被害を最小限にするぞ!」
「おうっ」
自分の高校の制服を着ていようが関係ない、今は被害を最小限に食い止めなくてはいけない。
悠太は無我夢中でスコップを振るった。それでも全くゾンビは減らない
でも、スコップを振る手だけは止めない。
30分後、そこには大量のゾンビの死骸と、傷だらけの皆がいた。最後の方は悠太は何も考えずにスコップを振るっていた。
呼吸が荒い、喋れない状態が少し続いている
「い、いないやつはいないか…」
やっと喋れるようになり、周りを見渡すと、皆座り込んでいるが傷だらけだがゾンビになったりしている人はいない。
鈴だけは立って武器を持って油断なく周囲を見ている。
(野球部より体力あんのかよ、体力おばけだな)
と思いながら、裕太も周囲を眺めた。
結局、廊下にいた人はほぼ全員死ぬかゾンビになってしまった。生き残っているのは、途中で逃げていった4、5人といったところだろう。
「職員室の中は?」
「誰もいないよ。」
と鈴が少し悲しそうな顔をする。
「それにしても、ゾンビから臭いがしないね。なんでだろう。」
たしかにそうだ、服についた返り血などからも匂いがしない。
「だな、だけど助かった、こんな量のゾンビの死骸から匂いがしたらたまったもんじゃない。」
少し皆が落ち着いてきてから、悠太は
「放送室に行くぞ。」
と皆を見回しながら言った。
すると、野球部の一人が、
「なんでだ?」
と聞いてくる。
「生き残っている人を集めて、人数を確認したい。」
「なら任せろ、俺は放送委員だ。」
「頼りになる。」
野球部の一人、大井川が笑顔を浮かべて言った。
放送室は2階にあるので階段を登っている途中、悠太は鈴に
「鈴って体力おばけなんだな」
と話をふった、
「まあ、体力には自身があるからね。けどさすがに今日はこたえたよ。」
「だな、俺もだよ」
笑顔で隠しているが、悠太も精神的にも身体的にも疲弊しきっている。突然現れたゾンビに、死んでしった人たち。疲れないはずがない。きっと彼女も同じだ。
不安を覆い隠すように話していると、放送室についた。一般生徒の立ち入りは禁止だが、今そんなことを言っている場合ではないので、中に入ると思ったより広く裕太達4人と鈴、そして野球部の面々も入ることができた。
悠太は大井川から使い方を教わり、全校に向けて放送する
『えー、全校の皆さん、生き残っている人たちは、3-Cに集まってください、動けない人がいたら連れてきてあげてください繰り返します、生き残っている人たちは、3-Cに集まってください』
放送を切り2階の3-Cに行く。
3-Cにつきしばらくするとちらほら人が入ってくる。そして5分くらいすると入ってくる人がいなくなった。
全員混乱したりはしているが、一応大丈夫そうだ。
しかし、人は少なく50人いるかどうかくらいだ。全校生徒は350人くらいで今日は1年が校外学習なため120人ほどがいないため、実に180人くらいの人が死んでしまったことになる。
50人しかいない上教師もいないとなると、危機的状況だ。
しかし、大変だからといって生き残れないわけではない。
「ここにいるからには死にたくないやつが集まったんだろう」
悠太が皆に言う
「俺も親友が死に恩師も俺達をかばって死んだ。皆にもそういう人がいるだろう。」
場は少しざわつき、
「俺も正直泣きたい。だが俺は生き残ると決めた。」
「そうしないと死んだ奴らに顔向けできないだろ?」
彼は少し微笑んで言い
「どうせいつか死ぬんだ、死ぬまで醜くあがいてやるさ。」
最後、彼は自分に言い聞かせるように言った。
「生き残ってやる。」
2話目です。少し長いですがどうでしょうか