87 人は見かけによらない
海運組合の職員に促されて席に着いた3人に、職員の男性は説明を始める。
「まず、海運組合について説明します。
基本当ギルドは船で物や人を運ぶ事を仕事にしています。
他には漁船なども組合に加盟しています。
皆さんは客船としてご利用される事と思いますが身分証はお持ちでしょうか?」
そう聞かれた3人はそれぞれ身分証を出す。
「Bランク冒険者の方は大丈夫ですが、商人組合の身分証だけでは外国の方は乗船出来ません」
それを聞いた二人は
「そこをなんとかしていただけないかしら?」
「私達に出来ることはしますので」
二人はそう言うが職員の反応は悪い。
「すみません。許可が降りづらいのは、外国の商品が流れたり、海運技術の流出を防ぐ為です。
後は、海賊への情報流出ですね。
この取り決めは私の一存では…」
そう言った職員の言葉を止めたのはネイトだ。
「これでどうにかならないか?」
そう言ってネイトが出した物はグリード船長の紹介状であった。
「これは…。少々お待ちください」
そう言うと職員の男性は席を立った。
残された3人は
「そういえばそんなものが有ったわね」
「これで乗れるといいのですが…」
ケイトが思い出し、カーラはネイトが常に側にいる船旅がしたい。
「船長の人望に期待だな」
ネイトはそういうと黙った。
暫くすると職員の男がやってきて
「お手数ですが組合長が皆さんに直接話しを聞きたいそうです。ですので着いてきてください」
3人は職員に着いて行った。
ガチャ
ノックもなく扉を開き中に入る職員に続く。
「こちらの方達です」
「よく来られました。どうぞ座ってください。
君も座りなさい」
奥には机と椅子がありそこに座っていたであろう男性がそういい、ソファーとテーブルがあるところへと近づき、ネイト達の着席を促した。
ネイト達は3人で一つのソファーに腰掛けて、対面には職員の男性と室内にいた組合長らしき人が腰掛けた。
その50代中頃に見える組合長らしき男が
「早速ですがこちらの紹介状は…」
話しの続きを促した組合長らしき人にネイトが
「俺がグリード船長からもらった物だ。なんでも、この国内であれば自由に船に乗れると言われて渡された」
「そうでしたか。グリードさんが…」
組合長らしき人が呟いてそして
「挨拶が遅れました。私は海運組合の組合長をさせて頂いているマイケル・ガリレイと申します。
以後お見知り置きを」
マイケルの名乗りを聞いて3人はそれぞれ自己紹介をした。
その時にネイトはグリードに紹介状を貰った経緯も伝えた。
「そうでしたか。ネイトさん。ありがとうございました」
そういい深々と頭を下げた。
「ん?お礼を言われる筋合いがあったか?」
訝しげなネイトに
「グリードさんには多大な恩があります。私だけでなく、この国の船乗り達はみんな恩を感じている事でしょう。
恩人を救ってくれた貴方も私達からすれば恩人です」
「そうか。いきなりで悪いが俺たちの願いは一つだ」
それを聞いたマイケルは
「はい。3人の乗船を認めます。こちらの紹介状は是非持っていてください。他の港でも力を発揮してくれる事でしょう」
そう言い紹介状をネイトに渡した。
「いいかしら?」
ケイトが話しに入る。
「ええ。どうぞ」
「私達はグリード船長が何故恩人なのか知らないの。良ければ聞かせてくださらないかしら?」
それを聞いたマイケルは
「話せば長くなるので詳細は省きますが、
グリードさんは元組合長です。現役の頃、国に殆どの権限がありましたが、それに不都合を感じた船乗り達をまとめ上げて今の組合があります」
マイケルは一呼吸置いて
「もちろん組合自体は昔からありましたが、政府の天下り先になっていて、現場の事は蔑ろでした。
グリードさんは殆どの船乗りを纏めて、半ば国を脅す形にはなりましたが、多くの権限を勝ち取られました。脅す形になった事の責任を取って自身は辞職されました。
船乗りや船を持つ人はその恩恵でかなり自由な商売が出来る様になり、恩を感じていらっしゃると思います。
かく言う私もです」
話しを聞いた3人は『あんな人が?』と、かなり失礼な事を思っていた。
「聞かせてくれてありがとうございます」
ケイトが礼を言った。
「他に何かわからないことや知りたい事はありますか?」
組合長の言葉にカーラが
「船には馬車は乗せれますか?」
「申し訳ないが馬車は乗せられませんな。
良ければこちらで預かることは出来ますが…」
ケイトが食い気味に
「お願い出来るかしら?料金はいくらほどかかりますか?」
「他にも馬は預かってますから飼葉代が頂ければいいですよ」
3人は二つ返事でお願いした。
他にはないということで、この場はお開きとなる。
「この者が必要な書類を纏めます。ご足労頂きありがとうございました。
案内しなさい」
組合長はお礼を言うと隣で話しを聞いていた、職員を促した。
「手続きは以上でお終いです。明日の朝、港にお越しください」
職員はそう言うと頭を下げた。
3人は用も済んだ事で海運組合を後にした。
宿に帰った3人は明日からの旅の為に早めに寝た。
この街には夜の静寂は決して訪れない。波音がこの街の住人の子守唄になる。




