94 大人の対応
無事に合流したネイト達は与えられた部屋で談笑していた。
「私達の事はもういいのよ!それよりもネイトはどうだったの?」
「俺の方は特に何もない。強いて言えば海賊探しに時間がかかったくらいだな」
「そうなのですね。よかったです」
ネイトの答えにカーラが安心したが
「カーラはネイトが海賊から助けた女性がいたら言い寄られるから心配だってうるさかったのよ」
「もう!ケイト!内緒にしてって言ったじゃない!」
ネイトは少し後ろめたかったが、別に言い寄られていないと思い直して女性達の事も伝えた。
もちろん何もなかった事を強調して伝えた。
ネイト達が談笑している間に海軍は順調に女性たちや海賊の持っていた物を回収していった。もちろんその中には顎を砕かれた海賊も含まれている。
コンコン
ノックの音にネイトが応えた。
「艦長が会いたいそうなのでご足労願えますか?」
扉越しに掛けられた言葉に
「わかった。3人で行くがいいか?」
「はい」
3人は扉を開けて軍人の後をついていく。
「休んでいるところ済まないな」
先程ネイトを迎えにきた男が待っていた。
「いや、大丈夫だ。それより話しはなんだ?」
ネイトの催促に
「ネイト殿が捕らえた海賊から聞いた話しの確認をとりたい。
少し尋問みたいな言い回しになるが許して欲しい」
そう言った艦長はネイトに質問を繰り返した。暫くすると確認も終わり話しは海賊達の事へ。
「そうか。あれで全てだったか」
「捕まったあの海賊が嘘を言う理由がないから間違いないだろう。
それと今後の事だが、ネイト殿にはこのまま連合議事会のある首都に我々と共に向かって欲しい。
いいだろうか?」
Noとは言えない誘いだが、ネイトは一応二人に確認する。
「良いわよ。島は巡れたし船旅も出来たわ」
「私はネイトさんについて行きます!」
それを聞いた艦長は
「私にも年頃の娘がいるが、ネイト殿はどうやら売り切れのようだな」
そう言って艦長は笑うが約一名の視線が鋭くなった。
軍艦の船旅は快適だった。この地域でも珍しい鉄で出来た外装や搭載されている武器をネイトは物珍しそうに見て時間はあっという間に流れた。
「なんだか凄く久しぶりな気がするわね」
「そうね。またケイトが散財しないように見張らないとね」
どうやら今度はカーラが揶揄う番のようだ。
ネイトは仲の良い事は嬉しいが冗談についていけない為、静かに二人について行く。
預かってもらっていた馬車と荷物を受け取り、一行は連合議事会のあるエリアを目指した。
連合議事会が開かれている建物に着いたネイト達は案内に従い部屋へと入室した。
「ネイト氏が参られました」
案内人の声に部屋にいた人物達がネイトを見る。
室内には円卓があり三席以外が埋まっていた。
「どうぞ皆さまお座りください」
一人の人物がネイト達の着席を促した。
ネイト達が座ったのを見計らって話しが始まった。
「では、報告をお願いします」
その言葉に円卓とは別の位置に控えていた艦長が報告を始めた。
その後に進行役と思われる人がネイトに確認をとった。
全ての話しが終わった時にネイトが待っていた話になる。
「では、ネイト氏。貴方をこの度の功績からAランク冒険者に推薦します。
もちろん我が国として出来るのは推薦までですので続きはギルドマスターであるシシー氏から聞いてください」
そう言うと今度は円卓の外で静かにしていたシシーが立ち上がり説明を始めた。
「ネイトさん。この度は海賊を壊滅してくださりありがとう。
Aランクになるにはギルドにそれだけの貢献をした冒険者のみです。
失礼な言い方になりますが、諸島連合国議事会に恩が売れるので十分その資格はあります。
ただAランクになるにはある条件があります。
それは…」
シシーの言葉にネイトは集中した。
「世界冒険者ギルド本部に行く事です」
それを聞き、ネイトはよくわからなかった。
「ん?どう言う事だ?本部とやらに行けば良いだけか?」
「正確には違います。Aランクの昇格を認める事が出来るのは本部だけなのです。
昇格試験もありますが、試験は大した事はないです。
問題は本部がかなり遠いと言うことです」
シシーの言葉に先に反応したのはカーラだった。
「ネイトさん。Aランクの昇格条件は末端であった私は知りませんでしたが、シシーさんの言う通りであれば世界冒険者ギルド本部が遠いのは間違いありません。
ここからでは少なくとも二つ以上の国を跨がないと行けません」
カーラのセリフに
「あら、そちらのお嬢さんはギルドの関係者かしら?
お嬢さんの言う通り、ギルド本部がある国へはいくつもの国を跨がないといけないわ。
冒険者ギルド本部がある国は永世中立国であるリンクという国です。
そこにあるギルド本部に私と連合議事会の書類を提出する事がAランクの試験を受ける試練になります」
「期限は?」
「それはありません。あくまで試験ではなく試練ですから」
その後、細かい説明を聞いた3人は今日の宿泊するところへと向かった。
「本当に世話になって良いのか?」
「もちろん。感謝の印でもあるけど娘も楽しみにしているからな」
ネイトの言葉に答えたのは冒険者の後輩のライザの父であるガウェイン・マーチスだった。
ガウェインの屋敷に部屋を借りたネイトは久しぶりにライザと話をする。
「先輩。久しぶり」
ライザは相変わらず言葉足らずだ。
「久しぶりだな。登録以来か?その後はどうだ?」
「順調。今Eランクでもう少しでDランクになる」
言葉は少ないが表情は豊かでそれが冒険者としての自信を表していた。
「凄いじゃないか!俺もやっとランクが上がる目処がたったところだ」
二人は冒険者談議に華を咲かせていて、いつもは嫉妬するカーラが何故か余裕の笑みを浮かべていた事に不思議に思ったケイトは
「あら?心配じゃないの?」
「いつも嫉妬していたら面倒臭い女だと思われるじゃない!だからここは大人の余裕を出してるのよ」
「でも、ネイトが女性と楽しく話しているのは私も初めて見たわ。
…あら?余裕の表情が消えているわよ?」
結局揶揄われていた。
その後、書類が出来るまで1週間ほど待つことになった。その間にリンク国までの情報を集められるだけ集めたネイト達だった。
この後にカーラに事件が待っていた。