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これからも、ずっと・・・

作者: 田中タロウ

「春・・・出会いの季節・・・彼氏ほしー!」

「美香ってば最近そればっか。私達受験生なんだよ?そんな暇ないでしょ」

「サナはいいよねー。あんな素敵な彼氏がいるんだもん」

「・・・それって蓮のこと?」

「当たり前でしょ。超かっこいいよね、岩城君」


私は苦笑した。

家が隣同士の岩城蓮は確かに「素敵」だけど私の「彼氏」じゃない。

ただの幼馴染。


蓮はイケメンだし、空手強いし、口は悪いけど優しい。

それに勉強だってすごくできる。


蓮は「貧乏人は勉強ぐらいしかすることない」なんて言ってるけど、

私は知ってる。


蓮の家はお金はないけど、本当は大学に行きたいんだ。

いい高校行って、いい大学行って、いい会社入って、いっぱい稼ぎたいんだ。

そしてお母さんに早く楽をさせてあげる・・・それが蓮の夢。


小学校の卒業アルバムに「将来は大企業に入りたい」って書いて

みんなに笑われてたけど、それは蓮の優しさ。



私は机の上の教科書に視線を落とした。


蓮はどこの高校行くのかな?

やっぱりトップのS高かな?

それとも空手の特待生で私立かな?


どちらにしても私は一緒には行けないだろうな。



私は物心ついた頃からずっと蓮のことが好きだった。

大人になったら蓮のお嫁さんになるんだって本気で思ってた。

蓮もそう思ってるんだって信じて疑わなかった。


でも成長するにつれ、

幼馴染でいつも一緒だからって相思相愛になって結婚するなんて

そんなことほとんど有り得ないってわかってきた。


それでも私は蓮が好きだった。



中学1年の終わりごろ、偶然、蓮がすごくかわいい先輩に告白されてるのを見てしまった。

照れくさそうにしてる蓮を見てられなくって、

なんて返事するのか聞くのが怖くって、

私は走ってその場を逃げた。


結局、蓮は先輩とは付き合わなかったみたいだけど、

その時初めて、疑問に思った。


私って蓮のなんなんだろう・・・


当たり前のようにいつも一緒にいるけど、

「好き」とか「付き合おう」とか言ったことも言われたこともない。


それ以来、私は蓮のこととなると悪い想像ばかりした。


蓮が他の女の子と話してるのを見ると、

「ああいう子がタイプなんだ」って思ったり、

私といる時より楽しそうな顔で男友達と話してるのを見ると、

「私のことなんてどうでもいいんだ」って思ったり・・・


私って嫌な奴だ。




ピンポーン


夜の7時。

家のチャイムがなった。


扉を開けると、


「腹へったー。今日の飯なに?」


と、無邪気な顔をした蓮が入ってきた。


うちも蓮のとこも母子家庭で、お母さん達は夜も仕事をしている。

だから夕ご飯は蓮と二人で食べることが多かった。

作るのはもちろん私。

蓮に「おいしい」って言ってもらいたくって、

料理だけは本気で頑張ってる。


今日は蓮の大好きなオムライスだ。



「おー。うまい!ありがとな」


嬉しそうにパクパクと食べる蓮を見てると、こっちまで幸せな気持ちになってくる。



「蓮ってやっぱりS高ねらうの?」

「うん」

「蓮なら絶対受かるよね。S高に入れたら、きっと大学もいいとこいけるよ。

そしたら大企業就職も夢じゃないね」

「・・・それって小学校のアルバムの話?」

「そうだよ」

「そんなもん、よく覚えてるな」


覚えてるよ。当たり前じゃん。


「そういえば、サナは『お嫁さん』って書いてたよな」


え?覚えてるの?


「あれはうけた。幼稚園の卒業アルバムじゃあるまいし」


蓮は楽しそうに笑った。


本当は「蓮のお嫁さん」って書きたかったんだけど、

さすがに恥ずかしくって書けなかったんだ。


「サナは?」

「え?」

「サナはどこの高校受けるの?S高?」

「無理だよ、S高なんて。受かるわけないでしょ」

「なんでだよ、一緒にがんばろーぜ」


なんでそんなこと、さらっと言うかな?

蓮は、別に高校まで私と一緒じゃなくてもいいでしょ。

隣に住んでるんだから会いたきゃいつでも会えるし、

夕ご飯くらいちゃんと作ってあげるよ。


そんな自虐的なことを考えてたら泣きそうになった。


「・・・考えとく」


そう言うのが精一杯だった。


涙をこらえて俯いてると、視界の中で何かがスッと動いた。


気がつくと・・・


目の前に蓮の顔があった。



あれ?


私、もしかして今キスされてる?




時が止まったみたいだった。


一瞬にも永遠にも感じるキスの後、蓮がつぶやいた。


「なんでそんなこと言うんだよ」

「・・・」

「今までもずっと一緒だっただろ。これからもそうじゃないのかよ?」

「・・・」

「って、そう思ってるのは俺だけ?」


蓮が切なそうな顔をする。



胸が詰まって言葉が出てこなかった。

だから私は返事のかわりにキスで答える。


ずっと一緒だよ、これからも、ずっと・・・




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