人殺しのプロローグ
「96番!出ろ!」
看守の声が薄暗い監獄に鳴り響いた。
「やっと死ねるんですか?」
「今日、お前の死刑が執行される」
「案外早かったですね、だいたい2年くらいですか?」
「戯言はいい!とっとと行くぞ!」
看守はこちらに目を合わせないで僕を連れていった。
仏間のような部屋に通され、机の上には菓子類やタバコなどが置かれていた。
「少し時間をやる、菓子を食ってもタバコを吸ってもいいぞ」
チョコレートの個包装を剥いていると部屋の奥から神父のような格好の男が出てきた。
「はじめまして、そして永遠にさようならかな?」
「なんですか、これから死ぬのに話すことはありませんよ」
「お前、後悔はしているか?」
「別に、まぁ僕は死ぬべき奴だとは思いますよ」
「まぁ、4人殺したら仕方ねぇわな」
「最期に説教なんて聞きたくないんですけど」
「いいじゃねぇか、俺はお前の事嫌いじゃないんだぜ」
「僕は初対面ですけどあなたの事は嫌いです」
「そう言うなよ、確かにお前さんのした事は許される事じゃねぇ。4人を滅多刺しにしたんだ。そんな奴は生きていていいわけがない。この世界ではな」
「何が言いたいんですか?」
こんな会話をしていると奥の方から黒いスーツの人間がぞろぞろやってきた。
「そろそろ時間だ、行くぞ」
「じゃあ、僕はこれから死ぬんでサヨナラですねクソ神父」
神父は僕の元に近寄ってきて僕の口に薬のようなものを入れ、耳元で囁いた。
「これで扉へは行ける、後はゼウスに祈れ」
「はぁ?何を言って…」
僕が言いかけるのを無視して黒服達は奥の部屋に僕を引っ張った。
「達者でな〜」
最後に見たのがよくわからない神父と言うことが心残りだが、やっと死ねるという安堵もあった。
僕の首にロープが回された時にその安堵が覆った。
(あんな奴ら死んで良かったんだ、これで良かったんだ、だけどもう一度願いが叶うならアイツに会いたいな)
「最期に言い残すことはないか?」
何もなかったが、神父の声が頭に浮かんだ。
「ゼウス!もう一度!もう一度だけでいいからアイツに、亜里沙に会わせてくれ!」
「執行!」
ドスンと言う音と共に身体中に衝撃が走った。
死んだはずの僕が目を覚ますとそこは天国のような心地よい空間だった。
「お前、後悔してんじゃねぇかよ」
そこには先ほどのうざったらしい神父がいた。
「俺はゼウス、全知全能の神だ」
「はぁ?アンタはよくわからん神父だろ」
「あの世界ではな、さっきも言ったが俺はお前さんの事が嫌いじゃない。だから少しだけチャンスをやろうと思ってな」
「チャンスも何も僕はもう死んだんですよ、今更何を」
「これからお前が向かうところは天国でも地獄でもない、異世界だ」
「異世界?僕に剣や魔法で戦えってか?」
「戦って世界を救え、そしたらお前にもう一度亜里沙に会わせてやる」
「くだらない冗談はやめてくれ!亜里沙はもう死んだんだよ!お前に何が…」
「言っただろ、俺は全知全能の神ゼウスだ。不可能な事は一つもない、お前の魂をとある世界に送りつけた。左手の指先に力を集中させてみろ」
「はぁ」
言われたとおりにやってみると空間上にタイマーのようなものが現れた。
「それはゼウスタイマーだ!」
僕はゼウスになんだそのダサい名前はというような表情で睨む。
「なんだそのダサい名前はという問いには答えられないが、これはお前さんの寿命だよ」
タイマーは12時間と書いてある。
「ちょっと待てよ、半日だけ生きてたって何の意味もねぇよ」
「これから行く世界でお前が善行をする度にタイマーは伸びるが、悪行を働く度にタイマーは減少する、まぁタイマーは何もしなくても減ってくがな」
ゼウスは僕の顔を指差した。
「向こうの世界でこのタイマーが切れる前にティフォンという奴を殺せ、それができればお前の魂を現世で幸せな家庭の元転生させてやる。亜里沙とやらとも会わせよう」
「ゼウス、嘘じゃないよな?冗談なら僕はお前を殺す」
「殺人鬼の殺すは笑えないぞ?冗談じゃないが、タイマーが0になるとお前は地獄行き。二度と亜里沙とやらには会えんぞ」
僕は決意した。亜里沙に会えるならなんでもすると。
「わかったよ、さっさとその異世界とやらに送ってくれ!」
ゼウスは突然杖のようなものを掲げて叫んだ。
「我が名は全知全能の神ゼウス!この者を異世界アシリギへと転生させる!」
僕の身体がボロボロと崩れていく。
「じゃあ達者でな、○○○」
「なんだよ、名前知ってたのかよ」