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冒険者ギルド

 今夜はこの小屋に泊まると言う私を彼らは止めようとした。


「貴族の子女がこんなところで一人きりなんてありえないですよ!」

「危ないです……」

「だって、もう帰る家はないんだもの。大丈夫よ。旅に出るまでの間だけだから」


 ギデオンだけは「放っておけ」そう言ってたけれど、レイルとフローラは心配だから一緒に泊まると言い張った。押し問答の末、三人とも泊まることになった。


 収納魔法から毛布を取り出すと彼らはかなり驚いていた。


「なんですかそれ、どれだけ入るんですか」

「さすがおねえちゃん……」


 ともあれ、彼らに毛布を渡し、私も毛布に包まり、雑魚寝することになった。

 ギデオンは帰るかと思ったのに、ふん、と言うと毛布をかぶり背中を向けて横になってしまった。弟と妹を放ってはおけないか。


 そうして横になり……深夜。

 私一人、階段を上った上の階に寝て、三人は下の階に寝ている。そっと下を覗き見ると、子供たちが寝ていた。もうとっくに二十歳を越えている。28歳、27歳、26歳のはずだ。今気が付いたけれど、前世のリリーの年齢すら超えているのか。


 それでも……寝顔は変わらないのね、などと感じてしまう。


 フローラは可愛らしい女性に育った。この子なら縁談の話もいくらでもあるだろう。レイルはとても賢い。どこだって生きて行けるだろう。ギデオンは……どうやらアンジェリカがとても傷つけてしまっていたみたいだけど、それでもとても強い。いくらでも戦いながら生きて行ける。険しい顔しか見ていないけれど……寝顔は少年の時のままだ。


(あなたたちが健やかに育ち、眠れますように……)


 毎日そんなことを思っていた日々を思い出す。

 強い相手と戦いたくて、それしか喜びがなくて、強い仲間を作ろうとして引き取ったのに。いつしか、私は自分の子供たちにとても強い執着を抱いていた。思いのほか才能がある子供たちだったからなのか?実際とても強く育っているもの。


(おやすみなさい、愛しい子……)


 その夜、久しぶりに心地良く眠れた気がした。






 誓約書を持って行ってもらい、彼らは職場に旅立ちのための手続きに行った。一緒に行きましょうか?と言ってみたけれど、私が行くと余計面倒なことになると言われてしまった。


「戻りました」


 そういって三人が戻ったのは昼過ぎだった。


「まぁ、早いのね」

「誓約書がありましたから……」

「旅支度は」

「してきました」

「問題ないです……」


 ギデオンは憮然とした表情で何もしゃべらなかったけれど、それでも、背中に大きな荷物を背負っている。


「思ったより早かったけど、それではまずは、冒険者ギルドに行きましょう」

「冒険者……?必要ですか?」

「冒険者証があれば身分証代わりになるから、都市の移動が楽にできるでしょう。それに私は冒険者として暮らしていくつもりだし」


 三人とも何とも言えない表情で私を見つめる。ギデオンに関しては信じていないという視線を感じる。





 ギルドのカウンターは、私の知っていた時と、何も変わらなかった。けれど知っている人はもう誰もいない。


「登録担当します。ミルーです。宜しくお願いします。まずは冒険者登録するのでこちらの石板に触れてください」


 石板には触れたものの能力が表示される。能力の概要自体は隠しては置けないけれど、詳細までは分からない。例えば、火魔法のS級魔法が使えることは石板に映しだされるけれど、具体的に使える魔法までは分からない。


 そっと触れると、ミルーさんが「え」と声を上げた。「え、え、え?」と。

 石板を凝視している。石板に書ききれないほどの能力が書き込まれ、真っ黒になっているのが見える。

 ミルーさんはゆっくり私を見つめ、そしてその後ろに立つ三人を見てから「少々お待ちください」と言うとカウンターの奥に消えて行った。少しして年配の男性がやってきた。


「やぁ。ギルド長のイザックだ。君たちの登録を受け持ちたい。こちらに来てもらえるかな?」


 長い黒髪を後ろで束ねた、額に大きな傷跡のあるこの野性的な男を、リリーは知っていた。

 かつてA級冒険者だった、仲間たちに好かれていた、豪快な笑顔の男。

 今は冒険者ギルド長になっていたのか、そう思うと、懐かしさに笑みが溢れた。


 個室に通され、椅子に座ると、改めて彼は石板を覗き込んだ。


「全スキルS級とか、どうなってるの……」


 頭を抱えた。


「こんなのリリー以来だよ」


 その言葉に、三人がピクリと反応する。私はにっこりと優雅に微笑んでいった。


「リリーは最初からS級だったわけではないでしょう。魔法は得意だったけれど……格闘、剣術、それらは、イザック様に鍛えられなければ上がることはなかったですわ」

「……」

「スキル向上のために魔法を封印して厄災モンスターを倒そうとしたときは酷く怒られましたけど」

「おいおい」

「けれど試して見たかったんですの。新しい技を覚えたばかりだったでしょう?かかと落とし」

「何で知ってるの」


 イザックは視線をくるくると動かして、何かを思い出すようにしてから、改めて私をじっと見つめた。


「……リリーか?」


 私は改めて、自分が一番美しく見えるように微笑んだ。


「お久しぶりでございます。最後にご挨拶もうし上げたときには、受付嬢のララさんとお付き合いされてましたよね。あれからいかがされてました?」

「ララなんてとっくに振られてるし、もう三人のお子さんと幸せそうだよ……。マジかよ」

「ララさんの前はメアリ―様、その前はミルカ様でしたね」

「もうやめて。俺辛い」


 イザックはジロジロとぶしつけなほどに私を眺めて、そうして横に並ぶ三人を見た。


「……よく見たら、リリーの養い子じゃねぇかよ。久しいな。元気だったか?」

「……イザックさん?」

「おにいちゃん……」

「剣を、教えてくれた……あの時の方か」


 どうやら私の子たちは、イザックのことを覚えているようだ。彼はリリーに子育てなんて無理だと分かっていたので、気にしてよく家に訪れてくれていた。


「はぁ……なんだこれ。リリーに、こんな宝石みたいな容姿を与えるなんて、神は何を考えているんだ。世界を滅ぼしたいのか」

「失礼ですわよ。イザック様。ふと、リリーとして生きて来た過去を思い出しましたの。よくすんなりと信じましたわね?」

「……こんな神の申し子みたいなスキルのやつ他にいないだろ。体力だけはすごく低いが……そんな外見じゃ、そりゃそうだろうし」


 やはり体力低いのか。少し鍛えないといけないようだ。


「で、なんでこんなところに来た」

「魔王を倒してこようと思いますの」


 にっこりと微笑んでそういえば。


「はぁ……」


 と大きなため息を返された。







 通常、最初の登録で上級冒険者認定されることはない。

 けれど、特例でB級で通してくれた。むしろ下位の認定をすると手綱を握れなくなるから困ると言われてしまった。私のかつての養い子たちもB級。本来必要な「初心者用レクチャーはそっちでしとけ」と言われて、これも特例だった。一応マニュアルも渡された。


 冒険者証を渡された三人は、少し瞳が輝いているように見えた。


「僕が冒険者」

「リリーと同じ」

「楽しそう……」


 この子たちがいつか、リリーと同じように、自由に生きることや戦うことを楽しんでくれるようになるといいのだけど。

 そう思いながら、私は言った。


「それでは旅立ちましょう。まずは隣の町まで馬車で。冒険者としてのレクチャーが必要なので、各町で依頼を受けましょう。そして目的の町を目指します。そこには古の魔法使いの系譜の方の家がありますから」


 まずは、レイルとフローラの魔術を向上させてあげたい。すでに人の中では異質なほどの魔法が使えるはずだけど。それでもまだ……彼らは殻の中から出てはいないのだから。

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