93 断末魔の雨
あれから2日たったがネイトは未だに海賊の痕跡すら見つけられていなかった。
「ここも空振りか」
あれから二つの無人島に寄ったが海賊はいない。
「次の候補に向かいますか?」
「そうだな。他にアテもないし頼む」
「次の候補は沢山の小さな島に囲まれた無人島なので、船が揺れます」
船員の言葉の後すぐに出港した。
「ど、どうしますか?」
「一先ずここに隠れていよう」
ネイト達は次の目的地で海賊を見つけた。
今は周りの小島の陰に船ごと隠れている。
だが、ネイト達の予想より海賊達の規模が大きかった。
「凄い数の船ですね…小船だけで20艘はありますよ」
「大型の船は上手く島と島の間に隠していますね」
「そうだな」
二人の言葉にネイトが返すと
「どうやって帰ります?今出ると間違いなく見つかりそうですが…」
ネイト達がここに来た時は船は少なく、海賊には見つからなかったが、少し確認していたらいつの間にか戻ってきた海賊船で溢れてしまって抜け出せなくなってしまった。
「見つからずに出る事は不可能だな。
俺たちは逃げ出せるが、海賊達も見たかった事がわかってせっかく見つけたのに逃げてしまう」
ネイトの言葉にがっかりする二人。そんな二人に解決策を提示する。
「だから、俺が一人で乗り込んで殲滅する。
二人はどさくさに紛れて連合国海軍に報せに行くんだ」
「ダメです!そんな事をすればネイトさんが…」
「そうです!一緒に逃げましょう!海賊達はまた探せばいいじゃないですか!」
普段静かな船員もネイトを止めた。そんな二人にネイトは
「安心しろ。俺はやられない。だが、海賊達の後始末は俺だけだと時間がかかり過ぎるから応援を呼んでおいてくれ」
ネイトの自信に満ちた言葉に二人は頷くしかなかった。
二人と別れたネイトは海賊達のアジトに近づく。
十分に近づいたネイトは岩陰から海面に手を触れて魔法を行使する。
『ウォーターアロー』
数十の水の矢が海の中を音もなく船に近づき船底に穴を開けた。
小さな船から声が上がったのを確認してネイトは海賊達に近寄り
ヒュン
「ぐえっ」
斬り伏せていった。
ネイトが容赦なく海賊達を斬り伏せたのには理由があった。
元々は出来るだけ捕らえようと考えていたが、海賊達のアジトから女性達の悲鳴、泣き声が聞こえた。
カーラの事があり、ネイトにはそう言う行いをする人達に掛ける情けはなかった。
後、人質にとられても不味いとは少し思った為でもある。
鬼神の如きネイトの猛攻に海賊達は冷静になる前に斬り伏せられていく。
船に穴が開けられていた為、そちらに気を取られている海賊も多かった。
「全員降りてこい!今、投降するならこの場での命は助けてやる!」
女性達の身柄と安全を確保したネイトは海に並び浮かぶ船にそう伝える。
暫くすると逃げ出そうとする船が出た。
『ファイヤーボム』
爆炎の魔法が逃げ出そうとした船を爆発炎上させた。
「見たか?逃げ出そうとしたら海の藻屑となるとしれ!
大人しく降りてくるならこの場で殺さないと約束しよう!」
もう一度大声で投降を促した。
すぐに続々と船を降りる海賊達。しかしその手には武器が握られていた。
「貴様!この数を相手できると思っているのか!
俺たちの中には元高ランクの冒険者もいるんだぞ!
貴様の方こそ大人しく捕まれば悪い様にはせん!」
大勢の海賊が臨戦態勢なのを良いことに、強気に出る海賊達だが
「俺は大人しくといったろ?武器を手放さなかったという事は、死んでもいいと言う事だと解釈したがいいな?」
海賊達も馬鹿ではない。むしろ賢いからここまで海軍から逃れていた。
捕まっても良くて縛り首だ。ならこの場でネイトという強敵を倒せる方に賭けるのは至極当然の結果とも言えた。
「不意をついて仲間をやったくらいで調子に乗りやがって!
お前ら行くぞ!生き残ったら分け前が増えて丁度いい!
掛かれっ!」
海賊がネイトを取り囲んで一斉に飛び掛かるが、ネイトは剣を一閃しただけだった。
不可視の斬撃が海賊達を襲った。
「「「ぎゃあぁぁ」」」
先頭の方にいた海賊達は腑を撒き散らせながら倒れた。
それを見た無事な海賊達は逃げようとするが
ヒュン
「があっ」
ヒュン
「ぎゃっ!?」
ヒュン
「足がぁ!?」
無事に逃げられたものはいない。
ネイトはわざと生き残らせていた、先程ネイトに啖呵を切った男に近寄る。
「ま、まて!悪かった!そうだ!お前も雇われているんだろ?
金と女達をやるから見逃してくれ!」
男は沢山の部下や仲間が死んでも往生際が悪く、ネイトに助命を乞う。
「お前は殺さないでやろう。但し、洗いざらいこれまでしてきた事をはいてもらう」
ネイトはそう言うと少し安堵した表情の男の元へ一瞬で詰め寄り、顎を砕いて意識を絶った。
海賊を倒し終えたネイトは女性達の元へと行った。
「奴らは殺した。仲間が応援を呼んでいるからもう安心して良い。
他に奴らがいるところを知っているか?」
身を潜めていた女性達の中から一人が出てきて
「ありがとうございます。普段は島の中に見張りが何人か散っているようでした」
それを聞いたネイトは気配察知を行うがそれらしい気配はなかった。
ネイト達が島に近づいた時も用心を重ねて気配察知をしていたが何も反応はなかった。
「そうか。ありがとう。全員倒したと思うから大丈夫だろう。
万が一生き残りがいたところで数百の海賊を倒した俺に勝てるとは思えないしな」
女性達を安心させる為にネイトは珍しく強さをアピールした。
「はい。見ていましたからそれは疑いようがありません」
どうやら囚われていた女性達のリーダー的な人はこんな状況でも冷静なようだ。
「とりあえず助けが来るまでは時間がかかるだろうから、食事と寝床の準備をしたいが手を貸してもらえるか?」
「みんなどう?私は手伝うけど」
リーダーの女性が他の女性達に声をかけた。
みんなが動ける様なので、それぞれ分担しながら夜を越す準備をした。
無事に翌朝を迎えた一行の元に迎えがやってきた。
「ネイト殿と見受けるが相違ないか?」
海軍の軍服に身を包んだ長身の男がネイトに声を掛けた。
「ああそうだ。あそこに見えるのが囚われていた女性達だ。
小船か?」
ネイトの疑問は男達が乗ってきた船が10人乗りくらいの小さい物だったからだ。
「大型船はこの中には入らないからな。海賊達は岩礁の位置を全て把握していたから入れたようだな」
「そうか。海賊達の船は見ての通り半分沈没している。
荷物には一切手をつけていない。食料には手を付けたが」
「はっはっはっ!そんな事を疑ってはいないぞ?
それに連合議事会が出した依頼は海賊の調査で、盗まれた物については一切触れていない。
すべてネイト殿が手に入れてもこちらには思うところはないな。
むしろ見つけるどころか殲滅してくれてありがたい。海軍を代表して礼を言わせてくれ」
男の物言いからどうやら海軍のお偉いさんらしい事を知ったネイトは
「あまり大袈裟にしないで欲しい。あくまで依頼を受けたただの冒険者だからな」
いつも通り事がデカくならないようにしようとするネイトだが…
「ネイト殿もお疲れだろう。後の事は任せて欲しい。
仲間の二人も沖合いに停泊している海軍の軍艦に乗っているから先に戻っておいてくれ」
そう言うとネイトを小船に案内した。
小船に乗り、軍艦を目指していたネイトの前には鉄の塊があった。
「鉄なのに海に浮かんでいる?」
呆気に取られたネイトは船員に促されて乗船した。
「ネイトさん!!」
まだ呆気に取られているネイトの胸にカーラが飛び込んだ。
最近も感じた柔らかさだが何故か懐かしく感じてネイトはカーラを優しく抱きしめた。
「見せつけてくれてご馳走様」
ケイトの言葉に現実に戻されたネイトは中々離れないカーラを離してケイトに向き直った。
「二人はよくこの船に乗れたな」
「それは簡単よ!カーラが海軍の人をナンパし…冗談よ。剣を仕舞いなさい」
ネイトは知らぬうちに剣を抜いていた。
「それにどの海軍さんかわからないでしょ?
戻ってきた貴方と一緒にいた船乗りさんに話を聞いて、この船に乗せてもらったのよ」
「よく乗せてもらえたな」
「それはもっと簡単よ。貴方のグリード船長の手紙を使ったのよ」
ネイトはああ。と返事をした。カーラの心変わりがなかったとわかったネイトは落ち着いたが、カーラはそうではなくケイトはドヤされるのだった。