97 in小国家連合王国
「次の者前へ」
ネイト達は国境に来ていた。諸島連合国の方の国境では書状を見せたら印籠の如き効き目ですぐに通されて、今は小国家連合王国の中の一番諸島連合国に近い小国の国境に来ていた。
小国家連合王国は連合王国になった今でも、小国同士の通行にも国境の関所がある。
イギリスのような連合王国ではなく、EUのような体制である。
これ以上ここをつついても、良いことにならない予感がするので、この話は終わりだ。
「身分証を出してくれ」
その言葉に各々が身分証を出す。さらに
「これは連合議事会の書類だ。これも一応見せた方がいいか?」
ネイトの言葉に国境守備隊の兵が
「なに?見せてくれて」
兵が書類を見た後
「少し待ってて欲しい」
そう言い離れていった。
「余計に時間が取られたかもしれん。悪いな」
ネイトは謝ったが
「まぁ、悪い様にはならないから良いんじゃない?」
「そうです!それにネイトさんは何も悪くないです」
「先輩。気にしない」
3人から励まされた。
暫くすると先程の兵が立派な鎧を着た兵を伴って戻ってきた。
「まずはこちらをお返しする」
そういって書類が手元に返ってきた。
「サインも印も本物だった。質問だが、どちらに向かわれるおつもりか?」
それにはケイトが答えた。
「この国は諸島連合国と友好国だと伺っています。
私達は旅の間に手に入れた品を売り歩いています。
ですので王都か大きな街でバザーを開きたいと思っています」
「そうか!では、是非王都に行って欲しい!
こちらは私からの紹介状の様なモノだ。
兵士や門番に見せたら大抵の場所はすんなり通れるはずだ。活用してくれ。
どうだ?」
「どうだと言われてもな…」
ネイトは上役の兵の言葉に押されていたがケイトが
「何か理由があるのですね?私達は急ぎではないですが旅の途中です。差し支えなければ理由を教えてください」
ケイトは遠回しにこの国を無理して通らなくてもいいんだぞと兵に訴えた。
「実はあるお方が腕利きの者を探していてな。出来れば連合議事会から推薦を受ける様な人であるネイト氏に、そのお方にあって欲しい。
もちろん我が国は他国の人に無理強いはしない。
とりあえず話だけでもくらいの気持ちで王都へ向かってくれないか?」
ネイトは全員の顔を見るが誰も否定的な表情ではなかったので
「わかった。とりあえず行ってみるよ。もちろん話しを聞くだけだがな」
その言葉に兵は喜んだ。
「その推薦状を王都の兵に見せれば伝わるはずだ。
よろしく頼む」
兵は最敬礼でネイト達を自国へ迎え入れた。
街道を行く馬車の中で
「ケイト。どう思う?」
「別に何も思わないわ。ネイトの力を疑う事は無いし、集めた情報からこの国が私達に何かするとも思えないわ。ただ冒険者への依頼ではなくて強者への依頼という事が、少し引っかかってけど。
それでも悪い事ではないと思ってるわ」
ケイトに相談して良かったとネイトは思うが、初めからケイトに任せてしまえばよかったとも思った。
「先輩。気にしすぎ。もっとどっしり構えてて」
後輩から厳しい言葉をもらい
「ネイトさん。お気楽な旅なので楽しみましょ?」
カーラから慰めをもらった。
ここはまだまだ諸島連合国と変わらず魔物が少ない。初日は野営をして、翌日初めて小国家連合王国の町で泊まることになった。
「ここまで来ると内陸部って感じね」
「そうね。植物も海側とは違うわね」
「何だか蒸し暑いな」
「新鮮」
ケイトとカーラはこれまでとの違いを探して、ネイトは湿度にゲンナリして、ライザは目を輝かせた。
宿にて
「ここではバザーをしないのか?」
「そうね。王都まですぐだからいいのよ。一番物価の高いところで売った方がより稼げるわ」
ネイトの疑問にケイトが答える。それを聞いたネイトは、たしかに王都フランクリンも物価が高かった事を思い出した。主に宿代だが。
「夕食はどうする?」
「私はこの町を見学したいから別行動にしない?」
ケイトの提案にネイトは
「ここは諸島連合国じゃないぞ?いくら他国民に優しいとはいえ、治安はわからないぞ?」
「確かにそうね」
ネイトのもっともな意見に少し考えたケイトは
「じゃあ、色んなモノを見たい私とライザちゃんで行動するから、ネイトはカーラをよろしくね」
「確かにライザなら並の男なら大丈夫か…
わかった。じゃあ、夕食は別行動だな」
もちろん一番喜んでいたのは何も口を出さなかったカーラだった。
もちろんライザも新しいものが見える期待感に喜びが表情に出ていた。
もちろんネイト達に何かあるはずもなく、強いて言えば久しぶりに二人きりになれたカーラが普段より良く喋っていたくらいだ。
ケイト達は町での暮らしを見学したり、珍しい果物が成る木を見せてもらって、収穫の手伝い、味見もさせてもらい大満足だった。
四人が宿に帰る頃には日も完全に落ちていた。
「あら?貴方達も遅かったのね」
宿の前で偶然鉢合わせた四人はそれぞれの出来事を語りながら部屋へと戻っていった。
「もう少しで王都よ」
ケイトの言葉に馬車の中で仮眠をとっていたネイトをカーラが起こした。
「ネイトさん。王都に着きますよ」
「ん?カーラか?ありがとう」
カーラから水筒の水を貰い、喉を潤したネイトは馭者席へと移動した。
「あれが王都か」
ネイトの呟きに
「正確にはこの小国の王都ね。小国家連合王国の王都は、その時の代表が治める国の首都を王都と呼ぶらしいわ」
「ん?じゃあ首都か?」
ケイトの答えに疑問が出た。
「それはそうだけど、言ってはダメよ?
この小国に住んでる人達からしたら自分の国が一番なのよ。だから自分の国の王様が連合王国の代表ではなくとも王都と呼ぶそうよ」
「何だかめんどくさいな…」
小国家連合王国内のどの小国でも自分達が一番だと見栄を張る文化はネイトには理解出来なかった。
「ネイトさんこう考えてみてはどうですか?」
カーラの説明は、見栄を張っているのではなくて愛国心が強いと考えろと言う事だったが、ネイトにしてみればどっちもどっちだった。
賑やかな4人を乗せた馬車は王都とへと着いた。
「次の者前へ進んでくれ」
門番に促されてケイトは馬車を進めた。
「何をしに王都へ?」
門番の質問にネイトが
「これを見せたら伝わると聞いたが」
と言って紹介状を差し出した。
「これは…!?少し待っていてくれ」
そう言って門番は走り出した。
「大丈夫か?」
「大丈夫でしょ」
ネイトは不安になるが、仲間達は落ち着いていた。