表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

無限と有限の狭間にて/前編

作者: 翼人

 このまま進んでいって大丈夫なのだろうか。



 暗い夜道を、ただ家に帰るために精一杯自転車をこいでいるうち、私はそんな事を考え始めた。

 無限に続くかのようにも見えるこの一本道を進めば、本当に大通りに出るのか、あまり外出した事のない私にはさっぱり分からない。

 ただ友人に言われたとおり、このまま進んで、本屋に来る途中にずっと辿ってきた大通りに出るのを待つ。


 いったいどのくらいの時が過ぎただろう。時間の感覚が掴めなくなっている。ほんの数分しか経っていない気もするし、何時間もひたすら自転車をこいでいたような気もした。

 私は、いつのまにか街灯の明かりしかない道をただただ前進していた。

 どこにも人の姿が見当たらない。家も車もない。


 私は恐怖すら感じ始めた。


 真っ暗な道に、自分だけが存在する。このまま進めば、本当に分かる道に辿り着けるのだろうか。永遠にこの道を彷徨って、帰れなくなるのではないだろうか。来た道を戻れば、元の場所に出るだろうか。

 そんな思いを抱きながら、それでも私は自転車をこぐ足を止めなかった。

 しばらくそのまま自転車をこぎ続けていた私の目は、ふと、横へと真っ直ぐ続く、大通りを認めた。

 私はほっとした。

 この道を真っ直ぐ辿っていけば、見知った道に出る。その道は、私がいつも使っている、通学路だ。

 良かった。これで家に帰れる。


 すると、その道の真ん中に、ある人影が現れた。


 やっぱり人がいる。本当に良かった…。そうだよね、人が消えるわけないじゃない。

 その人影の近くまで行くと、やがてその人影の相貌がしっかりと見えてきた。

 帽子を被った、優しそうな老人だ。チェックの柄のセーターを着ていて、とても温かそうだった。

 すると、その老人が自分に話しかけてきた。




「どうしたんだい、お嬢さん。こんな遅くにこんな所にいては危ないよ」




 最近不審者情報が多い。私は、きっとその事だろうと思った。




「友達と本屋にいたんですけど、気がついたらこんなに暗くなっちゃって、今帰ってる途中なんです」




 私は自転車から降りた。

 そう、今日は友達の家に遊びに行った後本屋に行って、そのまま立ち読みをしてた。そしたらいつのまにか辺りが暗くなっていたから、急いで家に帰っている途中だったのだ。

 だが自分はあまり外出する事がなく、一人で帰るには道があまり分からなかった。だから友人に道を聞いたのだ。友人は「この道を真っ直ぐ行けば、知ってる大通りに出る」と教えてくれた。だから自分はひたすら自転車をこいで、大通りに出るのを待ったのだ。




「そうかい。寒い中大変だねぇ」




 寒い…?

 ああ、そうか。今は冬だ。家を出る前は雪も降っていたんだった。

 気付いた瞬間、一気に寒さがこみ上げてきた。否、最初から寒かったのだ。

 身体が震え、吐く息は白く、指が凍るように冷たい。そして、寒さのあまり襲う頭痛。それらに今まで自分は気付かなかった。それほどまでに夢中になって自転車をこいでいたのだろう。本屋の前にあった自動販売機で買っていたホットミルクティーも、既に温かさを失い、冷たくなっている。




「可哀そうに。こんなに冷え切って」




 老人は私の手を取り、擦ってくれた。




「おじいさんは、ここで何をしているんですか?」




 こんな何もない所で、ただ立っているだけなんて。誰かを待っているのだろうか。




「わしかい?わしは、人がこの先に進まないように見張ってるんだよ」




 見張る?何故だろう。この先には何も危険なものはないはずだ。それに、この先を進まなければ、自分は家に帰れない。




「でも、私はこの道を通らないと帰れないんです。この先で何かあったんですか?」




「うむ、何かあった、というより、もともとこの先に人は進んではいけないように決まっているよ。お嬢さんは随分頑張ってここまで来たみたいだけど、残念ながらここはお嬢さんの知ってる大通りではないな」




 ショックだった。では、私はまだこの道を真っ直ぐ進まなければいけないのだろうか。




「この大通りを進んでも、そのまま真っ直ぐ自転車をこいでも、きっとお家には帰れないよ」




 え…?




「おいで。わしが案内してあげよう」




 老人は、優しく微笑んでそう言った。

後編→http://ncode.syosetu.com/n4069j/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ