第1話 日常の終わり
初投稿です
輝く太陽、爽やかな風、楽しく遊ぶ少年少女達
そして…ゾン…ビ?
「なんだ、これ…」
少年は窓の外を見て呟いた。
一般的に言えばこれはゾンビと言われるものだろう、しかし少年の脳がその非現実的なものを理解するのを押しとどめている。
当たり前だ、つい少し前までは校庭で体育の授業が行われていたし、少年もいつも通り授業を受けていたのだ。
「うわああああああああ!」
「きゃああっ。」
時計は12時半を指している。普段ならもう食事の時間だ。
「し、死にたくな…」グシャッ
だったはずなのに、突然日常は日常でなくなった。今も校門付近では鮮血が溢れ人が死に絶えているし、街では黒煙が上がっている。
「ぎゃあ゙あ゙ぁああっ!」
まさに地獄、阿鼻叫喚の地獄絵図とはこの光景だろうと言えるほどのむごたらしい光景が広がっている。
そして、その中には少年の親友もいた
「悠…助けてくれっ」
そして響き渡るグチュッという鈍い音、もうそこには人はいない。
少年が過ごすはずだったいつも通り、悪く言えば退屈な日常、もうそんなものはない。
何度目を擦っても目の前のことは変わらない。
狂ったように輝く太陽だけが異質だった。
「あ゙ー。暑い〜」
その日は例年よりは涼しいと言いつつも、予想最高気温は37℃、十分暑い。最近大人たちが、地球が熱くなっただの、地球温暖化現象がどうのなどと言っているが、少年は涼しかった時代のことは知らないので、暑くなったとは思わない。しかしそんな時代に生まれていれば、退屈ではなかったのだろうかと少年は思う。
少年、磐井悠太は退屈が好きではない、だから、ただ家で過ごすよりも学校のほうが退屈しないから好きだった。
悠太は今、急いでいるが、別に通学する時間が間に合わないとかではなく、基本制服登校なため普通に暑いからである。むしろいつもより1時間近く早く家を出ている。それもこれもエアコンが壊れたからである。
早く涼しい教室に行くために悠太が速歩きしていると
「おはよー」
中性的な顔立ちの少年が話しかけてきた。
「おはよ、高麗川」
本名は高麗川剛というのだが、剛という名前とは裏腹に線の細い顔立ちで儚げな印象の少年であるので、みんなには名字や名字をもじった名前で呼ばれていたりする。
「裕翔はー?」
剛が悠太を見上げて聞いてくる。剛は悠太より身長が10センチほど低いので、剛は悠太を見上げないと目を合わせられない。
「部活の朝練だってよ。」
裕翔、本名秦野裕翔は低身長ながら陸上部のエースだ。なので普段なら悠太と剛と一緒に登校しているが、たまに朝練でいないことがある。
「そう、じゃあ二人で行こうかー。」
「と言ってももう学校につくぜ。」
「もう少し家が遠いほうがたくさん話せるのになー。」
悠太は思わず笑ってしまった。家が遠いほうがいいと言った奴を初めて見たから。
剛の家は学校から近い場所にあるので、一緒に行ってもすぐ学校につく。裕翔と悠太は同じクラスだが、剛は違うクラスなので、部活くらいでしか話せない。二人はテニス部所属でエースとまではいかずともそこそこ強い、と言われている。もっとも本人達は楽しんでやっているだけなので、そんな自覚はないのだが。
話しているうちに学校についた。悠太達が通う学校は3階建ての北校舎と東校舎、体育館棟+プールと東校舎と北校舎の間にあるテニスコートでできていて、L字型をしている。主に教室がある北校舎は築20年ほどで比較的新しいが、東校舎は築60年以上で、建て替えしないのは校長の陰謀だと生徒の間ではまことしやかに囁かれている。
悠太達が学校についた時点では、まだ授業が始まるまでしばらくある
「まだ時間があるけどどうする?」
悠太が聞くと、剛が
「歴史の課題終わってない、どうしよー」
と亜麻色の目でこっちをチラッと見ながら言ってきた。
ちなみに課題の提出日は全クラス今日である。
「はあーしょうがないな。手伝ってやるよ。」
少しめんどくさいが、そっちのほうが退屈ではなさそうなので了承した。
「ありがとー。」
と満面の笑顔で言われてしまうとめんどくささも消える。
ということで剛の地理の課題を手伝うということになった。
悠太は基本的に真面目なので、予習や復習は欠かさないし、課題もできるだけ早く終わらせている。そして剛も真面目だが、提出物はギリギリにやって出している(本当に真面目?)。本人によると「内容はしっかりしているのでセーフ」だそうだ。だけど今日はギリギリすぎたようだ。
授業が始まる前までは基本的に他のクラスに立ち入ってもいいと(実際はもう少し細かいが)いうルールがあるので悠太のクラスで課題を終わらせることになった。
クラスの前まで来ると、中で物音がする。
「だれかいるのかなー。」
「こんな早く来る奴なんているんだな。」
「俺らも大概だけどねー。」
その通りである、学校には授業開始前の1時間前に校舎には入れる(朝練をするときのためにもっと前から校庭には入れる)とはいえ朝練もない人がこんな早く来るなんてことはなにか特別なことがない限り無いだろう。
少し建付けが悪くギシギシいうドアを開けて入ると、窓が空いていたようで思ったより暑くなく、涼しい風が吹き抜けていった。
二人が中に入り横を向くと少女がゆっくり椅子から立ったところだった。背中まである櫨色の髪をツーサイドアップにしていてあどけなさが残る少女だった。少女はこちらを振り返ると、パッと笑顔になった。
「どうした鈴?」
鈴と呼ばれた少女は
「よかったー!」
と安心したような顔になった。
「?」
「間違えて早く来すぎちゃって、暇だったんだよ。」
少女は陸上部所属だが、今日の朝練は男子だけだと裕翔が言っていた。
「二人は何しにこんな早く来たの?」
「俺は部屋のエアコンが壊れたから、早く学校に来た。」
「俺はその話を聞いたからー、一緒に来たんだよー。」
「へー、で、二人はなにするの?」
「このバカが社会の課題を終わらせていないから、一緒にやる。」
そう言うと少女は
「社会の課題、出されたの先週じゃん!」
とずっとケタケタ笑っている
剛は悔しそうにしているが、事実なので何も言い返せず固まっている
しかし突然
「あ
少女の顔が蒼白になりそう呟いた。
「ん?」
「私もやってない…」
と言った、そうなると次は剛が笑う番だ。さっき笑われた恨みとばかりにニヤニヤしながら
「人様に言うくせにー、自分もやってないんですかー?」
と言われた少女は耳まで真っ赤になっている。まあそうだろう、剛がやっていなくて小馬鹿にしたら自分もやっていなかったなんて恥ずかしすぎる。
「悠太ぁ、私も一緒に教えて、社会が一番やばい。」
課題自体は他の教科も出ているものがあるが、まあ今のところ社会が一番やっておかなきゃいけないだろう。
悠太は机を移動させながら、
「まあ、一人も二人も同じだし。」
「じゃあ、始めるぞ。剛と鈴。」
「俺はいつもはやってるよー。」
剛は不服そうだ、
「バカってひどいね。」
少女は言いながら、天龍寺 鈴と書かれたプリントを持ってきた。
くっつけた机の椅子に座りながらプリントを出した剛が
「よーし、やるぞー」
えいえいおーと手を上げた。鈴と悠太も手を上げながらおーと言った。
途中で
「しかし厳さんも厳しいよね」
飽きてきたのかシャーペンをくるくる回しながら鈴が話しかけてきた。
厳さんとは社会教師のあだ名で本名は安南厳太郎だ、授業も面白く生徒とも積極的に関わってくれて人気があるが、提出物にはとても厳しく、隠れた鬼教師として知られている。
「たしかにそうだが、そんなことより早く終わらせるぞ」
話は続けさせないとばかりに悠太が言った。
鈴は「えー」と不満そうだが、渋々シャーペンを握り紙に書き始めた。
教室にちらほら人が入ってきたところで二人の課題は終わった。
「「終わったー!」」
二人は喜んでいるが悠太は疲れた。まあ、二人と話すのは楽しかったし退屈じゃないだけ良しとしよう。
そして剛が自分の教室に戻り、HRをし授業が始まった。
そして4時校の社会では鈴はしっかり課題を出し裕太も出したのだが、鈴のほうが点数が高かった。解せぬ
もう食事の時間でみんなの気が緩んでいるタイミングで、
来てしまったのだ。それが
そして、日常は終わる
いかがでしたか
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※途中に出てくる櫨色とは鈍い橙系の色です。