強くなる
「おつかれー、大丈夫なの? 寝てないでしょ」
ブラックさんはやる気無さそうに声をかけてくる。
「お疲れ様です。はい、昨日たっぷり休んでいるので、全く問題ありません。よろしくお願いします」
心配は不要だ。僕は強くならなければいけない。
「じゃあ始めようか。かかってきて、殺すつもりでね」
「え、殺すつもりで……」
いや、想像してたのと違う……
「大丈夫、絶対死なないから」
とりあえずやるしかないか。身体に魔力を巡らグェッ!?
……まただ。天地がひっくり返る。前回と違ったのは地面に叩きつけられる感覚があったという点だ。僕は無様に地面に転がった。
苦しい……マジかブラックさん、いきなり腹を殴ってきたよ。ランスで……胃が空になってしまった。
「まだいける〜?」
一分くらいだろうか、うずくまって痛みと吐き気に耐えていたらブラックさんが聞いてきた。
「大丈夫、です」
マジかよ……もうやめよう、辛いのは嫌だ。っていうのが本音だ。
「よっしゃ、そうこなくちゃね!」
その後もなんだか嬉しそうなブラックさんにボコボコにされ続けただけだった。
「ラッツ、大丈夫……ひどい顔してるよ、朝ごはんも食べてなかったし」
移動が始まってすぐに、スランが心配そうに声をかけてきた。それはそうだろう、徹夜明けでボコボコにされまくったのだから。ひたすら腹を殴られ続けて、もう体の中がグチャグチャにかき回されたような感覚だ。ごはんなんて気分にもなれなかった。
今日は野営の準備後に約束をしている。またボコボコにされるのかな……頼んだのはこっちだし、逃げる訳には行かないよな。
……守りたい人もいるし。
ここで僕は、襲撃の察知が遅れた理由を知った。
ニルが右側、ブラックさんの方に夢中だ。ブラックさんの方というか多分ブラックさんに夢中だ。よくよく思い返すと初日も向こうを向いていたような気がする……
おそらくあの時も向こうに集中するあまり探知が疎かになっていたのだろう。というかなんでブラックさんなんだ。顔では無いだろうし、話したりもしていなそうだ。やっぱり強さか、あの強そうな牛を従えているのがいいのだろうか……って、別にニルがブラックさんに気があるって決まったわけじゃないし!でも、それ以外に何があるのか……マジか。
どうやら僕は強くならなければいけない運命にあるらしい。
その時僕はスランのことをすっかり忘れてしまっていた。




