表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたらS級冒険者だった前世を思い出したので魔王を倒して来ようと思います。なぜか養い子だった氷の騎士が睨んでくるけど。  作者: 水流花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/35

【ギデオン】&ある朝

 三か月前に妻になった女は、毎夜、俺の隣で安心しきったように眠る。

 可愛らしい寝顔をどれだけ眺めても、艶やかな柔らかい髪を撫でつけても、少しも起きる気配もない。


 ――俺に心を預けきっているのだ。


 たまに目を覚ますことがあっても、ふにゃふにゃと柔らかな笑顔を浮かべ、何の警戒心も抱かずに俺に体を預けてまた寝てしまう。

 すやすやと、心から安らげる場所がまるでここであるかのように。


 そんな寝顔を見つめる夜、俺は一人、この世界にもういない少女に思いを馳せる。


 俺が幼い頃、毎夜うなされていた少女のこと。

 何が彼女を苦しめていたのか分からない。

 強くて明るく、どこか抜けていても、やろうと思えばなんでも出来てしまうような才能に溢れた人だった。けれどいつも一人だった。両親や兄弟の存在はなく、冒険の仲間もこれと言っていないようだった。少女はとても魅力的であったのに、一人苦しみを抱え、それを自覚も出来ていない不器用さを持っていた。


 大人になった俺が、いつか彼女を支えたいと思っていたのに――こんなにも時間が経ってしまった。


 もう一度出逢えたのは、ただの奇跡だった。俺の努力などではない。現に俺は、出会えていたことに何年もの間気が付けていなかったのだ。

 

 小さなアンジェリカがまっすぐに俺を見つめていたのを知っていた。けれど……俺はただ避けていただけだ。

 結局、彼女自身の方から、俺たちを……見つけ出してくれたのだ。


 俺たちを強くしたのも、魔王討伐が難しくなかったのも、勇者が強くなったのも、聖女が守られたのも、全て彼女の成果だ。本人は何も気が付いていないけれど。


 勇者の末裔は……正しく勇者にふさわしい良い男だった。

 彼は一見酷い言い回しをしているように思えるときでもアンジェリカを案じていた。

 アンジェリカがそれに気が付かなくて良かったと、心からほっとする。

 何度も目の前で彼女を殺した俺から、運命は彼女の伴侶を別の者に代えていたのではないかと思う。


 結局俺は、彼女に寄り添っていただけだった。俺自身は何もしていない。


 ただ、世界の誰よりも彼女を愛しただけだ。

 俺自身の全力で、彼女の笑顔を守る世界を作ることを望んだだけだ。

 たとえ愛されなくとも、愛し続けたいと願っただけだ。


 ……けれど彼女は今、俺の隣で、満足そうに眠る。

 彼女が苦しめられる夜はまだ訪れていない。

 そうして毎夜、愛の言葉を伝えてくれる。


「……岩塩ステーキ……」


 ふいに呟かれた寝言に、意味が分かってから笑ってしまう。

 どれだけ好きだったんだ。岩塩ステーキ。

 まぁ、落ち着いたらまた行ってもいい。キリルにはあまり会わせたいとは思わないけれど。


「愛してるよ」


 笑ってくれるなら。これからもどんなことでも実現してやりたい。

 彼女が生きていてくれるなら。幸せそうに笑ってくれるなら。愛していると言ってくれるなら……こんなにも生きていて良かったと思えることはないのだから。





****


「魔王の夢を見たの……」


 寝起きに目をこすりながらそう言うと「……は?」とギデオンは答えた。


「次は人間に生まれたいって言ってた」

「……それはまた一波乱ありそうだな」

「どうしよう。いいんじゃない?って答えちゃった」

「……ふっ」


 ギデオンがおかしそうに笑う。銀色の髪が揺れて朝日にキラキラと光っている。


「俺たちの子なら、そうでなくとも、魔王のように強いかもしれない。別に変わらないんじゃないか」

「そ、そうかしらね……?そんなものかしら?」

「どんな子供でも可愛いし、そうしてどんな子供だって、子育ては大変だろう」

「そうよね……」


 前から思ってたけどギデオンって人間の器がとんでもなく大きいのよね。

 人並を外れ過ぎてる私を受け入れてくれた人なんだから、そりゃそうか、なんだろうけど。凄いわよね。尊敬するわ。


「そんなあなたが私は大好きよ」

「俺も好きだよ。愛してる」


 毎日こんなに幸せでいいのかしら。




 そうしてそれからしばらくして、子供を授かったと分かった。

 生まれて来た子供はただただ可愛くて、子育ては大変で、おじいちゃんはデレデレになって、養い子たちも家族のように育ててくれた。

 苦労がありながらも満たされる日々の中で、ある日ふっと気が付いた。

 泣いてる子供は、まるで、かつての自分みたいだなって。寂しいって、苦しいってただ泣き叫んでる。私はうまく泣くことも出来なかったけれど。ずっと子供みたいに心の中では泣いてたんだなって。


 今はもう、笑顔の中にそんな気持ちを溶かせるようになったから……だから、そんなことにやっと気が付けたんだろうと思う。


「この子はどんなふうに育っていくのかしらね」


 そう言うと、彼は、


「どんな冒険をしようと楽しいさ」


 と返事をする。

 私は笑いながら、それもそうかと不思議と納得してしまうのだ。




END







感想や評価など良かったら教えてください。


途中で少し設定を変えながら書いてたので直しきれてなくて変なところがあったらすいません……教えてください。

書き忘れたことがあったら番外編書くかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
久しぶりに読み直しましたが、好きです、この作品。上手く言えませんが、サポートキャラも魅力的だし、何よりギデオンが良いですね。覚醒した後の方ですが(笑)。懐が広いって言うんですかね。良いです(うん。うん…
[良い点] 三代に渡る戦いの物語の人物模様が絡み合っているが、登場人物が優しい人々で気持ちよかった。 魂のかけたアンジェリカが、それでも色々な心を抱えていること、人の心を取り戻した時の感情の揺れ動き…
[一言] ちょうどメインテナンス中で、いいね!ボタンが押せませんでしたが、とても面白く、読ませていただきました。きちんと各キャラの設定も決まってあり、各キャラの心情などが上手いところで書かれていて、楽…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ