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婚約破棄されたらS級冒険者だった前世を思い出したので魔王を倒して来ようと思います。なぜか養い子だった氷の騎士が睨んでくるけど。  作者: 水流花


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これからのこと

 翌日、冒険者ギルドに集まった私たちは、久しぶりにキリルさんの笑顔に迎えられた。


「よぉ、お疲れ様」


 まるで一依頼終えて帰った冒険者に向けるような、軽い口調で彼は言った。


「どうだった?あっさり終わったみたいだが」


 もう充分報告を受けているだろうに、アンジェリカに楽しそうな眼差しを向ける。


「とっても楽しかったわ!」

「そうか、良かったな。あんたが一番、楽しみにしていたもんな。他は、義務で集まったやつらや、不安そうなやつらばかりだった」


 そういうキリルを見ていると、本当は彼が行きたかったんだろうな、と感じてしまう。

 彼は戦うことに喜びを感じる人種だ。私の同類なんだろう。

 キリルは剣聖の弟子であり、とても強い肉体と剣術を持ったまだ若いギルド長だ。


「次はあなたが行けばいいわ」

「はは、そんな簡単に魔王なんて生まれないだろ。まぁいいんだ。俺はここで戦力になってるんだぜ。で、書類や報告はほとんど貰ってるわけだが、あんたらとは今後のことで話があるんだ」

「今後?」

「そうだ、レイルがずっと調べてただろ。過去の冒険者たちの行く末だ」

「レイルが?」


 レイルを振り向くと、にっこりと笑って書類を見せてくれた。


「これを見てください。過去の魔王戦を行っただろう冒険者たちのリストです。出身地も書かれてますので、国の力も借りればもう少し彼らのその後を追えるかと思います。ほとんどはもう生きていないでしょうが……」


 数百人分の名前が並んでいるように見える。死亡、とバツが書かれている人もいる。


「まず、こちらです。フローラの過去だと思われる女性の名前です」


 そこには北東地域に住む女性の名前が書いてあった。


「外見の特徴がフローラとよく似ているそうなんです。同じ地方や同じ血縁の可能性があるので、寄って帰れないかと思ってます」

「まぁ!それがいいわ!みんなで行きましょう」


 やっと生まれの分からないフローラのために旅が出来るなら、これ以上に嬉しいことはない。魔王の旅よりずっと嬉しい。


「それでこれが過去の僕なんですが……賢者の里の出身なんです」

「え……」

「もしかしたら、呪いを受けたものは、血が近いところに生まれ変わっているのではないかと僕は考えました」


 血の近い所に生まれ変わった?

 血って、血縁とかそういうのよね。


「でも……私は?」

「アンジェリカさんに関してはまだ分かりません。ただ、魔力の強い者は、貴族の間に生まれることが多いんです。もともとそう言った生まれの方の血を引いていた可能性はあるかと思います」

「まぁ……」


 そんなこと考えたこともなかった。ライラの異常な魔力量もどこか血の由来があったのかしら?

 レイルはギデオンをちらりと見てから言った。


「そして、こちらが、アラン・ワルダー」


 アランの名前を見つけてドキリとする。当たり前だけど……本当に実在した人なのだ。


「勇者になった人ですが、金髪碧眼、まるで王族のような外見をされていた方らしいです」

「そうね……」

「ギデオンの家系には、降嫁した王族の血も流れています」

「……言われてみればそうだわ」


 そんなこと言ったら、アランが本当に王家に由来の堕とし胤だということになっちゃうけど。

 そうは言っても、良く考えたら聖女様は見つかったら代々王家に嫁ぐことになっているし、その子供として生まれながらに呪われた子が生まれるわけがないのよね……ギデオンくらい離れたところに生まれて来たのかしら。


「もうほとんど皆さん亡くなってますし、呪いを受けている自覚のある人は残っていないと思うんですが、それでも生まれ変わって呪いが受け継がれている人がいないか、僕とフローラで、このリストをもとにして少し旅をして探してみようかと思ってます。先に魔法研究所と里に戻って連携取れるようにしないといけないですけど」

「……え?」

「僕らで話し合ったんです。それが僕らの一番やりたいことだって」

「私もやりたいの。おねえちゃんみたいに辛い思いをしている人がいるかもしれない。私にしかできないなら解いてあげたい」

「僕ら二人いれば探し出せますし」

「え、待って待って。本当に?」

「はい」

「うん!」


 いい笑顔のレイルとフローラに呆気に取られてしまう。

 魔王の呪いを解くための旅をする?

 それって……とても素晴らしいことなんじゃないかしら。

 呪いがどれだけ体を苦しめるのか、私は十分に知っている。わざわざしなくてもいい旅をして、これを解いてくれるというのだ!

 なんて立派なことを考えるようになったの!


「すごいわ!立派だわ!二人とも賢いのね。そんな素敵なことを考えるようになったのね」

「アンジェリカさんを見て来たから、そう思えたんですよ」

「おねえちゃんみたいな人がいたら放っておけないよ」


 ぎゅうっと二人に抱き着くと笑って抱きしめ返してくれる。


「私も行きたいわ。連れていってくれる?」

「おねえちゃん……」

「アンジェリカさん、僕らはあなたと行けるのは嬉しいけれど……だけど、これは本当にあなたのやりたいことだと思えません」

「え?」


 レイルの言葉にびっくりして顔を上げると、レイルは困ったように笑いながら話してくれる。


「あなたの体に旅の暮らしはとても負担になります。今より歳を取ればもっと体を大事にしなければいけない時も来ます。一人の人生が背負えるものは少ないんです。あなたの残りの人生を懸けても一番やりとげたいことを考えてみてください。それが僕らと一致するのなら、あなたを連れて行きます」

「……」


 レイルの言っていることはいつも私には少し難しい。

 だけど言っている意味は分かる。

 私のこの肉体はとてももろい。何度もいつ死んでもおかしくない状態になっていた。

 そうして私はもうとっくに決めていた。

 一番やりたいことは、ギデオンと共に、彼を笑顔にさせながら、普通の幸せを感じたいということだ。


「ゆっくり考えてくださいね」


 レイルが私の頭をぽんぽんと叩く。彼は最近私を子供のように扱うようになったと思う。

 ギデオンの隣に座り直すと、彼は私の肩を抱いて言った。


「アンジェリカが望むなら、旅に出ても構わない。体に負担は大きいだろうが」


 ギデオンは私の気持ちを優先してくれているけれど、本当は私の方がギデオンの気持ちを優先させたいのに。

 考え込んでしまった私たちに、ギルド長キリルが言った。


「今魔法研究所とも連絡を取ってるんだが、フローラが仲介してくれるというし、レイルも賢者の里に確認してくれると言っている。魔王の研究を進めたい。知りたいのはこれから未来の、また生まれてくる魔王のことだ。なぜ魔王が生まれ、その力で世界を汚染していくのか、分からないことばかりだ。けれど今回呪いの存在が明らかになって、対策の方法があることが分かったのはかなりの僥倖だ。このギルドですら、国との連携すらほとんど取れていなかった。けれどお前たちが来て、未来が開けたように感じた。それぞれの知見を合わせて、俺はいつか未来に、魔王の存在が脅威にならない世界が来ることを望んでいる。これ以上冒険者たちの死を見たくない」


 確かに、旅の間に、賢者の里でも魔法研究所でも、それぞれ魔王についての知見を持っていそうなことを見て来た。リリーの記憶を持つ私には教えてくれたけれど、連携などどことも取れていなそうだった。


「素晴らしいわ!そうよね。すごいわ。今回の討伐で分かったことが、未来のためにもなるのね」

「そうだ。討伐には出れなかったが、俺の仕事は、ここで、今の出来事を未来に引き継ぐことだからな」


 もう二度と、かつてのライラやリリーのような冒険者が生まれないなら、これ以上に素晴らしいことはないように思える。


「ありがとうございます。キリルさんのおかげで、私まで救われる気持ちになります」

「お前らしくないこというなよ。照れるだろ」

「ふふふ」


 どれくらい未来にまた新たな魔王が生まれてくるかも分からないけれど、その時には今ほど魔王の存在が脅威になっていないのかもしれない。


 そんなことを考えると、私は少しだけ明るい気持ちになれた。


「討伐に来れてよかったです。キリルさんに会えて良かったです」

「それは俺の方だよ。お前たちには感謝してる。いつでも連絡をよこせ。聞きたいこともあるし、もう盟友のように思ってる。結婚式も、するときは呼べ。王都に用事があるから、行けたら行く」

「え……」


 ギデオンに肩を抱かれて寄り添うように座る私に、彼はにやりとした顔で言った。


「上手くいって良かったな」

「付き合いはじめましたの。分かります?」

「むしろやっとか、と思ったくらいだ」

「……」


 そんなに私の好意は分かりやすかったのかしら。恥ずかしいわ……。

 顔を熱くさせてギデオンを見上げると、彼は涼しい表情でキリルに言った。


「俺のアンジェリカですからね」

「分かってるよ。うるせーな。ちくしょう、こんな良い女なのに、牽制が煩すぎて、ろくに声も掛けられなかったんだよ。こいつ面倒臭い男だぞ。本当にいいのか?」

「私にはギデオンがすべてなんです」


 幸せになってもらいたいのも、笑顔を見たいのも、彼だけだ。彼の為に出来ることを全てしたい。

 まだ分からないけど、そこに答えがある気がする。

 これからどうやって生きていきたいのか。


「分かってるよ。幸せにな。また改めて、お前たちのことを祝うよ」

「ええ、お世話になりました。キリルさん」


 最後に固い握手をして、私たちは別れた。

 宿への帰り道に最後の岩塩ステーキを食べた。


 魔の山のふもとの、この都市ともこれでお別れだ。

 もしかしたら体の弱い私は、もう二度と来ることもないのかもしれない。


 だって、魔王討伐の旅は、もう終わったのだから。

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