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諸島連合国内の旅は順調に進んだ。

散発的に魔物が出てきたが元々魔物が少ない土地の為、ライザの練習台になっただけであった。


目的地である小国家連合王国はレイカード王国の南に位置している。

5つの国からなる連合王国であり、国力は全てを合わせるとレイカード王国より少し大きい。

もちろん纏りに欠ける為、実際に争えばレイカード王国が勝つと言われている。

元々は海から船で迂回して向かおうと話し合ったが、海運組合で聞いたところ北から迂回するのは荒波の影響で船が出せない、南からは小国家連合王国よりさらに南にある未開の半島を越えなくてはいけない。未知の海域である為こちらも断られた。

小国家連合王国は名前の通り連合国である。帝国が出来る前は日夜統一戦争に明け暮れていた。その為、連合王国の代表争いは熾烈だ。どこの小国も譲る事を知らない。

連合王国の代表が決まっても小国内ではそれぞれの国王が取り仕切っている。

帝国が好戦的でなければ、連合王国などではなく統一戦争が続いていた事だろう。

その様に不安定な情勢だが、他国民(ここでは小国家連合王国以外の人)には寛容だ。

もし、他国民のなんらかの影響で外国が支援してくれたらその小国家が覇権を握れるかもしれない為、自国民に他国民には良くしろと教育していた。



そんな不安定な小国家連合王国に帝国の影が忍び寄る。


「いいか。我々の目標は内戦を勃発させる事だ。

各々が散らばり各地で火種を撒くのだ」


ぱっと見、普通の年寄りに見える男が人相には似つかない言葉で周りの村人の様な見た目の者達に指示を出した。


小国家連合王国では帝国の諜報機関が暗躍していた。







昼頃、ネイト達は国境の前の町に来ていた。人口一万未満の町で、相変わらず穏やかな国風が流れていた。


「明日には国境を越えて小国家連合王国に入るわ」


「そうか。ライザのお陰で順調に来れたな」


「…そうですね。ライザちゃんが野営であんなに活躍するなんて…予想外です」


「褒め過ぎ。先輩の指導の賜物」


普段はケイトにおんぶに抱っこだった野営はライザのお陰で分担出来て、普段より豪華な食事にありつけた。

褒められたライザは口調とは裏腹に表情は満面の笑みだ。

カーラは…ネイトを取られない様に頑張れ…


「そうね。ライザちゃんのお陰で料理に集中出来たのは良かったわ。

カーラも料理くらい覚えないとネイトを取られるわよ?」


「私はネイトさんと一緒に美味しいものを楽しむタイプだから良いのよ!」


ケイトが飽きもせずカーラを揶揄い、ネイトはカーラの手料理も食べてみたいが今の分担に不満はない。


「カーラにはカーラのいいところがあるんだ。あまり揶揄うな。

もちろんケイトの負担を減らせたらそれに越した事はないが」


珍しく揶揄われているカーラをフォローしたネイトに


「確かに揶揄いが過ぎたわ。ごめんねカーラ。つい、反応が可愛くてね。

でも私は好きでしてるから負担じゃないわよ?もちろんライザちゃんが手伝ってくれるのは嬉しいからありがたいけどね」


全く反省の色が見えない謝罪だったが、これでネイト達はうまく行っているのでいいのだ。


「今日はこの後、私とカーラはバザーを開くわ。

あなたたちはどうするの?」


ケイトの言葉にカーラが付いてきて欲しそうに見つめるがそれに気付いているのか気付いていないのか、ネイトは


「宿に広い中庭があるからライザに稽古をつけようと思っている。

もちろんライザが良ければだがな」


それを聞いたライザは


「先輩!お願いしますっ!」


食い気味に答えた。しかも珍しく敬語で。

がっくり肩を落としたカーラを連れてケイトは宿を出て行った。





中庭にて

「ライザは俺と同じで速さを活かした戦闘スタイルだから、それを活かせる形にしようと思うがどうだ?」


「うん。お願い」


ライザの返事を聞いたネイトは、ネイトの剣よりも短い短剣を使っているライザに、それに見合った型を教えることにした。


「教えるのは型だが、冒険者の相手は人だけではない。もちろん戦う場所も色々だ。

そういった事はこの場では教えれないから旅の途中に都度教えていく。

まずは型だが、上半身だけでなく下半身にも気を遣ってくれ。

とりあえず、足捌きの型から教える」


「わかった」


ネイトは力強い足捌きではなく、とにかく速さを重視した移動法、どんな体勢からでも同じ速さを繰り出せる技法を教えた。

もちろん楽園(エデン)で覚えたネイトと違い、ここには無限の体力も、無理した動きでも痛めない身体もない。

ネイトが剣聖から伝えられた初歩の動きを教えるに留めた。


「よし。それでいい」


ネイトの声にライザは


「でも。全然出来てない」


悔しそうに答えた。


「いや、十分だ。

ライザは俺が言った事を俺以上に理解している。

まだ身体がついていっていないだけで、ライザのやっている事は何一つ間違っていない。

これから空いた時間に訓練すればライザならきっと出来る様になる。

次はそれに素振りをつけようと思う。

いいか?」


「まだ足捌きが出来てない。けど、その先も知りたい」


ネイトを見つめる瞳は向上心に溢れていた。


「よし。それが理解出来ているから俺も教えられる」


ネイトはすぐに理解して愚直に取り組むライザに、無理をさせないようにと気を遣いながら教えるペースを考えた。

理解が早いと教える方はついつい度を越してしまう。そうならないように自分を戒めたネイトはすっかり一端の指導者だった。






ライザへの指導はケイト達が帰ってくるまで続けられた。

ただライザは一度教えたらすぐに物事の本質ごと理解してしまうので、それに身体が追いつくまでネイトは教える事はなかった。

たまに『重心は少し右寄りで』程度の確認だけだった。


「へえ。流石ライザちゃんね。ネイトが剣のことで褒めたのなんて、数える程も無いのじゃないかしら?」


「そうね…私なんて褒められたことないわ…」


ネイトからライザの話を聞いてケイトは素直に褒めて、カーラはバザーの売れ行きが良くて疲れたこともあり自虐的だった。


「何を言っている?カーラにはいつも助けられているし…綺麗だと褒めたことは沢山ある…」


ネイトは段々声が小さくなる病に罹った。

それを耳聡く捉えたカーラは


「ネイトさん!ありがとうございます!ネイトさんにずっとそう言ってもらえるように頑張りますね!」


顔を赤くしながらテンションが天元突破して答えた。


「カーラお姉ちゃん。なんか怖い」


ライザは引いていた。





ライザが加入して、より賑やかになった女子会にネイトは早々に布団に潜った。

翌朝訪れる新天地に、想いを馳せながら各々が夢の中へと旅立った。


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