85 その量は無理
荷運びの依頼を受けた冒険者3人が引いていた物は
「これはソリという物です。この国では砂浜の移動時に物を乗せて運ぶのに使います」
ルースの説明に
「そうなのか。みんな少しずつ形が違うが同じ用途か?」
「そうですね。殆どのものが馬や牛に引かせるタイプです。僕たちの持っているものは、車輪の取り外しが出来るもので、街中では車輪を取り付けます」
ルースの説明を聞いたネイトは
「わかりやすい説明ありがとう。また分からないことは聞いて良いか?」
「もちろんです!」
ルースが元気よく応えた。
「あと、3人に言っておくが俺は歳は15だ。
同じくらいだろ?敬語はやめてくれないか?」
その言葉に3人は頷き、了承した。
目的地へと着いたネイト達は
「いやーBランクの手伝いって聞いた時はどんな人が来るかドキドキしたけど、ネイトで良かったわ!」
この馴れ馴れしい言葉はマイクだ。
ネイトの為人がある程度わかるとお喋りなマイクはずっと話しかけてくる。
他の二人は
「おい!マイク!いくらネイトがいい奴だからって、格上なんだからもう少し敬え!」
ルースが叱責して
「マイク。五月蝿いと嫌われるよ」
静かなデュークがトドメを刺す。
その3人のやり取りをネイトは少し羨ましそうに見るが、ケイト達といる時のやり取りとそう大差ないと思い直して依頼に取り組む事にした。
「俺たちの馬はあの小屋で休ませているから、獲物が狩れたら連れてくるよ」
そうルースがネイトに伝えた。
「そうか。てっきり人力かと思ったが流石に馬だよな」
ネイトの言葉に復活したマイクが
「聞いたぞ!鬼魚を引き摺ってギルドまで運んだって!そんな事が出来るのはBランク様だけだぞ!」
ネイトは勢いに負けて苦笑いで返した。
「じゃあ、着替えて行ってくる…どこで着替えるんだ?」
ネイトの疑問に答えたのは物静かなデュークだ。
「僕たちくらいの年齢ならここで裸で着替えても問題ないよ」
それを聞いたネイトは躊躇なく着替えた。
「よし。待たせる事になるかもしれないが済まんな」
暑い砂浜の上で待つ事になる3人に最初に謝罪する。
「もう季節的にピークを過ぎているから、このくらいならいくらでも大丈夫だよ」
ルースがネイトの気遣いに返事をした。
それを聞いたネイトは海へと向かった。
「そもそも海が2回目って言ってたけど大丈夫か?」
マイクの心配に
「大丈夫だろ?Bランクだぜ?」
ルースが自信なさげに答えて
「僕達じゃ測れない」
デュークが締めた。
3人の心配を他所にネイトは沖合100mに居た。
そこで気配察知に集中すると沖に出た事でいくつかの反応を拾った。
一番近い反応の所まで泳いでいったネイトは
「移動しているな。生きているのだから当然か…」
先日の鬼魚はあまり動かない魔物だったが普通は動いている。
「仕方ない。行くか」
覚悟を決めて近づく
「この下辺りだな」
そう言うとネイトは水中に潜った。
(あれか!)
近づいたネイトが見た魔物は
(蛇?にしては太いな)
ウツボの様な魔物だった。
全長5m太さは丸太くらいだ。
(どうやって狩ろうかな?やはり無属性か…
いや、効率重視で水魔法で倒したいな)
そう考えたネイトは作戦を練る。
ここで余談だが、水魔法で水を生み出すのには普通の労力がかかる。すでに存在している水に水魔法を掛けるほうが労力が少ない。
ネイトは魔法の細かい調整が苦手だが、かと言って無限の魔力もなく、魔女曰く及第点の魔力らしい。
但し、楽園では魔力も無限であり、通常では考えられない効率で練習した事により、魔力の量は普通でも魔力の質はとんでもないことになっている。以上。
(ウォーター・ストーム)
余談の間に詠唱を済ませたネイトは魔法を行使する。
ウツボの魔物はネイトの作り出した水流に飲まれて掻き回される。
暫くすると浮上したネイト側に渦が巻き起こり中から気絶しているウツボの魔物が出てきた。
「うおりゃあ」
ウツボの魔物の首を抱き締めたネイトは力を込めて抱きつくと魔物の生命反応が消えた。
「ふぅ。この方法は魔力の節約にはなったけどあまりしたくないな」
そう呟いたネイトは魔物を引き連れて陸へと向かった。
陸の3人組
「なあ」
「なんだよ」
「あれなんだ?」
マイクの指の先を見つめると
「なんだ?黒い丸太か?」
ルースが答えるが
「違うでしょ?グネグネしているから木じゃないよ」
デュークが答えた。3人はもう少し近づくまで答えはわからなかった。
ネイトが砂浜に着くと
「待たせたな」
そう言いながら獲物を引き摺って近づくと
「なんだよそれ?!」
マイクが叫んだ。
「何って魔物だろ?蛇みたいだよな?」
ネイトの答えに
「うん。魔物だね。これを運べばいいの?」
デュークが冷静に聞いてくれたので
「頼む」
ネイトがそう言うと3人が動き出した。
マイクは馬を引き取りに行き、ルースはロープを準備している。デュークはソリを連結していた。
「ここに乗せればいいのか?」
二人が動かなくなったのでネイトは問いかけた。
「お願い出来るか?」
ルースが願い出たので
「わかった」
そう言うとネイトは2台が連結したソリに魔物を乗せた。
暫くすると、マイクが馬を引き連れて戻ってきた。
3人で手際よく馬とソリを繋いだ。
「ここにデュークを荷物番として残して、俺たちはギルドに納品に行ってくるよ」
ルースがそう提案してネイトは
「わかった。俺はまた潜ってくる」
そう言うとデュークをその場に残して、3人はそれぞれの目的地に向かった。
ルース達が戻ってきた時
「おい!?あれはなんだ!?」
マイクの大声にルースは
「…魔物の山だな」
対照的に消え入りそうな声で呟いた。
二人はデュークに近寄り声を掛けた。
「これはなんだ?いや、これはどうした?」
ルースが言い直して疑問を伝えた。
「ネイトが狩ってきた魔物だよ。ずっと同じペースで増えてる。早く運んでって」
デュークの物言いに
「早く運べって言ったってなぁ?俺たちだけじゃ無理だから次を運んで行くときにギルドに聞いてみるよ」
珍しくマイクがマトモな事を提案した。
それに気付かないくらい3人は驚き、思考が定まらないのだ。
「ん?少し減ったか?」
ネイトが戻ってきてデュークに問いかける。
「そうだよ。さっき二人が戻ってきて、2回目の運搬に出たよ。
あと、助っ人を頼むって言ってた」
その言葉に
「それは仕方ないな。シシーさんが上手いことしてくれる事を祈ろう」
それを聞いたデュークはシシーさんって誰?と、思ったが聞く前にネイトは海に消えた。
次にネイトが海から砂浜へ戻ると、そこは賑わっていた。
「また増えるぞー!ネイトさんはこっちへ獲物を置いてくれ」
知らない男性にネイトは頼まれてソリへと獲物を乗せる。
すぐ側にデュークがいたので聞くことにした。
「この人達が助っ人か?」
そう言ったネイトの周りにはデュークの他に3人の男達が忙しなく動いていた。
「そうだよ。今、ソリで出てる人も三組いるから全員ではないけどね」
「シシーさんが手を回してくれたか」
ネイトの呟きに
「シシーさんってギルドマスターの事だったんだね。まだ増えても問題ないって伝言がギルドマスターからあったみたいだよ」
デュークの言葉を聞いてネイトは
「まぁ、まだ泳ぎの練習中だから構わんが…」
ギルドマスターの人使いの荒さに、魔力が持つかな?と、本心は疲れていた。
茜色に空が色付く前に、ネイト達は今日の狩りを切り上げた。