ANARCHY
臙脂を探し進むこと五分くらい。わかったことがある。
自力で脱出しやがった。
あの馬鹿勝手しやがって、黒との勝負に負けたら何をされるかわかったもんじゃあない。
俺は焦り、走り出す。一応他の牢を確認しながら。
なんで自力で脱出したと分かったか、それは臙脂の所有魔法故だ。
まず、地下牢に誰もいない。いた痕跡はある。おそらく脱出したのだろう。問題は次だ。この牢は贅沢なことに退魔鋼で作られている。それが焼き切られている。
魔素を弾く退魔鋼を焼き切るには魔力を使用せずに作られた超高温の炎が必要だ。そしてそれには巨大な設備と燃料が必要だ。そんな設備はどこにも見当たらない。あるわけが無い。
設備無しでやるには魔法の副事物として生み出した炎熱を使うか、超高速で擦るくらいしかない。
そして俺はそれを可能にする人物を一人だけ知っている。臙脂だ。そしてその魔法は対退魔光線術式という。
通常現代における魔法とは中つ国に由来するものがベースで、大気中の魔素を取り込みそれを体内の気と融合することにより魔力を生成、それをエネルギーとして、もしくはそれを以大気中の魔素に干渉し炎や風などの現象を発現させる。しかし、臙脂の使用する対退魔光線術式はどういう仕組みか生成した魔力を使用し、自然なエネルギーそのものを発生させるのだ。しかもそれに指向性を持たせ、完全に武器として使用出来る。開発したのは臙脂の祖母らしい。一言で言うなら天才だ。
正直俺は臙脂のこの術式も狙っている。機会があれば習得するつもりだ。
とまぁ、そんなことより、だ。臙脂のやつ囚われていた連中を解放しながら行ったということは玉狙いだ。
「上か」
小さく呟いて右手を上にかざす。
「大円状貫通術式!」
俺は気合を入れて天井に魔法を放つ。




