91 釣り名人
ネイトは護衛依頼がもう一つあると思い、ギルドに行ったが同一の魔物が原因だった為、依頼はなかった。
と、いうわけでネイトはカーラ達と行動を共にする事にした。
「ネイトさん!釣り船に乗せてもらって晩御飯を釣りに行きませんか?」
カーラの提案にネイトは二つ返事で応えた。
釣り船の予約は海運組合で行うようで3人は訪れた。
「ネイトさんであれば喜んでお受けしますよ!」
普通であれば天候や船乗りの予定もあり前日までに予約しておかなければならないらしいが、ネイトに恩がある海運組合は当日のそれも今からと言う注文にも快く応えてくれた。
「危なかったわね。良かったわねカーラ」
「そうね。まさか前日予約が必要なんて知らなかったわ。危うく恥をかくところだったわ」
カーラはネイトの予定がすぐに空くとは思っていなかった為、あまり情報収集をしていなかった。
「こちらが釣り船になります」
海運組合に案内された船は先日に乗った小舟の3倍くらいの大きさの船だった。
「あっ!あちらがこの船で釣り場に案内してくれる漁師さんです」
こちらに近づいてくる男を見て海運組合の職員が伝える。
漁師に些細を伝えた後、職員は戻っていった。
「あんたが魔物を倒してくれた人か!助かったよ!今日はよろしくな!」
「ネイトだ。よろしく頼む」
「ケイトよ」「カーラと言います」
「さすが英雄様だな!美人を二人も連れているなんてやるな!」
漁師のおっさんに揶揄われながら3人は船へと乗り込む。
「きゃっ!」
カーラが揺れる船に足元をとられて転びそうになるが、ネイトが受け止める。
「大丈夫か?」
「はい!不安なので掴まっていても良いですか?」
上目遣いにネイトをお願いするカーラはやはり小悪魔だ。
(やるわねカーラ。私もレイナードさんがいたら…)
変なところを感心し出したケイトだった。
しかし、何事も上手くはいかない。
ネイトが釣り上げたところをベタ褒めする作戦を考えていたカーラだったが…
「ネイトさん!網をお願いします!」
「わかった」
カーラが爆釣りしていた。
「カーラ。あなた商人ではなくて漁師が向いているのじゃない?」
「お嬢ちゃんすげぇな。海に愛されてる奴がいるって死んだじーさまが言っていたけど…お嬢ちゃんみたいな人のことだったんだなぁ…」
もはや3人で釣りをのんびり楽しむのではなく、漁師を含めた3人がカーラの補助をしていた。
「これ以上は船に積めねぇから早いけど引き上げるぞ」
漁師の言葉に楽しむはずが途中から流れ作業の様に働いていた二人は漸く解放されると安堵した。
カーラは
「まだまだ釣れそうですが仕方ないですね」
やはり天職を間違えていた。
「ネイトさん聞きましたよ。すごい釣果だったらしいじゃないですか!やはり高ランクの冒険者はなんでも出来るのですね!」
海運組合の職員に褒められるが
「いや、俺じゃない。こちらのカーラがすべて釣り上げた」
申し訳なさそうにカーラが縮こまっている。
「そ、そうなのですね。やはりお仲間も只者ではなかったと言うことですね!」
島の英雄を何とか持ち上げた職員だったが、当のネイトとカーラは居た堪れなかった。
ネイトが冒険者ギルドに釣りすぎた魚をお裾分けに持っていっている間、ケイトとカーラの会話。
「夢中になってやり過ぎたわ…」
「まさかカーラにあんな隠された才能があったなんてね。
ネイトは終始ドン引きだったわ」
「う、うそ…どうしよう…」
ひとしきりカーラを揶揄ったケイトは
「ふふっ。冗談よ。ネイトがカーラに引くわけないじゃない。それに沢山魚が釣れて嬉しそうにしてたわ。
貴女の次にね!」
結局最後までカーラを揶揄った。
「本当に宜しいのですか?」
ネイトが海運組合に戻ってきてから職員に釣った魚のほとんどを町の人に振る舞って欲しいとお願いした。
「俺たちでは食べきれないからな。それに漁師でもないのに大量の魚を卸すのはな」
「いいのよ?気にしなくて。私達は美味しい海鮮が楽しめたら良いのだから」
「はい!急な事に対応して頂いたので、そのお返しです!」
こうして3人はまた伝説?を築いていくのであった。
大量の魚が手に入った海運組合は養殖が再開された事を祝って参加費無料の祭りを急遽開く事にした。
もちろん3人は強制参加だが、喜んで参加した。
「凄い人だな。こんなにいたのか…」
ただで海鮮が食べれるとあって町の人が多く集まった。
レンガで囲んだコンロを作ってその上に網を置いてあるものが沢山設置されていた。
どうやら食材を自由に取って、自分達で焼いて食べるシステムのようだ。
暫くすると海運組合の職員と思われる人が急遽設けられた特設ステージに上り、話し始めた。
「本土から来てくれた高ランク冒険者のネイト・スクァード氏のお陰で、養殖が再開される事となった!
それを記念して祭りを開催する事となった。
さらにはネイト氏の仲間が組合に沢山の魚を提供してくれた事で町の人達に振る舞う事にした!
みんな!今日はたくさん飲み食いしてくれ!そして、ネイト氏とその仲間の偉業を讃えるんだ!
ネイト氏に祭りの開催の挨拶をしてもらう!」
急に呼ばれたネイトはどうするか迷ったが
「ネイトさん!頑張ってください!」
「乾杯の挨拶をするだけだから気負わない様にね」
二人から背中を押されてステージへと上る。
「紹介されたネイトだ。この島の魚と貝は素晴らしい。
それを食べさせてくれるこの町に感謝して挨拶とさせてもらう。
乾杯!」
町の人達から沢山の拍手とエールを貰ったネイト。
無難に挨拶を終えたネイトが戻ってくるとカーラが
「ネイトさん!沢山焼きますね!」
そう言って山となっている食材置き場へと向かっていった。
3人は満足いくまで食事を楽しんだ後、宿へと帰った。
「明後日の朝にはこの島を出る事になるわ」
「そうだな。明日はのんびりと過ごして次の船旅に備えるか?」
「そうしましょう」
ネイトとケイトが予定を立てたら
「流石のネイトさんでも、もうこの島では何も起きないですよね?」
カーラはフラグを立てた。
が、3人の心配を他所に何事も起きずに出港の朝を迎えた。