92 連合議事会ミッション
「また海運組合が世話になったようだな」
前回と同じ船長のゴモックがネイト達が乗船して暫くしてから話しかけてきた。
「ただ依頼をこなしただけで変わった事はしていない」
そう言うネイトだが、仕事をして感謝される事に喜びを感じていた。
そしてこれからも困っている依頼があれば受けようと思うのだった。
「そうか。だが、船乗りが助かったのは事実だ。
この話の後には切り出しづらいが…」
口籠るゴモックに
「なんだ?」
「実は本土に戻った時に連合議事会からネイト宛に手紙を預かってな…これなんだが目を通してくれ」
ゴモックに渡させた手紙には
『マーチス氏からの推薦でこの手紙を送らせてもらった。
今貴公が航海している海域には巨大な海賊団がいる。
もちろん国として討伐に当たっているが、どうやら情報が漏れているようで、尻尾を掴ませない。
海賊の塒(この場合、海賊の住処を指す)の調査を依頼したい。
もし、有力な情報を持ち帰った暁には、連合議事会の連名でA級への推薦状を書くことを約束しよう。
なお手紙でのやり取りの為、断った場合のペナルティはない。
受けてくれる事を祈る。
連合議事会 一同より』
それを読んだネイトは
「ケイト達はどう思う?」
「私はもちろんいいわよ。お金もあるし、どうせ断ってもネイトが生活費を出すしね。
貴方に任せるわ」
「私も大丈夫です。むしろ応援しています!」
それを聞いたネイトはゴモックに答えを返す。
「この国には世話になっている。受けよう」
「済まない。もう返しきれない恩があるがネイトが受けてくれるなら助かる。
奴らは沢山の船乗りを死へ追いやった。俺に出来る事があるならなんでも言ってくれ!」
ゴモックの言葉に、それならとネイトは海賊の情報を聞いた。
シシーにも頼まれていた事もあったが、何よりもここまで良くしてくれていた船乗りや漁師達の為にネイトは気合が入った。
「この後の事はどうするの?普通に船旅をして海賊が現れるのを待つのかしら?」
船室に入ったネイト達は今後の予定を話していた。
「いや、ゴモックさん曰く、海賊は客船を兼ねた船ではなくて完全な輸送船を襲う様だ。だから何処かのタイミングで船を乗り換えて調査に向かう。
一応それも頼んでおいた」
二人はネイトの言葉に頷く。
「だが二人はこの船か、別の島で待っていて欲しい。
わざわざ危険を犯す必要は無いからな」
その言葉にカーラは足手纏いにしかならない事に唇を噛み締めた。
「カーラ。ネイトは私達の事を足手纏いなんて思っていないわよ。
危険な事に巻き込みたく無いだけだわ」
カーラの気持ちを汲んだケイトが伝えた。
「そうだぞ。カーラは他のことで十分力になってくれている。
むしろ旅を待たせて申し訳ないくらいだ」
ネイトの言葉に
「済みません…では、無事を祈っていますね」
「ああ。今回は調査だけだから危険な事にはならないと思うから心配無用だ」
その言葉は二人には信じられなかった。
「いや…ネイト。今までの事を棚に上げるのは無理があるわよ?」
「そうですよ…絶対何か起きます」
色んな意味で信頼されていた。
諸島連合国の海域には、多くの輸送船が毎日行き交っている。
船旅のロスを減らす為に海運島と言われる、積荷を入れ替える為の小さな島があった。島の半径は長いところで300m程だ。
そこは大型船がそのまま寄港する事が出来る為、多くの船が出入りしていた。ネイト達が乗っている大型船も例に漏れず寄港した。
「良かったのかしら?お別れのキスもしなくて」
ケイトに揶揄われてカーラは顔を真っ赤にした。
「今生の別じゃないのよ!」
「あら?そう言っているけれど、ずっと抱きついて離さなかったのは誰かしら?」
ネイトはすでに二人とは別行動に入った。この島にある大きめのボートを借りる事が出来たのだ。
ボートを動かすのは二人の船員。それもゴモックの手配ですぐに決まった。
ケイト達は次に寄る島でネイトを待つ事になった。
「よろしく頼む」
「はい!グリードさんの恩人は私達の恩人でもあります!それに海賊の対策までしてくれるんです!ネイトさんの役に立てるのであれば頑張ります!」
ゴモックに紹介された船員は二人とも二十歳くらいと若く、片方はお喋りで片方は大人しいコンビだった。
「海賊を探すのにどこに行けば良いのかもわからないから二人に任せていいか?」
「はい」
「もちろんです!」
3人はボートに乗り込み大海原をいく。
「あの」
出港後静かな方の船員がネイトに尋ねた。
「どうした?」
「失礼な質問ですが…この辺りでも海の魔物が出ます。
このボートは小回りでスピードが出るので海賊からは逃げ切れますが、魔物から逃げれません。
大丈夫でしょうか?」
「おい!グリードさんの恩人に失礼だぞ!」
お喋りな方の船員が口を挟むが
「構わない。当然の意見だ。
だが、安心して欲しい。これまでにも海の魔物は沢山討伐してきた。
言葉では安心出来ないと思うからこれからの行動で示していく」
「そうですよね…すみません。私達の為の依頼なのに余計な事を言ってしまい」
「気にしてないからそっちも気にするな」
静かな船員を何とか納得?させてネイト達は海賊を探す。
暫く海を探すがもちろん簡単には見つからない。
他に情報はないかネイトは二人に聞く事にした。
「なあ。海賊のアジトの候補はないのか?」
二人は暫し考えた後
「一応いくつかはあります。ですがこれまで連合国海軍が調査に乗り出しても全て空振りしています」
(情報が漏れているのは間違いなさそうだな)
「ですが、間違いなく近くにアジトはあります。この辺りの有人島には海賊がいない事は確認されているので無人島をアジトにしていないとは考えられません!」
力強い言葉に
「じゃあ、候補の無人島に向かってくれないか?」
「わかりました!」
この辺りの無人島は岩礁が沢山あり大型の船を近づけづらい為、無人島のままのようだ。
ネイト達が乗っているボートであれば、岩礁の位置を詳しく把握していなくとも島に寄ることが出来る。
海賊はその辺りを上手く使い、調査から逃げている。
「必ず見つけましょうね!」
賑やかな船員の言葉にネイトは頷きを返した。




