人殺しのスタートダッシュ
「ここ、どこだ?」
僕が目を覚ますと目の前には大きな瞳の修道女がこちらの顔を覗き込んでいた。
「わぁ!すいません」
勢いよく起き上がるとその修道女に思い切り頭突きをかましてしまった。
「痛っ!何するんですか!あなた朝来たらここで寝てたんですよ!?」
身に覚えのない服を着た僕が周りを見渡すとゼウスの絵や像がたくさん置かれた気味の悪い空間にいた。
「ここは地獄ですか?」
修道女に尋ねると彼女は怒り出して僕の顔にグーパンチした。
「なんですかあなたは!?朝礼拝に来たら鍵を閉めたはずの聖堂で寝てるわ起きるなりゼウス様を侮辱するわ、これ以上のゼウス様への侮蔑は許しませんよ!」
「そうか、アイツは神とか言ってたな」
「ゼウス様をアイツ呼ばわり!?」
修道女はステッキのような物で僕の身体を突き、聖堂から追い出した。
「裸で聖堂で寝てたから服まで着せておいてあげたのにゼウス様を馬鹿にするなら二度と来ないでください!」
「ちょっと待って!」
僕の言葉は受け入れられずに聖堂の大きな扉が閉まった。
僕は指先に力を入れる。10時間50分(ゼウス様への侮辱行為マイナス1時間)
「アイツ器ちっさいな!」
そう叫ぶと聖堂の窓から空き缶が僕の頭に投げつけられた。
「痛っ!なんだよあの女!」
ふと空き缶を眺めると見た事のない文字が書いてあるが読める。
「この世界の言語か?見た事ないけど読める」
僕は周りの文字を探しながら練り歩く。
どうやらこの街はゼウス教という宗派の街らしい。小さな街だが、宿屋もレストランもムカつく聖堂もあるのに1人も人がいない。一文なしの僕が行ける場所などほとんどないのだが。そんなうちに1時間が経った。
「残り10時間か、何すればいいんだよ」
目の前にポイ捨てされていた紙屑を近くのゴミ箱に入れるとタイマーにプラス1秒と表示された。
「オイ!兄ちゃん!逃げろ!」
そう言われて屈強な男から腕を引っ張られた。
「なんですか突然!」
「ティフォンの使いが攻めてきたんだよ!」
「はぁ…」
言われるがまま屈強な男の必死さに負け、ついていった。
近くの山の山頂まで逃げると街に向かって兵士の様な奴らが歩いてくるのが見える。
「兄ちゃんこの街来るのはじめてか?半年に一度この街にはティフォンの使いが街を壊しに来やがる」
「あの兵士達がですか?」
「アレは兵士なんてもんじゃねぇ、バケモンだ」
「街の人達はどうしたんですか?」
「今日街にいる命知らずなんてお前さんくらいだよ!何やってたんだ!」
「いや、聖堂に修道女が1人いましたよ」
「あー、そうか」
屈強な男は頭を抱えている。
「そいつはすまねぇがもう助からねぇ、兄ちゃん命拾いしたな」
「今から助けに行けば間に合うんじゃ…」
「違うんだよ、この街の修道女は生贄みたいなもんだ。いつも他所の街からゼウス教の修道女を生贄に呼んでくるとは聞いた事があったがまさか本当だとはな」
僕の指先が突然震え出した。
(緊急ミッション、彼女を救え!成功+3日失敗−10時間)
「おじさん悪いね、今から彼女を助けてきます」
「止めはしねぇけど兄ちゃんも死ぬぞ」
「悪いね、行っても行かなくてもこちとら地獄行きでね」
僕は山道を降り、聖堂へと向かう。
聖堂の扉には外鍵がされていた。
「なんだよこれ!人を1人見殺しにするつもりだったのかよ!」
僕は扉の鍵を壊し、中に入った。
「あなたは!?」
修道女が再び怒りの顔を向けてきたが、腕を引っ張った。
「何するんですか!今度はか弱い女子に暴行ですか!最低ですねあなたは!」
「最低でもいいから来い!アンタに死なれるとこっちが困るんだよ!」
しかし、外には兵士が数人立っていた。
「はっ!?」
修道女は動けないでいる。
「オイ!逃げるぞ!」
逃げようとするが、聖堂は兵士に囲まれていた。
「なんなんだよアンタら!何が目的で街に来たんだよ!」
兵士達の中に1人だけ違う鎧の者に問いかけた。
「お前らゼウス教は異教徒だ、異教徒を正して何が悪い?」
「こんなか弱い女子1人殺したところで何にもならないだろ!」
「今年はコイツか」
兵士の言葉の意味はすぐに理解できた。
「そうかよ、こんな街壊したきゃ壊せよ。だがこの女は貰ってくぞ」
「小僧一人で何ができる、しゃべるのも飽きたからそろそろ死ね!」
兵士が槍で僕の身体を貫こうとしたが、槍が身体に当たった瞬間に槍が砕けた。
「な、なんだお前!?」
僕は自分でも何が起こったのかわからなかった。
後ろにいた兵士がド○ゴンボールのスカウターのような物で僕を見ている。
「こ、コイツ!4人も人を殺してやがる!」
「な、なんでそれを!」
すると兵士の大半は武器を捨てて逃げてしまった。
「ゼウス教はコイツのような人殺しがいるのか!」
「そうだよ、俺は4人もの人間を殺した!それがなんだ!」
兵士達は全員逃げるように帰って行った。
僕は修道女に手を伸ばす。
「もう大丈夫だよ」
修道女は怯えた目で僕を見ている。先ほどの怒りの目ではなく恐怖の対象として。
「人殺し、バケモノ!私を好きなようにしたらいいじゃない!」
僕は確かに人殺しだ、仕方ない。拒絶されるのも仕方ない。わけのわからない機械でバレたのも仕方ない。この腐った街で兵士の慰み者として差し出されようとしていた女に軽蔑されても仕方ない。タイマーが0になるから仕方ない。なら亜里沙に会うためなら何をしても仕方ないよな?
「おい女、名前はなんて言う?」
「人殺しに名乗る名前なんて…」
「良いから言え!」
「ロ、ローラです」
「おいローラ、お前は俺について来い。ついてこないならお前の家族も友達も皆殺しにする」
「酷い、なんて事!」
「黙ってついて来い!」
僕の目に浮かべる涙を見て彼女は言葉を発するのをやめてついてきた。
「あの…貴方の名前は?」
「人殺しの名前に興味あるのかよ」
「お名前を教えてください」
「青山類、ルイでいいよ」
残りタイマー3日2時間32分