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[ヒント02]




 俺、鏑木進は懐かしい街を歩いている。


 時刻は昼食時。

 都会と呼ぶには閑静だが、閑散としていると言うには戸建ての整列の品が良すぎる住宅街。


 出掛けの食事は、およそ朝食と昼食の合間頃に摂取した。

 行き交うヒトらほど俺(と俺の家内)の胃袋事情は切迫してはいない。


 ゆえに、――休日に俺の用事に付き合わせてしまっている家内に、その用事を任せきりにするのも忍びないが、俺はゆっくりと、一歩一歩を愉しむように歩く。



「……、……」



 数年前、俺の親父が死んだ。後を追うように母さんも。

 猫は死に場所を選んで旅に出るなんて言うが、そういうのも案外スピリチュアルじゃないのかもしれない。母さんは、死ぬ数か月前から死ぬ準備をしていたように思う。つまり、そろそろ死ぬって分かってたってことだ。


 俺に、その兆しはまだない。

 娘を無事に社会人にして、俺自身は社会人から引退して、両親のいない世界が馴染んできてしばらく経つが、まだまだだ。エンドロールにはまだ早い。


「……、」



 ……だから、家に帰りたくないのもある。

 あそこはもう、エンドロールが済んでいる。家内ならまだ耐えられるだろうが、俺はどうしても劇中の光景を思い出してしまうのだ。連作の第一作目から見てきた駄作とは言い難いそのシネマは、付き合いが長い分登場人物にも感情移入をしている。あんな小さな家の、雑に置かれたセット一つにも思い出せる笑顔がある。


 いや、笑顔じゃなくてもいい。なんでもない平日の夕食終わりに、晩酌しながらバラエティ番組を眺めている親父のぽわぽわした表情でも、雨の日に向けて小言を呟きながら室内に洗濯物を干す母さんの後ろ姿でも、なんにせよだ。どこを見ても、あの家には何かしらの思い出がある。


 エンドロールを直視すると、ああ言うのがもう二度と見れないんだって事実も同時に直視しなきゃいけない。実家の整理なんてそもそも一人でするもんじゃないだろうが、やはり家内が来てくれたのは助かった。


 ……アイツ、すげぇ勢いで進めててくれねぇかな。

 それでもう終わってるとかあったら、全然俺この後焼肉連れてくんだけどなぁ。




「……、」


『Riri..』




 と俺が黄昏ていると、SNSの通知音。

 サボりすぎて文句の連絡かと身構えると、通知の名前は家内ではなく娘であった。




『高いもの食べるなら、私がいる時までとっといてね』




 ……あいつ、お父さんの知らないうちに超能力者になりやがったのか???






 ◆◆◆◆






 苛立ちを込めてスマートフォンを仕舞いこんだ少女の前では、未だ友人がケラケラと彼女を指さして笑っていた。



「やめて。もう笑わないで。怒るよ」


「アンタほんと、察しが良いふうで詰めが甘いよね! この問題を解いたらこういうオチになるって思わないで話し始めたんだもんね! あったまわるぅい!!wwww」


「しばくよッ!!!!」


「wwwwwww」



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