立たなくちゃ
「……ではレイさんとブラックさんは右側、僕とスランは左側を警戒、中央の守りは本隊が行ってくれるそうです。ニルは先頭の馬車で技能使って索敵ね」
配置の確認も済んだ。あとは何事も無ければ良し、有事の際はきちんと対処すれば問題ない。大丈夫、いつも通り上手くいく。不安はブラックさんがデカイ牛みたいなのを連れてきたことだけだ。あれに乗って移動する気だろうか。
馬車が動き出した。いよいよクエスト始まる。街を出たら速やかに配置について周囲の警戒だ。大丈夫。こんな街のすぐそばで襲ってくるやつなんていない。ゆっくり緊張をほぐしていこう。
街を出て1時間ほどたったが道中は平和そのものだ。街の外は見渡す限りの草原で見通しも良い。敵が潜んでいたとしても、魔法を使った擬態でもなければ目視で即発見出来る。魔法を使ったとしてもニルの探知に引っかかる。どうあってもこちらが後手に回ることは無い。
「敵襲!」
僕のやや後ろにいるスランが叫ぶ。
振り返るとスランの頭上には既に火の玉がいくつか浮かんでいた。近い! ゴブリンか、デカイのもいる。
「火球!」
スランの頭上の火球が勢いよく敵へと向かって飛んで行く。それを追うように僕も走る。
体全体に魔力を巡らせ、身体強化を行う。走る速度が増す。風を切る音が心を落ち着ける。いい感じだ。
抜剣、剣に魔力を流し魔法を展開する。
「炎纏!」
刃が炎を纏う。僕の故郷に伝わる無機物に炎を纏わせる民間魔法だ。剣の熱が手や顔に伝わってくる。
1匹目! 先頭のゴブリンに右からの大振りを当てる。走る速度を乗せた渾身の一撃はゴブリンの持つナイフ諸共肩口から脇腹まで胴体を両断した。
臭い。髪の毛を燃やした時の臭いがする。
次の獲物に狙いを定める。盾持ちのゴブリン。今斬ったやつよりも少し大きいか、問題ない。左下から盾を打ち上げる。そしてコンパクトに剣を喉へ向け刺突を繰り出す。ジュッと言う音と共にゴブリンの喉を貫く。
「グギギッ!」
まだ生きてるっ! ゴブリンに手首を掴まれた! 焦るなっ、大丈夫! 剣を捻りながら横に薙ぎ払う。ゴブリンは力無く地面に転がった……危なかった。
「ラァッツ!」
スランの声で我に返る。気を抜いていられる状況じゃなかった! 剣を握る手に力を込め直すと僕の目の前には2m以上あるであろう大型のゴブリン……ホブゴブリンがいた。冒険者から奪ったのか、鎧兜に両手剣を装備している。
……!
ギィィン! という金属音と共に天地がひっくり返る。ホブゴブリンの一撃で吹っ飛ばされたのか。
右腕の外側から思い切りぶっ叩かれたような衝撃。剣が間に入っていなければ最低でも腕は飛んでいただろう……いや、腕動かない、折れた?骨?筋肉?神経?ていうか立ち上がれない。待って、やばい。動けない。ホブゴブリン近づいてきてるって! 殺される! ニル! スラン! 助けて! やばいって! やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!
……て、素通り? ホブゴブリンはトドメを刺さないで馬車へと向かっていく。そっちはまずい!
立たなくちゃ……止めないと……馬車を……まも




